表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/23

冒険11―決着、そして再会






深夜…普通の人々や魔族たちは既に夢の中へと旅だっている頃。

空は黒に染まり、雲が月を覆い隠して光を遮っているからか、ストラト山は闇に包まれていた。

そんな中、密かに戦いのための準備を整える影が四つ。


「ティアラ…アンタは戦わなくても良いんだぞ?」


ソウマは慣れない手付きで防具を装着するティアラに向かってそう言った。

職人としては一流でも戦いに置いては違う…余りにも不安だったから聞いたのだ。


「いや、アタシも行くぜ。他人任せは症に合わないからな」

「だが…」

「盗賊の雑魚共なら倒せる…心配すんな」


そう応えるとティアラは再び防具を着ける事に意識を戻した。

どうやら、これ以上は言っても無駄のようだ。

不安は在るが、説得を諦める事にする。


だが…この時、ソウマの不安はティアラについて以外にも在った。

嫌な胸騒ぎがする…何を不安に思っているのか、なぜ胸騒ぎが起きているのかは分からない。

もしかしたら…作戦はまた後日に決行した方が良いのかもしれない、とまで考えてしまう。


「どうした?」


険しい表情で考え込んでいるソウマを心配してか、ラウナが声をかけた。


「いや…妙な胸騒ぎが…」

「大丈夫だ、気にするな」


ラウナは重々し気に言葉を発したソウマの肩を軽く叩き、安心させるように言う。

ラウナの表情には不安気な色は無く、心配した様子は無かった。


「初めて奇襲として攻めるからな。不安なのだろう」


仕方が無いな、と言わんばかりに得意気に言う。

そういう訳ではない…確かに奇襲なんて今までに経験もない…けれど、この胸騒ぎは違う。

嫌な予感が胸を蝕み、何か起こる事を予言しているようだった。


「ラウナ、違―――」


どうしてもその胸騒ぎを無視する事が出来ず、ラウナにそれを伝えようとした時だった。

一瞬、窓の外が光ったのを目の端で捉えた瞬間…ズドンッ!と言う爆音が響き、地面が崩れた。

咄嗟の出来事に反応が遅れるが、剣を抜いて魔法を発動する。

――蒼閃流・飛翔――

銀色の粒子が剣に纏わり、スケボーに乗るかのようにその上に足を乗せる。

ラウナも助けようと視線を向けたが、上手くバランスを保ちながら着地し、特に助ける必要もなかった。

ラウナの着地した場所の横にはマーサが眠っている。

ティアラは…?と瓦礫と化した一軒家の残骸の山を眺めていると、中からティアラがゆっくりと姿を現した。

その姿からは般若のように怒気を発し、表情を見ると鬼のように変化している。


「アタシの家を壊したのはどこのくそ野郎だあぁ!!」


既に抜き身となっている剣の柄を握る手には血管が浮き出ている。

相当キレてるな…

それでも、ティアラの背中には昼間見せて貰った自身最高傑作の七本の剣が巻かれている布を背負っていた。

血管が浮き出るほどキレても剣はしっかり守っている所を見ると、流石だと思う。


「ラウナ!マーサは…」

「大丈夫だ。気絶をしてるだけで外傷は擦り傷程度だ!」


ラウナの近くに横たわって眠るマーサも問題は無いようだ。

仲間の身の安全を確認し終わり、ソウマはゆっくりと地面に近づき着地する。

そして、家を破壊したであろう者たちに向かって鋭い視線を送った。


「昼間の盗賊の仲間…か」


目の前に居るのは昼間の数倍の人数である盗賊。

その中心には見た目が盗賊とは明らかに違く、右手には長剣が握られている。


「中心に居るのがゴードンだぜ、気を抜くんじゃねえぞ!」


ティアラが喝を入れる…が、周りから見れば一番冷静さを欠いていて危なっかしいのはティアラである。


「キヒヒ…ティアラ、お前の剣を貰いに来たよ」


ゴードンが耳障りな声でティアラに話しかける。

その表情は嫌らしい薄ら笑みが浮かび、明らかに頭のおかしな人間だと思わざるをえない。

だが、ゴードンから放たれている魔力はそれなりに高く、ティアラの言う通り舐めてかかると痛い目を食らいそうだ。

ソウマは二本の剣をそれぞれ左右の手に持ち、魔力を込める。


「ソウマ、お前はゴードンを殺れ。ティアラは私が援護する」

「……分かった」


実戦の経験はラウナの方が圧倒的に多い…援護は普通に戦うのとは訳が違うので、ラウナの方が適任だろう。

ソウマは再び目の前の敵に集中し、自分の足に力を込め…


「行くぞ!」


ラウナの掛け声で地面を蹴った。

二人は気絶しているマーサからあまり離れる事が出来ないため、突っ込む事は出来ない。

よってソウマが盗賊集団の中へと飛び込む。


「殺せ!」


ゴードンの声が響くと、盗賊たちも一斉にソウマに飛びかかった。

それに対し、眉一つ動かさずに姿勢を低く構える。

――蒼閃流・渦紋――

左右に腕を伸ばし、腰の捻りで回転を生む。

そして、魔力を込めた剣は回転と共に魔法により銀色の粒子が放出される。

粒子は淡い形を形成しながら盗賊たちを飲み込み、身体を刻んで行く。


「ぐあぁあ!」


盗賊たちは痛みに悶え、身体には切り傷が付き、その傷からは赤い血が流れ出た。

そのまま集団を突き抜け、中心にいたゴードンに向かって走りながら剣先を向ける。

――蒼閃流・鋭鋒――

肘を曲げて力を溜め、バネのように前へと剣を突き出す。

狙うはゴードンの心臓。

激しいスピードでゴードンの心臓へと剣先が迫る…だが、剣先が心臓に当たる事はなかった。

ゴードンは咄嗟に剣を抜き、ソウマが突き出した剣に自分の剣を斜めに当てて攻撃を逸らしたのだ。

それでも鋭い突きの威力は高く、外しきる事は出来ずに剣先がゴードンの肩を掠めた。


「クッ!」

「…外したか」


ソウマは直ぐさま後退し、一度体勢を整える。

先ほどまで余裕顔をしていたゴードンは一変して厳しい表情になった。


「なかなかの手練れだな」

「そりゃどうも。アンタにティアラの剣を渡す訳にはいかないんでね」


鋭く睨んで来る視線を感じ、ソウマはわざとらしくニヤリと笑う。

ラウナやティアラの言っていた通り、剣自体の腕はさほどではない。

本当に強い剣士だったら先ほどのソウマの突きを完全に向こうされ、後退する前に反撃をしているはずだ。


「キヒ!調子に乗るなよぉお!」


ゴードンは怒りを露わにしながら魔力を高め、魔法を発動する。

魔法で造り上げられた水は剣に纏わり、包み込んだ後に凍りつき氷となる。

あれが氷剣…剣に氷を纏うだけなら大した問題はないが、相手の魔法を知らない。

ここは警戒しながらも冷静に戦う事だろう。


ソウマは気絶した拍子に手放してしまった盗賊たちの剣を適当な数を拾い上げ、それら全てに魔力を込めてから空中に投げる。

――魔法・ドラグーン――

空中に投げられた剣はソウマの近くの宙に浮き、その全ては銀色に輝き、粒子を纏っている。

そして、未だかつて無く見た事も聞いた事もない魔法を目の前で見せられたゴードンの顔は青ざめていた。


「キ…なんだ、その魔法は!?」

「さあな。ただ一つ言えるのは…これは龍の魔法って事だな」

「くっ!ならば死ねぇ!」


ゴードンは自分の持つ剣を地面につけると、その場から氷の柱がソウマに向かって行く。

それに対し、ソウマはドラグーン(宙に浮かぶ複数の剣の総称)を自分の目前に集め、魔力を集束する。

――ドラグーン・エッジ――

集まったドラグーンはゴードンに向かって一直線に進み、その後ろにソウマも続く。

猛烈な速度で進むドラグーンの反対側には、氷の柱が向かい討つように発生する。

そして、ドラグーンと氷はぶつかり合い、激しい音を立てながら氷の破片が飛散した。

その氷の破片の中から一つの影がゴードンに向かって動き、剣先がゴードンの首に向かうが、それをギリギリで避けられる。


「クッ!」


ゴードンは奥歯を噛み締め、歯同士が擦れ合いギリッと音を立てる。

目の前で剣を振るうのは大人に成りきれていないガキ…自分は価値ある剣のために多くの命を奪った実力者。

それなのに追い詰められているのは自分…認められない気持ちが冷静さを奪い、焦りを生む。

焦りは動きにブレが増えて無駄に体力を使い、余裕も無くなる。

既に戦いはゴードンの劣勢となっていた。

周りにいた盗賊たちもラウナと怒りのティアラにより、ほとんどが戦闘不能となっている。

ゴードンを援護しようと、背後からソウマに切りかかる者もいたが、ドラグーンにより簡単に阻まれ、その戦いの勝敗はソウマとゴードンの勝敗と直結していた。


「くそガキがぁあ!」


ゴードンはその場で跳躍し、上空で氷を発生させる。

氷に全ての魔力を注ぎ、氷は見るみるうちに大きさを増し、氷は四方7メートルほどまで巨大化した。

恐らく、これはゴードンの中で一番強い魔法…つまり、この攻撃こそが決着のとき。

そう判断したソウマは魔法・ドラグーンを解き、周りに浮かんでいた剣がカランカランと地に落ちる。

ドラグーンは使うには魔力を拡散しなければならない…一撃に力を込める為には解く必要が在ったのだ。

ソウマは剣を一本だけ仕舞い、魔力を右手に持つ一本の剣に集中させる。


「死ねぇえ!」


全てを込めたゴードンの氷の塊がソウマに向かって落下する。

だが、ソウマに焦った様子は無い…少しだけ膝を曲げ、剣を氷の塊の向こう側にいるゴードンに向ける。

ソウマの背に刻まれた魔法陣が銀色の輝きを放ち、自身の身体が銀色に染まった。


そして…ソウマは神速を発動させた。

――蒼閃流・シン・鋭鋒――

瞬きをする間もなく、ソウマの持つ剣とゴードンの放つ氷の塊がぶつかり合う。

刀身は一直線に氷を貫き塊を破り、ソウマはゴードンの魔法を突破した。

だが、神速のスピードで氷の魔法とぶつかり合った剣は強度上の問題、耐えきれなかった。

氷の塊を突破した時点で剣の刀身はバラバラになり、破片が空中から地面に向かって落下する。

それでも神速は緩まず、ソウマは右手の拳を握りしめた。

そして、二人が交差する瞬間…ソウマの右ストレートがゴードンの腹にめり込み、身体がくの字に折れる。


「ガハッ」


世界の常識を越えた速度で繰り出されたパンチは人間の耐えられる威力ではなかった。

ゴードンは口から血を吐き出し、直線的に身体が地面に叩きつけられる。

地面に倒れるゴードンは白目を向き、完全に気絶していた。


「ハァハァ…」


ソウマも地面に着地し、気絶しているゴードンを見下ろしながら息を整える。

魔力を消費し過ぎた…魔力コントロールが上手く出来ていないからか、浪費している部分が多く効率が悪い。

体力も使い、これ以上は充分に戦える余力が残っていなかった。


周りを見渡すと既に立っている盗賊たちは居らず、ラウナたちも肩で息をしていた。

ソウマはゆっくりと近づき、話しかけた。


「大丈夫か?」

「ああ…問題ない。ティアラもだ」


ティアラも息を切らしてはいるが、見た所擦り傷以外は見当たらない。


「まさか…向こうから奇襲して来るとはな」


ラウナがぼそりと言った。

こちらが奇襲しようと準備している時に家を潰される攻撃を受けたのだ。

作戦も何も有ったものじゃない。


「何にしろ、ゴードンは倒れたんだ…結果的オーライだよ」


肩を竦めながらソウマはそう言い、気絶しているマーサの様子を見に行った時だった…マーサの姿がどこにもない。

急いで周りを見渡すが見つからない。

一体どういう事だ…もし、途中で気がついて身を隠したとしても、既に戦闘は終わった。

出て来ても問題はないはず…ならばどこにいる?


「ここだよ、ソウマ」

「……え?」


不意に背後から聞き慣れた声が聞こえ振り向いた…その瞬間、ズドッと言う音と共に腹部を何かが通過した感触を感じた。

身体の熱が腹部に集中し、次第に激痛が身体中に広がる。


ソウマは刺されていた…背後にいたマーサが握る氷の剣によって。


「な…んで…」

「ソウマぁあ!」


ラウナがソウマの名前を叫びながら背後からマーサに切りかかる。

だが、マーサは薄い笑みを浮かべながらラウナに手を翳す。

すると、ラウナの両手両足が凍りつき、そのままバランスを崩して倒れる。

その少し離れた場所には、同じように両手両足を凍り漬けにされたティアラの姿があった。


「ソウマ…久しぶりだね」

「久し…ぶりだ…と?」


ソウマの腹部からは既に氷の剣が抜かれている…が、そのせいで血液が外に流れだし、その場には血溜まりが広がっている。

地面に横たわり、焦点の定まらない目でマーサを見上げる。

すると、マーサの顔に亀裂が生じ、パリンッと剥がれ落ちた。

その中身は……


「…アヤ…セ!」


そう、幼なじみであり、この世界に来る時にはぐれてしまった橋本綾瀬だった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ