バレンタインデーの朝から地獄行きがほぼ確定しました
ドキドキドキドキドキ。
2月14日。今日は──そう、バレンタインだ。だが、陰キャで非モテ男子の俺には関係ない。いつもと変わらない日だ。
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ。
そうだよ、俺には関係ない日なんだよ。なん……だけど……
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ。
「ガァーー!!朝からドキドキすんなよ!俺っ!!!」
ガバッ!と、俺はベッド上で勢いよく半身を起こしながら声を上げた。
昨日の夜から、俺はドキドキして中々寝付けなかった。毎年そうだ。バレンタイン前夜から、俺は胸をドキドキさせている。
陰キャ非モテ男子だけど……でも、もしかしたらワンチャン……女子からチョコをもらえるかもってつい……期待してしまう。
でも、そうやって期待して、もらえたためしがない。今のところ、義理さえももらったことがない。カウントしていいのなら、母からなら毎年もらっている……が、母からもらったチョコを「一つ」とカウントするのは、男としてどうなんだろう……と思ってしまう。いや、母からさえもらえなくなったら、俺はショック死してしまうかも。
それくらい、俺にとって……いや、きっと男にとってバレンタインデーは、無視したくても無視できない、ビッグイベントなのだ。
ビッグイベント……というか、チョコ1つもらえるかもらえないかで、その日「天国」か「地獄」に行けるかどうかが決まると言うか。
まあ俺は毎年、ほぼ地獄に行ってるようなもんだけどね……
「そうだよ、どうせどんなに期待してももらえねーんだし。だから……ドキドキすんなっつーのっ!!」
俺は怒声を上げながら、自身の心臓部分をトンッ!と、拳で殴る(心臓に影響があると怖いから弱く)。すると。
「煩いわねぇ!早くごはん食べに来なさい!」
母が怒声を上げながら、バンッ!と俺の部屋のドアを思いきり開けて入ってきた。
「さっきからわーわー!朝からなんなの!?……もしかして、学校行きたくないとか?あんた、いじめられてるの?」
「ちっ、違うよ!……今日、アレだからだよ」
「アレって?」
「アレだよアレ……バッ、バレンタインだから……」
「はぁ?あんた毎年、私以外からもらったことないでしょ?期待するだけ無駄じゃない」
「グハッッ!!!」
と、母は笑いながらそう言った。グサッ!!!と、母のそのセリフが俺の胸に思いきり突き刺さる。
「……そうだよ、俺は母ちゃん以外からもらったこと無いよ!わかってるよ、期待するだけ無駄って!分かってるけどさぁ!俺は──いや、男はみんな、この日期待しちまうもんなんだよ!!母ちゃんには分かんないだろうけどさ!!」
「は、はぁ……あ、そう。じゃあ、もらえるといいわね……」
俺が半泣きでそう叫ぶと、母は引き気味にそう言った。
「ていうか、そういえば今日バレンタインだったのね。すっかり忘れてたわ~」
「……え?」
「いつもあんたにチョコあげてたけど、今年は用意してないわ~……ゴメンネ♡」
てへっ☆と、可愛い子ぶるように舌を出してウィンクしながら母はそう言った(キモい)。その母の言葉に、ピシッ!と石化する俺。
おいおい、嘘だろ。母ちゃんから貰えなかったら……俺、完全なるチョコ0じゃん。
そんでついでに俺の命も0になって、地獄へ逝ってらっしゃ~いってか?笑えないんだけど……
「ごめんごめんって、今日仕事帰りにテキトーな板チョコでも買ってくるからさ……ねぇ……聞いてる───?」
チーン……と、遠くからおりんの音と共に、何かを言っている母の声が聞こえた気が……した。