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42 猜疑心

42 猜疑心


 どうして「鷹天真理教団」は黒鷹町に食い込んできたのだろうか? 佐和山はアパートのベッドの中で一人考えた。

 べつに黒鷹町でなくてもよかったはずだ。黒鷹町は何のとりえもない寂れた田舎町に過ぎない。教団の勢力を拡大するとしたら、山形市周辺に限っても、もっと旨味のある市町村があるではないか。仙台や福島に伸ばしたっていいはずだ。

 俺が黒鷹町を活性化するために、切支丹伝説を利用したのがそもそも間違いだったのだろうか。地域おこしのために、伝統文化の地域資源を活用するのは常套手段だ。黒鷹町の切支丹伝説と言っても、地元の人でも知っている人がほとんどいなかったほどの取るに足らない歴史遺産だった。それに、切支丹伝説と言っても、まったくと言っていいほど宗教色はなかったんだ。

 どこでどう間違ったのだろう。俺が『ユニコーン』に話を持ち込んだことが、話を大きくするきっかけになったことは確かだ。もし『ユニコーン』に話を持ち込まなければ「鷹天真理教団」がこの町に入り込むことなく、俺は静かに町おこしを進めていくことができたはずだ。

 もしかして、『ユニコーン』と「鷹天真理教団」はグルだったのか? それはいくら何でも飛躍だろう。それとも、稲村さんや高野さんは「鷹天真理教団」の先兵として『ユニコーン』で働いていたのか? すると、俺と『ユニコーン』との仲を取り持った三神という男も一味だったということか? こんなの俺一人の妄想に過ぎないだろう。稲村さんや高野さんがそういう人間でないことは、一番俺がわかっていることじゃあないか。

 稲村さんや高野さんと「切支丹屋敷跡」や「切支丹生埋めの地」の史跡を巡っている時は本当に楽しかった。拷問体験や切支丹定食や土産などの面白おかしい話であれほど盛り上がったじゃあないか。埋蔵金ツアーだって彼らは楽しく参加してくれたではないか。ああしたことのすべてが俺を信用させるための罠だったというのか?

 今から思うと、おかしくなったのは、彼らだけで山百合集落に行ってからだ。だけど、あの時だって、彼らが自分たちだけで行くと言ったわけではなく、俺たちに用事があったので、同行できなかっただけだ。もし俺が同行していたら、あのような記事になったのだろうか?

 彼らは本当に山百合集落に行ったのだろうか? 彼らは山百合集落の子門さんたちと会ったのだろうか? 俺は彼らの会話に参加していない。俺が知っているのは、稲村さんが『ユニコーン』に書いた山百合集落での子門さんたちとの話し合いの記事を通してだけだ。もしかしたら、稲村さんは子門さんたちと会っていないのではないか? 話し合いの記事は彼が一人ででっちあげたのではないか? それは高野さんも承知しての上だが。

 彼が書いた記事から、山百合集落が天草四郎と12人衆が落ち延びてから、かれらの子孫が営々と暮らしていた場所だということが、初めて公になった。「天草四郎伝説」、「黒鷹の乱」、「転び切支丹」、「隠れ切支丹」、「藁三本」と一連の悲劇が明らかとなった。もしかしたら、これは稲村さんが一人ででっち上げた壮大なフィクションなのではないか? 何のために? もちろん、「鷹天真理教団」が黒鷹町に入り込むために「天草四郎伝説」が必要だったのだ。

 山百合集落の子門さんたちは存在して、稲村さんと話したのも事実かも知れない。しかし、集落の連中だって「鷹天真理教団」の信者たちで、稲村さんたちと口裏を合わせる話し合いをしただけなのかもしれない。

 俺はどうして稲村さんを疑っているのだろう。言いようのない不安から猜疑心がつのっている。俺と話していた稲村さんはとってもいい人だったじゃあないか。そうした人を疑うのは俺の頭がどうかしているからだ。でも、あの愛想のよさも俺に近づくための方便だったのかもしれない。俺は稲村さんと「鷹天真理教団」に利用されたのか?

 昼間、俺は役場の企画課長に呼ばれて、「埋蔵金ツアーでインチキをしただろう」と詰め寄られた。俺が「いったい何のことですか」と訊くと、「埋蔵金であるかのように、古銭をばらまいただろう」と脅すような声で言われた。「それは、埋蔵金ツアーの参加者に喜んでもらおうと思ってやったことで、そんなに目くじらを立てることじゃあないでしょう」と彼をとりなすように言った。「そんなのインチキであることに違いはないんだ。前回、古銭がテレビにも映ったんだから、役場がインチキをしたってことになったら一大事だからな。責任をとってもらうからな」とすごまれた。普段はエヘラエヘラしている課長なのに、今日は変にいきり立っていた。きっと、誰かから言わされているんだろう。それは町長以外にはいない。

 町長はちょっと前まで黒鷹町活性化のために俺に期待し、俺を利用してサポートしていたではないか。それを今、はしごを外しにかかっている。それは「鷹天真理教団」からの指示だろうか? それとも彼自身の意志なのだろうか? 彼に恨みを買うようなことを俺がしたとは思えないのだが・・・。

 多分俺は近いうちに地域おこし協力隊を首になるだろう。そのくらいのことは覚悟しておこう。しかし、誰が俺をはめたんだ。「鷹天真理教団」か、町長か、それとも稲村さんか?

 稲村さんまで疑うのは、筋違いなのはわかっている。俺は不安から猜疑心が膨らんでいる。

 埋蔵金ツアーで俺が寛永通宝をばらまいたことをばらしたのは、穂刈さんだろうか? そんなことはない。ばらまいたことを知っているのは、穂刈さんだけではなく、稲村さん、高野さん、そして森さんを始めとしたあの場にいたほとんどの連中だ。かれらはわかっていて喜んでいたはずだ。だが、それを悪意を持って町長に密告し、それを町長は俺を失脚させるための材料にした。いずれにしても、穂刈さんが俺を排除する理由はない。もしあるとしたら、町おこしのために切支丹伝説の話を肥大化させたことくらいだろう。潔癖症の彼女は、嘘の世界を許せないのかもしれない。だとしても、俺はそんな彼女を憎むことはできない。

 そう言えば、俺の父も信じていた人たちに裏切られて、孤独に打ちのめされた。どうして親子二代で同じ目に合わなければならないんだ。


  つづく

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