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かえりやんせ

作者: 不明

なんとなく、リズムで書き上がりました。

 車で通う道のりを、今日は歩いて帰宅する。

 愛車が壊れ、停まったのだ。

 だったら仕方がないであろう。

 早めに修理をお願いしないと、今日がよくても明日は困る。

 朝から歩いて通うのは、日中疲れて大変だ。

 だから壊れた愛車を前に、電話をしようとしたけれど。

 スマホも壊れて使えなかった、まったく役に立ちやしない。

 不運や不幸は重なるものだ。

 つまりは今日がそうなのだろうと、諦め歩くことにした。

 道中何度かタクシー見つけ、手を挙げ声張り呼び止めたものの誰も止まってくれやしない。

 なんとも冷たいタクシーだ。

 アプリで呼ばねば来ないのか、だったら素直に諦めよう。

 そうでないならクレームものだ。

 ところでしかしタクシーは、いつからデザイン変えたのか。


 歩いてしばらく経った頃、背後に気配を覚えだす。

 不思議に思って振り返る。

 其処には誰もいやしない。

 人っ子一人いやしない。

 男も女も自転車も、車の影すらありやしない。

 其処は街中。商店通り。時刻は逢魔が時である。

 おかしい。おかしい。何かがおかしい。

 背後の気配も消えやしない。

 不気味に思って振り返る。

 やっぱり其処には誰もいない。

 人っ子一人いやしない。

 老若男女も犬猫も、カラスやハトもいやしない。

 其処は街中。商店通り。時刻は逢魔が時である。


 急いで駆けた。

 必死に駆けた。

 家路をまっすぐ最短に、脇目も振らずに駆け抜けた。

 誰もいない。何もいない。生命の気配も音もしない。

 なのに背後にナニカいる。

 冷たくひりつくナニカいる。

 やばいやばいと駆け続け、ようやく見えた自分の家。

 心に安堵がふと湧いた。

 これで平気だ、問題ない。

 少しだ。少しだ。もう少し。

 玄関入れば安心だ。

 家族みんながいるはずだ。

 少しだ。少しだ。もう少し。

 玄関扉を乱暴に、くぐって入って行き着いた。

 背後にあるのは扉だけ。

 これで平気だ、問題ない。


 灯りが見えた。

 声が聞こえた。

 よかった家族は家にいた。

 何年ぶりの帰宅かな。

 家族の顔を早く見たい。

 廊下を進んでリビングに、一息吐いて踏み込んだ。


ただいま みんな 元気かな


 応えがない。反応なし。

 急な帰宅のせいであろう。

 しかしおかしい。何かがおかしい。

 父がいた。泣いていた。

 母がいた。泣いていた。

 みんないた。泣いていた。


これは一体なにごとなのか


 不思議に思って声かける。

 応えがない。反応なし。

 数年ぶりの再会に、流石に無視は酷かろう。


ただいま ただいま みんな ただいま


 叫ぶ。叫ぶ。大きく叫んだ。

 それでも反応まったく返らず。

 どうして。なんで。「おかえり」と言って、迎えてくれてもいいであろう。


どうして何も返してくれない 反応くらいはして欲しい


 そこで感じた、背後の気配は冷たくひやりと恐ろしい。

 ナニカいる。其処にいる。絶対背後にナニカいる。

 振り向けない。動けない。指先一つ震えない。

 おかしい。おかしい。何かがおかしい。

 必死に声を荒らげても、家族は誰も応えない。

 助けを求めて叫んでも、家族は誰も応えない。

 

 背後の気配が近づいた。

 ひやりと冷たいナニカである。

 手が見えた。細い手だ。青くて白い枝の手だ。

 顔の横から伸びた手は、まっすぐテレビを指差した。

 壊れた愛車の映り込む、テレビをまっすぐ指差した。

 自分がいた。画面にいた。

 画面の中に自分がいた。

 証明写真のようにして、見慣れた自分は映された。

 わからない。わからない。誰か教えてくれないか。

 どうして愛車がテレビに映る。

 どうして自分がテレビに映る。

 どうしてだ。どうしてだ。一体何が起こってる。


かえりやんせ かえりやんせ


 ナニカが言った。確かに言った。

 しゃがれた声で、冷たく言った。


かえりやんせ かえりやんせ


 ナニカが引いた。確かに引いた。

 凍てつく枝のごとき手で、背中をぐっと引いてきた。


かえりやんせ かえりやんせ

かえりやんせ かえりやんせ


 ナニカが増えた。確かに増えた。

 冷たく怖い、ナニカが増えた。

 駄目だ。駄目だ。帰るのは、何があっても駄目なのだ。

 もしもここから離れれば、終わってしまう何もかも。

 だから絶対帰らない。

 あんな場所には帰らない。

 だって絶対体はすでに────。

お目汚しのほど、失礼をばいたしました。

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