《おまけ》鈍感国王のお話・9話の幕間
フィネルのお話です。
パタリと扉が閉まり、アリアの姿が見えなくなった。
「アリアは本気だ!」
俺が叫ぶとステファノが、
「ですね」
と冷静に返した。腹が立つ。
「なぜだ! どうして俺に惚れない!」
「あなたに魅力を感じないからでしょう」
「うっ。……そ、そんなはずはない。俺はモテる」
「ええ、アリアさん以外には」
「なんでだ。欲しいのはアリアだけなのに。このままじゃ離婚だ」
「仕方ありませんね」
アリアがさっきまで座っていた向いの席を見る。
俺は考えつく、すべてのアピールをしたはずだ。いかにほかの男より優れ、素晴らしいか。この数ヶ月ずっと見せつけてきたのに、アリアにはまったく通じなかった。
「こうなったら」
「ええ、あなたができることは――」
「子供を作るしかない。そうすればアリアとて離婚はしないだろう」
ツカツカと足音が近づいてきたかと思うと、思いっ切り鼻をつままれた。
「痛い! ステファノ!」
ヤツの手を振り払う。
「どこまでアホなんですか! 無理やりそんなことをしたら、嫌われるを通り越して憎まれますよ!」
「ならばほかにどうすればいい」ハッと閃く。「そうか。どこにも行けないように、閉じ込めてしまえばいいのか!」
ふたたび鼻をつままれた。
「アーホーーー!!」
ヤツの手首をつかむ。
「ならばどうすればいい! 俺は絶対にアリアを失いたくない。好かれなくてもそばにいてほしい。もしほかの男が」自分の思いついた考えにぞっとする。「彼女を得たらと思うと恐ろしい」
「恐ろしいのはあなたの思考ですよ」
ステファノは鼻を離し、俺の手を振り切った。
「まったく。なに不自由なく育つと、こうも歪んだ人間になるのですねぇ」
「……万策尽きたのだ。もうどうしていいのか、わからない」
付き合いの長い幼馴染が深いため息をつく。
「まだ肝心のことをしていないでしょう?」
「なんだ」
「愛していると伝えることですよ」
「アリアは俺を愛していないんだぞ? 言ってなんになる」
「伝えて、すがりなさい。俺を愛してくれ、捨てないでくれ、と」
「そんな無意味で情けないことなどできないと、何度も言っている」
「ならば一生、あなたはアリアさんを得られませんね。以前のような笑みを向けてもらえることもない」
ステファノが微笑んだ。
「あなたは本気でアリアさんを好きなのではないのですよ」
「なにっ!」
思わず立ち上がり、ステファノの胸ぐらを掴む。
「本気ならば、どんなに惨めなことでもするはずですからね」
反論しようと思った。だが――。
「俺がしていないのは、あとはそれだけか」
「そうです」
ステファノを離し、椅子に腰を落とす。
「……『情けない男』だと軽蔑されないか?」
「手籠にするより百倍マシですよ?」
「そうか」
そんなことをしても、望みは薄いだろう。アリアが俺を愛していると感じたことはないし、愛があるなら嫌われ王妃になる作戦なんて考えないはずだ。
それに幼少期より、『王子たるもの、相手に隙を見せるな』と教わってきた。
だが、アリアを失くすよりは、たとえ惨めで少しでも可能性があることをしたほうがいい。
「そうだな。ステファノの言うとおりに、愛していると伝える」
「うん、うん、そうなさい」ステファノは嬉しそうだ。
「できるだけカッコよく、アリアが感心するように言いたい。適したセリフとかシチュエーションとかはあるのか?」
「そうですね。基本は花束や指輪かと――」
《おしまい》
フィネルの予定では、カッコよく告白・求婚だったのです。でも実際は余裕がなくて、必死にすがるしかなかったのでした。