《おまけ》鈍感国王のお話・3話の幕間
フィネルのお話です。
以前、活動報告に載せたものです。
「良かったですねぇ。アリアさんがあの条件のまま、契約を結んでくれて」
私室に戻り、ふたりきりになった途端にステファノが俺に笑顔を向けた。
その胸ぐらを掴む。
「なんで彼女に会っていたことを黙っていた!」
「『彼女の人間性をチェックしている』と伝えたら、あなたは怒るだろうと思ったので」
「当然だ! アリアにそんなものは必要ない」
「あなたの近侍として、必要な判断です」
幼馴染は微笑んで俺の手をほどき、部屋の奥に向かった。
もう夜も深い時間だ。午後は激務でふたりきりで話す時間をとれなかった。もっとも激務になった要因は俺の急な結婚のせいでもある。貴族も役人も突然のことに度肝を抜かれて、大騒ぎしている。
だが知るか。好きに騒げばいい。俺はそれどころじゃないんだ。
脳裏に、ステファノに向けられたアリアの笑顔が蘇る。俺はあれを失ってしまったというのに。こいつは未だ得られるのはズルくないか。
ステファノが振り返り、ため息をついた。
「そんなに心配しなくても、アリアさんを取りはしませんよ」
「わかっている。だが腹が立つ」
「……いいことを教えてあげましょう」
ステファノが戻ってきて、俺の胸にトンと指をつける。
「跪いて、『俺以外の男と話さないでくれ』と懇願するのです。そうすれば万事解決」
「そんな情けないことなどできるか」
「でしょうね。あなたはそういう人だ。ただ、自分でやらないのだから、他人に期待をしないでください。私は彼女と話すし、彼女は私に笑顔を向ける」
「ズルい」
「そう思うならば、努力を」
「努力はした」
彼女が喜ぶ部屋とドレスと侍女を用意して、贈り物もたくさん渡した。きっと俺の素晴らしさがわかったはず――と思ったが、彼女の顔に浮かんだのは困惑の表情だった。
契約にある設定は演じてくれるようだが、昨日開いた彼女との距離は、余計に広がったような気がする。
「いや、まだ全然足りないな。国王としての素晴らしさを見せていない。そうだ、剣技が優れているのも教えたい。明日は近衛騎士との模擬戦をしよう。まずは、私がどれほど良い男かを気づいてもらわないとな――どうした?」
ステファノがうなだれ、手で額を押さえている。
「いえ。心行くまで、あなたが信じる方法で努力するのがよいと思いますよ。幸い期間は一年ありますからね」
一年。自分が設けた期限だ。アリアのあの調子なら、時期が来たらあっさり離婚するだろう。
その考えに怖気をふるった。