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 ――ぐしゃり、ぐしゃり、ぐしゃり。

 暖かい陽の光が差している教会の隅っこでただひたすら、年端もいかない少年のあどけなさを残した青年が、自身よりも大きい肉に対して一心不乱に包丁を振り下ろしていた。

 既にその肉の解体はすんでいる。それでも未だ新しい肉に目を向けなかったのは、絶対に生き返らないよう細かい肉片にする必要があったからだ。

 青年の後ろで、男は茫然とその様子を見つめている。見つめていることしかできなかった。ここにきたのは偶然だ。たまたま彼は司祭が青年を探していることに気づき、困っていた司祭に手伝いを申し出た善良な市民の一人だった。

 しかしあまりの異様な光景に、男はその場に佇むことしかできなかった。青年は男の存在に気づいていた。だが青年は男を無視して、ひたすらに目の前の肉を刻み続ける。


「何を――」


 男はようやく声を出す。貧相な声だった。

 それでも声を掛けられずにいられなかったのは、あまりに青年の瞳が死んでいたから。

 どこまでも昏く悍ましいとさえ感じ、この世の地獄をこれほどまでに味わったかのような――昏い瞳。


「殺しているんだよ。そうしなければ、生き返ってしまうから」


 青年はようやく次の肉に手を出した。

 新しい肉の血抜きも済んでいる。背中の付け根にある羽根も、切り取って地面に敷いた布の上にのせた。青年の何倍もある大きな羽根はいろいろな素材になる。それこそ上級の魔法薬を作りだすほどに――非合法の商店に売ればまとまった金になるだろう。この羽根も大きな傷はない。しばらくはこれを売るだけで、子どもたちは食べていけるはずだった。


 だがそれでも男は理解できなかった。

 ほぼ人間と同じ形のそれを同じ人間が解体しているなんて、見たことがないからだろう。

 青年は口を歪ませ、厭らしく嗤う。


「あれは人間じゃない。ほら、羽が生えているだろう? 羽を生やしただけのただの畜生――れっきとした金だよ。子どもたちには金が必要だ。そして罪人(ヒト)がもう悲しまなくていいように、俺は殺している」


 ここの教会の子供たちは司祭を含め青年の行いを黙認していた。だが善人である男にはやはり理解できなかったらしい。青年は、悲鳴をあげてでも己の行動に非難し続ける男に対してため息を吐いた。こいつはただの人間だからたいして刻まなくても――生き返ることはないと思いながら頬に血飛沫がつくのも構わず、包丁を何の前触れもなく男に振り翳した。

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