追い出された勇者パーティーの雑用係、涙しながら追い出されたあとに幸せにされる。
−物語より前の野営地にて−
剣士「お前あの3人の中でなら誰が好きだ?」
雑用係「うーん……ミレーナ(勇者)かな?」
剣士「変わってんなぁ、俺は全員好みじゃねぇな。強いてならリリーラ(魔術士)だな。いや、やっぱなしで頼む。無理だった。」
雑用係「ずるいぞこっちは言ったというのにさぁ。」
聞き耳勇者「……」
勇者パーティー、それは魔王と呼ばれる災厄によって危機にさらされた人類のために立ち上がった勇士たちのことである。
彼らは怒涛の反撃、快進撃により人々の安寧の世界を一歩、また一歩と進め人類の未来を勝ち取った。
しかしそれからついに誰一人犠牲を出さずに戦って来た勇者達にも危機が訪れることになったのだ。
_灼熱の大洞窟にて_
「引け!引けぇー!!」
魔物と呼ばれる魔王の眷属、従者が物量を以て勇者達を苦しめついに撤退に追い込んだ。
それらは既に残党だが新たな魔王となる前に勇者たちは叩く。
「洞窟で大魔術、聖剣の一振りは使えない!小規模の魔術で牽制しながら撤退だ!」
勇者はそう言いながら複数の魔術を駆使し味方を退路へ誘導する。
魔物は腕や爪、牙を多用し数の暴力で猛威を奮う。
命以外で考慮するならば洞窟は破壊しない、特別な指示は必要としない。
ある意味効率的かもしれない。
現に効果を発揮している。
このことが勇者パーティーで一番弱いある男の運命が大きく変わる
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ついて来るんじゃなかった!
勇者のやつ何が君がいなければ始まらない、だよ!
足一番引っ張ってるのは自分じゃん。
ちょっと背が高くて、ちょっとかわいくて、ちょっとかっこよくて、強くて、マジメで、
非の打ち所がないじゃん!
全部において勝ち目がない!
何なら好きだ!
「急げよネコガワ!単騎最強の勇者とアイツらだって限界はあるんだ!」
「あぁ!だけどみんなが先に逃げた方がいい!そっちの方がいい!」
勇者一行の雑用係な僕を守っても……
一番足手まといなんだ僕_タスク・ネコガワは。
「はっ、んなことできねぇよ!だって俺はミレ公からお前のことをたの_」
足を止めた!?
まさか!
魔物がここにも来てる!
「何やってんだ剣士!魔術士!」
「見りゃ分かんだろ!お前を逃がすんだよ!足手まとい!」
「どうせアンタは今いてもいなくても変わらないんだから!何ならいないほうが効率的よ!」
こんなときに何なんだよ本当に……
「ウグっ……グサグサ刺さることを、あ゛どで覚えでろよ二人とも!ミレーナ達と、いっしょに帰ってきたら説教だからな!!」
「ははは、お手柔らかに頼むぜ!」
「ふん、アンタは自分の心配だけをしてなさい!」
「_ネコガワは行ったようね。」
「流石にここらのバケモノは勇者の婿が相手にできるほど優しくはないからなぁ!」
二人は不敵に笑う。
洞窟の入口に近くなれば魔物もほどほどのヤツくらいしかいなくなる。
そいつらは長ナイフで斬ったり篭手で直接殴り倒していく。
目につく奴らは全て斬り伏せる。
達人クラスには敵わないが雑用係だからって舐められちゃ困る。
「はぁ、はぁ……」
しかし数が多い。
やっとこさ出てきた奴らをほぼ潰しきれた。
「撤退するだけならもう来てても……いいんじゃないか……」
不安が募る。
いや、みんな生きてるはず、絶対に。
バカなことを考えてる暇があったら目の前の魔物を狩るべきだ。
デカいな。
確かガルガントオーガだっけ?
角の形に見覚えがある。
普通のオーガの5体分の強さ、そのオーガが普通の人、10人分くらいの力を持ってる。
本来は内部の中堅クラスってところか。
重要なのはこの洞窟でヤツに一人で余力を持って勝てるのはミレーナとグロック、武者のカレンくらいだろうということだ。
『貴様ヲ外ヘ出サナイ。殺ス。』
「そうかい。」
あいつにはナイフは効かないだろう。
首元から上を狙わないといけないしできたところで傷が浅すぎる。
ならもっとデカい獲物を使わないといけない。
タネがバレずに一撃で屠る、学習される前に。
タスク、ここ一番の大勝負だ。
『マサカソノ貧者ナ刃デ挑ムカ、クハハハ!!』
ふん、言ってろ。
閉所での取り回しにおいてならお前のデカブツより有利なんだよ。
『ココデ死ネ!!』
骨切り包丁とでも言うような刃物の鈍器を振り仕掛けてきた。
刀身が僕よりデカくないか?
身を引いてこれを躱す。
一寸前にドッ、と轟音が響き地面がへしゃげる。
コイツを受け止めるのはやめたほうがいいな。
化け物が骨切り包丁を振り回しなんとか回避し続けるがこれ以上の後退は危ない、前に進まなくては出口が遠ざかる。
かなり後退し洞窟も出口より広い、ここならヤツも有利になるがこちらにも手がある。
あとは大振りが来るのを待つだけだ。
『フハハ、入口ハ狭イ、ダガココナラ存分ニブン回ワセル!』
「そうかよ!」
取り出した弓で矢を射る。
『甘イナ!』
自分のエモノで止めたか。
刺さってもダメージになるかは知らないけど。
まだ詰めるには厳しい。
幸い魔物の援軍はいない、アイツらが止めてるんだ。
しかし躱わし続けるにも体力が心もとない。
『オオオオオォ!!』
手数で押しつぶしに来たな!
だよな、そうするのが一番だ。
ナイフは効かないし弓を使うには難しい距離。
「来ると思ったよ_終わりだ。」
弓を変形させ、刃と変わる
これは仕掛けの武器
とてつもない一撃を全力でそらし火花が散った
相手の懐まで接近、狙うはエモノを持つ手の手首
刀身を突き立てそして抉る
ヤツの体液が吹き出す
エモノは地面に突き刺さる
状況を理解できないのか、痛みを感じにくいのだろうか、一瞬間抜けな面を晒した。
心の臓を刺し貫き下へ掻っ捌く
下がった首を突き刺す
横に引き裂く
手首より強く体液が吹き出す
弓の剣は聖剣のような力はないが化け物狩りの剣だ。
これくらいできてもらわなきゃ困る。
呼吸もない、痙攣なども見られない。
終わった、道を戻ろう。
今のは運が良かったのだ。
調子に乗ってみんなを助けられるほど強くはない。
だからみんなが僕を逃したのだから。
「はぁー、はぁーっ、ゲホッ!」
みんなの為にも_
「ゴゥっ!?」
全身が痛い、壁がある。
「あ、ぁ……」
意識はあるが何が起きた?
すぐにわかった。
まだ生きてやがる、しぶといな。
だめじゃないかこれ?
ここからどうやったら逆転できるんだよ。
死にたくない。
死にたくないから、
なんでもするから誰か
「……助けてくれ。」
「_勿論だ。」
え?
『グボァッ!?』
オーガが消えた。代わりに真っ赤な人がいる。
「……遅くなってすまないタスク。手負いだったか、よく耐えたな。」
あぁカッコいいな……ミレーナ。
恨み言忘れちゃう。
けど血まみれじゃないか。
黄金のような眼がこちらを見つめる。
「無茶をするものではない_と言いたいところだが君がこのオーガやそこで寝てる奴らを止めてくれたから私達もなんとか助かったようだな。」
「すげぇなタスク!お前この剣でアレの腹を割ったのかよ!」
「半端者の使う武器かと思ってたけどちょ〜っとは使えるようね。」
なんだか褒められてる気がしない。
元は僕のじゃないけど特注品なんだよあの剣。
「……はぁ……そんな、様子だと……はぁ、随分と余裕だった、みたいじゃないかな?」
「まぁ魔王じゃねぇが大将討ち取ったからな!」
「なんとか勝てました。」
「実際結構危なかった、命拾い……あっ、でござる。」
勇者と一緒に足止めしてた重戦士と神官、武者も無事だ。
全員生存、完全勝利だ。
だが、お説教はわすれるなよ?
「_私は少しここに残る、すぐに行くから君達は移動してくれ。」
「ん?まぁよくわからないけど気をつけろよ。」
「わかっているさ。」
どうしたんだろう?
お宝でもあったのか、どうせミレーナが一番頑張った筈だから好きにしたらいい。
「_さて、どうせ生きてるのだろう?」
「無視か、なら起こさないとな。」
「ふん……ようやくお目覚めか?」
「手足はもいだが相変わらずお前達の生命力は無駄に強いようだ。」
「安心しろ、私は勇者だ……苦痛にまみれながら殺すつもりはない。」
「私のわがままが原因とは言え、ただ愛しいやつを傷つけたお前は私が確実に息の根を止める。」
「ではな。」
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いざ本編
懐かしの故郷だ。
前はここが防衛の最前線だったんだよな。
もう軍隊の兵士達もすっかりいなくなっている。
勇者と二人でやってきた。
しかしこの町は僕の住んでた所であってミレーナとはなんの関係もない町ではある。
隣を歩いているが自分が弟になったかのようにおっきい。
彼女は元からなのか日頃から鎧を着てるからなのかすごく肌が白い。
一周回ってお姫さまみたいだ。
「ミレーナさんがこんな町に用があるなんて一体何かな?心当たりないんだけどなぁ。」
パーティー活動時は呼び捨てだがそうではないときはなんだかむず痒い。
「君は大切な人だからね、ご両親のこともちゃんと知っておきたいのさ。」
「なるほど。」
真面目だよ。
だから誰一人失わずに戦い抜くことができたんだ。
「……それにこう言うのも気恥ずかしいがタスク、君とが一番仲良くできていると思うんだ。」
「ははは、勇者さんから言われると嬉しいものだよ。」
ミレーナの顔が赤くなってるな、体調悪かったりするのかな?
「今日調子悪いのかな?」
「ん?私はいつもどおりだ、問題ない……しかし緊張するな。」
「何言ってるんだよ。たかだか僕の父さんと母さんに顔見せに行くだけだろう?」
少し冷たいけどかわいい弟や妹も待ってるさ。
にしてもなんで案内してないのに僕の住んでる家への道順を知ってるのだ?
教えた記憶ないんだけど。
「その、やっぱり緊張するから、手を握ってくれると嬉しい……」
「へ?」
「あ、わ、嫌だったか?なら……」
「わかったよ、ほらっ。」
手が温かい。
むしろ熱い?
心臓の鼓動が速くなるのがわかる。
「ありがとう。もう大丈夫、頑張れる。」
代わりにこっちがドキドキしているのだが。
実家に着くまで、ついても手を離さないとなるとなんだか恥ずかしくなってきた。
こんなところ見られたらどうしょう。
笑われるかな?
「さっきから頭が下がっているがしっかりしてくれ、これから君のご両親へ挨拶に行くのに。」
「あ、まぁそのね。」
ならそろそろ手を離してもらえるとありがたいです。
なんていえないしなぁ。
「そういえば手紙で連絡も取っていたがどうやら君は書いてくれなかったらしいな。」
「いやまぁ、あはは……」
「あれ、お兄ちゃん?」
まずいこの声は知ってる。
「く、クロネ!?」
やはり我が妹か!
よりによって今会うなんて、ミレーナが勘違いされるじゃん。
「ミレーナ義姉さんもいらっしゃい!ワンピースすごく似合ってますよ!」
「ありがとうクロネ、私の着れる服はなかなか売ってないから大変だった。それと少しお邪魔する。」
「えっと、クロネはミレーナさんのこと知ってたの?」
「はぁ?お兄ちゃん、流石にアホなこと聞くのはやめてくれない?」
ナメられ兄ちゃんは辛い。
妹なのに僕と身長があんまり変わらないし、クロネはまだ成長の余地があるからなんだか肩身が狭いことが輪をかけている。
まだお兄ちゃん呼びしてくれるだけありがたや。
「……うんゴメンよ。」
「きっとタスクも緊張してるさ。私もだが。」
「パパとママが待ってるから!お兄ちゃんもぼーっとしてないで早く行く!」
言われるがままに連れて行かれ我が家へ帰宅した。
「ただいまー!あっ、ママ!ミレーナ義姉さんが来たよ!ついでにお兄ちゃんも。」
「おかえりなさい、あらあら〜すぐ準備するわね。こんにちは、待ってたわよミレーナちゃん。」
「ありがとうございますお義母様。」
なんだ?
なんだか変な気がする。
「やだ、お義母様だなんて〜!お義母さんでいいのよ。ほら上がって上がって。」
「はい、お邪魔します。」
「母さん?」
自分が置いてきぼりになったところをそそくさと母さんが来て_
「アンタ、折角こんなご時世に礼儀作法ができてて、綺麗で頼もしい娘が来てくれたんだから絶対離しちゃだめよ。浮気なんてバカなマネはダメよ。」
「え?えぇ!?」
「えぇ!?じゃないの、いいわね!」
「はい!」
あれは「うん」か「はい」の二択しか返事を許さない顔だ。
まさかミレーナが僕と付き合ってると勘違いしているのか。
なら早く誤解を解かないと!
やっぱりおかしい。
父さんが
「お前は俺の息子だからな、やっぱりそうなんだな。」
となんだか上機嫌だったし。
弟も
「兄さんおめでとう。ミレーナさんのためにも裁縫でもやってみたら?」
とか
否定しようとしても相手にされなかった。
お付き合いしてないと言ったらもう結ばれてると解釈してるし。
お話が終わったのかミレーナが来た。
謝っておかないと!
「と、父さんと母さんがなんか僕達が結婚する話をしてたけど……その……ご」
「あぁ、その話だが一週間後に式をあげることになった。」
「はえ?」
「この町での小さな式になる予定だが楽しみだな。」
驚く自分を気にせず頬を撫でながらそう呟いた。
次に彼女は耳元で囁く。
「_愛している、これからはずっと一緒だ。」
強く抱きしめられて胸に顔がうずくまる。
「ンンッ!?」
「前にリリーラから聞いたがタスクも私が好きなんだろう?私達は両思いなんだから結婚する、共に幸せになるんだ。」
見上げたらとても幸せな表情を浮かべる彼女と目が合う。
ミレーナにこうやって包まれて生られるならきっと幸せだ。