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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
四章  正義に染まる者たち
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大魔導の選択

 フィーナは覚悟と理想を言い切ると、そそくさとあたしたちを呼び出した城の部屋から出て行った。

 あたしとスズの間にはなんとも形容し難い沈黙が流れている。



「あのねスズ。フィーナの気持ち、少しでいいから分かってあげて欲しいの」


「……無理だよ、だってナナシくんは悪人なんでしょ?勇者であるフィーナ様が戦わなければいけない敵なんだよ?それを殺されてもいいから許されたいなんて……」



 まあ、そうだよね。

 そんなスズの気持ちだってあたしには分かってしまう。


 だからこそ、やはり、あたしは中途半端なんだろう。

 魔力量が多かったから勇者のパーティになんとなく所属して、1番近くにいたフィーナを不思議と好きになって、同じパーティだったメアリーと親友になって、フィーナの親友になってくれたナナシと友達になれたつもりでいた。



 なんとなく勇者のパーティに所属したせいでナナシの家族を殺した。

 フィーナを好きになったのに、好きな人の死んで許されたいという願いを止められない。

 正義を裏切った親友を、許せてしまう。



 フィーナに死んで欲しくない。ナナシと友達に戻りたい。

 勇者のパーティなんてやめて、普通に遊びたい。

 メアリーとまた、楽しくお喋りがしたい。



 ナナシに許して欲しいのに、あたしは死にたくない。



 殺されても仕方ないことをナナシにしておいて、死にたくない、友達に戻りたいなんて。


 我ながら情けない。



「……エルザもそうなの?」


「あたしは……あたしも……そう、なのかも……」



 ほら、こんな玉虫色の返事しかできない。

 いつかナナシが許してくれる日がくるかもなんて、甘い考えでナナシに友達でいさせた罰なのかも。



 もしかしたら、ナナシの方があたしたちの友達でいることが辛かったかもしれないのに。

 ナナシに無理矢理笑顔を作らせていたのかもしれない。


 あの時も、あの時も、あの時も。

 ナナシはあたしたちに対する恨みとか憎しみを心の中で押し殺しながら、歯を食いしばって笑顔を作っていたのかもしれない。



 あたしとフィーナがナナシと会うためにイツァム・ナーのところに行った時、笑顔を作る難しさを知った。

 きっとナナシには簡単にバレちゃったんだろうな。


 ナナシは、ずっとそれを続けて来たのかな。

 辛く、なかったのかな。



 そんなわけないよね、辛くないわけないよね。

 だって、あたしたちのことを殺したいくらい憎んでたんだもんね。



「詳しくは言いたくないけど、あたしとフィーナはナナシに殺されても文句なんて言えないのよ。あたしが同じことを誰かにされたら、あたしだってナナシと同じことをすると思う」


「……言いたくないなら聞かないよ、でもボクには関係ない。ボクはこの戦争に参加しない」



 うん、それでいい。

 スズはそれでいいんだよ。


 あたしたち勇者のパーティの正義の罪に付き合って、悪に殺されにいく必要なんてない。


「うん、それで大丈夫。ごめんね、色々と迷惑かけて」


 あたしはそう言うとフィーナが出て行った扉に向かう。

 フィーナを追いかけるために。



「……エルザも、行くんだね?」



 あたしの背を見つめながら、スズが問いかけてきた。


 あたしは、フィーナみたいに決断なんて出来てない。

 死にたくないし、殺されたくないし、殺したくないし、だけどナナシの前で惨めにもがきたくない。




 ------それでも




「うん、あたしは行くわ。あたしはまだ諦められないから」



 あたしはみんなと生きたい。

 玉虫色で、なあなあで、みんなが何かを諦めて、みんなが何かを手に入れられるような、中途半端なあたしだからこそ目指せる目的が。



 多分、きっと、何か、あるはずなんだ。



 スズに気持ちを伝えてから部屋を出て、フィーナを追いかける。

 早足で、魔力を練りながら。

 人を殺さない程度の火力になるように調整しながら。



 殺すよりも殺さないようにする方が難しい。

 いつからだろう、魔法をこういう風に考え始めたのは。

 魔法は敵を倒す武器だと考え始めたのは。



「……失いたくない、あたしは誰も失いたくない。誰も殺したくない、誰も死なせたくない」



 きっと、難しいことをしようとしているのだろう。

 誰かが憎しみを飲み込んで、苦渋を飲み切らねばならないような選択をしなければならないのだろう。



「それが、あたしだったらよかったのに」



 本当に?自分だったら自分の気持ちを押し殺せるの?

 自分だったら家族を殺した相手を前に、これから先もその相手に笑顔を向けて生きていくことに耐えられるの?



 自分のしたことが、ナナシにとってどれだけ許せないことだったのか。

 自分がナナシの立場なら、そんな相手と友人になんて絶対になれない。



 悪に救われた人たちを前に、正義を掲げることなんて。

 あたしにできるだろうか?


 メアリーもナーガさんもネザー王子も、きっとあたしたちじゃ幸せにしてあげられなかった。


 もっと言うなら、こっちにいるスズだって、もしかしたら悪の側の方が幸せになれるのかもしれない。



 じゃあ、正義ってなんなの?

 幸せにできる人数が多い方が正義なの?

 100人の内、99人が幸せになれれば正義なの?


 1人の不幸はどうなるの?

 正義で幸せになれなかった人はどうしたらいいの?

 その1人が幸せになろうとしたら、それが悪なの?





 ------きっとあたしは、ずっとそう思ってきたんだ。

 だからナナシは不幸になったんだ。

 だからナナシは悪を選んだんだ。



 決して選ぶしかなかったわけではない悪を、ナナシは自分で選んだんだ。



 あたしは、足を止めて、胸に手を当てた。

 これ以上、進んではいけないような気がしたから。



 正義のせいで不幸になった人たちが、幸せになろうとしているのを止めるのが正義なら。

 それが勇者のパーティの役目だと言うのなら。



 そんなの、間違ってる。



 ジュッ



 魔力を練って、熱を持った手のひらに涙が溢れて、蒸発した。



「……あはは、情けないなあ」



 泣いたってどうにもならない。

 涙が溢れた手のひらを力無く握りしめる。



 どうすればいいの?どうしたらナナシは許してくれるの?

 どうしても許してくれないの?

 どうすれば誰も死ななくて済むの?



 こうすればよかった。

 ああすればよかった。

 こうしたい。ああしたい。



 失えるものに対して、手に入れたいものが多すぎる。

 奪った命はたくさんあるのに、奪われたくない命はこんなにある。




「強欲……だよね」



 あたしはそう呟くと、何をすればいいかも分からないフィーナの元へ、ゆっくりと足を進めた。

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