出会い フィーナ・アレクサンド
あれはいつの話だっただろうか。
僕にとって、1番大事な日。
勇者になった日よりも、ずっとずっと。
初めて、友達ができた日のこと。
アルメリア王国の外れにある小さな村の山奥でのこと。
旅の途中で通過するだけの予定だった村でのことだった。
僕たち勇者のパーティに村長と見受けられる老人が頭を下げてきたのだ。
その村は住民はそれなりにいるのにも関わらず、村人の身なりや村の中を見る限りかなり寂れていた。
話を聞くとどうやら山賊からの強奪、窃盗などで困っているそうだ。
お金は勿論、畑で育てている野菜や村で飼育している家畜、村人の家にある服や装飾品に至るまで、奪えるものはなんだって奪うような連中らしい。
救わねばならない、僕は勇者なのだから。
村からかき集めた破れた紙幣や錆びた硬貨を報酬に、村長は僕に依頼してきたが僕は報酬の受け取りを断った。
僕たちは別にお金に困っているわけではなかったし、この村の幸せを考えるのが勇者というものだろう。
そして僕たちは山賊たちの討伐、捕獲に向けて魔力感知をして山賊たちを探すメアリーを先頭に山の中へ入っていった。
勇者に選ばれてからの10年間。
我ながらなんとも割に合わない道を選んだものだと何度も思ったものだ。
僕が勇者になった日を境に、周りの人達は距離を置き始めたしね。
理由は様々。
勇者である僕が強くなるための鍛錬の邪魔になるわけにはいかないから。
なんとなく近づき難い存在な気がするから。
そして何よりーーー僕のそばは危険だから。
当然だよね。
勇者は魔族や悪に狙われる対象なのだから。
そうして僕は段々と1人になっていった。
メアリーやエルザとは一緒だったけれど2人は決して友達ではなかったから。
だから僕はきっと、ずっと1人なのだろう。
勇者として生きて、勇者として死ぬと決めたあの日から。
「……フィーナ様、この先に複数の魔力を感じます。恐らくは山賊たちのものかと」
「うん、ありがとうメアリー。ここから先は僕が先を歩く、エルザとメアリーは後衛からサポートを頼むね」
僕がそう言うとメアリーはこくりと頷いて後ろに下がった。
……8人、思ったよりも少ない。
他の連中はアジトに置いてきたのか、たまたまその8人だけが出かけていて僕たちが見つけたのか。
後者はないかな、恐らく僕たちが山に入った段階で誰かが僕たちの魔力に気付いたのだろう。
僕やエルザみたいな魔力の人間なら一般人でも分かっちゃうだろうしね。
一応、僕も魔力感知しておこうかな。
メアリーほどの精度や範囲ではないけれど、僕も当然魔力感知はできるしね。
万が一逃げられてもある程度ならばすぐに追えるはず。
バラバラに逃げられても、1番魔力の強い相手を追えばそれがボスでなくてもいい。
------ヒュッ
不意に投擲された石。
僕がそれを避けると、メアリーとエルザも臨戦体制に入る。
先頭に立っている体格のいい男が刃物を構えている。
茂みに何人か隠れてるね、1番魔力の高い人もそこにいる。
やはり彼らが山賊で正解のようだ、そして敵だということで間違いない。
「僕の名はフィーナ・アレクサンド!村の人達に害を為す山賊達、君達を捕まえにきた!!」
「『名を捨てた団』のボスだ。名は無い」
僕の言葉にそう返した男、どうやらこの男が山賊たちのボスみたいだね。
殺したくは、ないな。
「素直に投獄されてくれると助かるよ。村の人達からは生死は問わないと言われているけれど、出来る事なら殺したくない」
「はっ!馬鹿かお前?俺達は山賊として生きてきた、死ぬ時もそうだ。大人しくはいわかりましたとはいかねえんだよ!!」
うん、そうだよね、なんとなく分かってた。
そうでなければ、恐らくこうはなっていないのだから。
---ヒュッ
ボスという男が再び石を投げつけ、牽制してきた。
隙を作りたいのか、まさかそんなことで僕を倒せると思っているのか。
「はっ!!」
投げつけられた石を剣で払う。
上質な素材を使った、最高の剣。
だがボスという男は構わず石や土を投げつけてくる。
なんのつもりなんだろうか?狙いはなんだ?
僕が一瞬そう考えたその瞬間。
------2人分の魔力が消えた。
1人はほとんど魔力を感じなかった、もう1人はこの中で1番強い魔力を持っていた。
なぜその2人?ボスを名乗るこの男でなく?
追うべきか?
いや、追わせるのが目的かもしれない。
メアリーは気付いているはず、だけど追う素振りはしていない。
メアリーは後でいいと判断しているのだろうか?
……ボスを名乗る男を優先すべきか。
「……もう、いいかい?」
僕はボスを名乗る男にそう聞いた。
分かっているぞ、という牽制の意味を込めて。
焦らせるために、少しでも消えた2人情報を引き出すために。
だが彼の返答は僕の予想とは全く異なるものだった。
「……あぁ、ありがとよ、坊主」
彼の見た目と村で聞いた話を知らなければ、彼を山賊だと思えないほど優しい目で、彼はそう言った。
……そうか、確信した。
彼らは逃がしたのだ。
『名を捨てた団』という山賊よりも大切なものが彼らにはあるのだ。
そう考えていると、複数の魔力が急に現れた。
その中にはさっき感じた1番魔力の強い男もいた。
つまり彼らが逃がしたのは魔力を感じなかった奴か。
「おうロンド、平気か?」
「ああ、問題ねえよボス」
ボスを名乗る男がロンドと呼んだ男。
彼が1番強い魔力を持っていた男だ。
「……なあ、ロンドよ。もう、いいか?」
「……あぁ、いいぜ。俺はもう満足だ、ボスは?」
「がはは!!俺もだよ!!クソッタレみてえな人生だった!!!」
「ははっ!!まったくだ!!」
笑っている。
今まで殺した悪人たちの中にも何人かいた。
死を覚悟して、死を受け入れた者たちと一緒だ。
「……君たちが生きていたことで、どれだけの人間の笑顔を奪ったと思ってるんだい?どれだけの人間が涙を流して死んだと思ってるんだい?」
「……なあ坊主、お前は知らねえだろ?その涙を流して死んだ人間ですら、俺たちより幸せだったんだぜ?」
ボスという男が僕にそう言った。
優しい目をしながら、子供に教えるように。
「お前貴族アレクサンド家のフィーナ・アレクサンドだろ?いい身なりしてるもんな、所詮幸せな人間には俺たちみたいな奴らのことは理解出来ねえもんさ」
「自分が不幸のどん底だと思ってる人たちならたくさんいたよ」
その仕返しなら何をしてもいいと思ってる連中も。
「……くく、そうだろうよ。お前もそんな奴らと同じ目してるぜ?」
その言葉に身体がピクッと反応する。
僕が、彼らと同じ目を?
「なあ坊主、人間自分じゃ分からねえもんだ。自分が幸せかどうかなんてよ?自分が不幸だってことは分かるくせにな」
「……僕は、幸せなんかじゃない」
僕は何を言っているのだろう。
これから殺すことになるかもしれない相手に。
「くく、そうか。なれるといいな、幸せに」
そう言って彼らは笑っていた。
ただ決して、小馬鹿にしたような笑いではなく、それはまるで談笑しているかのように。
「……もういいかしら?大人しく捕まるつもりがないなら、ここで焼き殺すわよ?」
「随分とまあ、元気な嬢ちゃんだな。だってよお前ら、もういいか?」
「……はは、さっきも言ったろ?もう十分さ、俺も、みんなも」
ロンドという男の言葉に賛同するかのように周りの山賊たちは武器を構え始めた。
……やるつもり、なんだね。
「オラァ!!!」
ボスを名乗る男が自ら素手で突撃してきた。
出来ることなら、やはり殺したくはない。
でも、腕の一本くらいは覚悟してもらうよ。
僕は拳を躱しながら腕に剣を振り下ろす。
ボスを名乗る男の腕が宙を舞う。
「ボス!!!!」
山賊たちのうちの1人がボスを名乗る男の名を呼ぶ。
ボスを名乗る男は一瞬痛みに顔を歪めたが直ぐにこちらを向く。
「腕、か。舐めやがって」
僕に殺す気がないのがバレたかな。
だって人を殺すのは慣れないんだ。
心の中でそんな言い訳をしていた僕を見て。
ボスを名乗る男が声を上げる。
「おう、お前ら!!!ここで死ぬぞ!!!!」
「「「「おおおおおおおお!!!!!」」」」
彼らは覚悟を決めた。
次はー----僕の番だ。




