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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
三章  悪に救われる者たち
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爆炎と猛毒

「よう、待ったか?」



 ナナシたちは校門に到着し、フィーナ、エルザ、スズの3人に声をかけた。

 その中で普段通りと言える雰囲気だったのはフィーナだけである。



「少しだけね、話っていうのは?」



 しかしフィーナも普段とは違う。

 早くナナシと話を終わらせて別れたいのだろう、ようやくフィーナ・アレクサンドは理解したのだ。


 自分がナナシという人間にどれだけ取り込まれていたのかということを。



「そう焦んなよ、あんま一通りの多い場所でする話でもねえからよ。場所を移動してもいいか?」


「いいわ、ただ場所はこっちで決める。文句はないわよね?」



 エルザはナナシの提案を受け入れつつも否定的な態度を取る。

 彼女のナナシに対する信頼の無さとナナシを少しでも受け入れないような態度をナナシは小さく鼻で笑ったが。



「構わねえよ、随分信頼を失くしたもんだ」


「当たり前でしょ、アンタたちの指定した場所なんか危なすぎて行けるわけないじゃない。フィーナ、転移をお願い、周りに人がいなくて見晴らしのいい場所がいいわ。この4人を常に目の前に置けて常に警戒できる場所」



 その提案にフィーナは首を縦に振ると魔力を練り始めた。

 エルザはナナシを睨み、拳を握りしめたまま視線を逸らさない。

 スズは2人より後ろで興味なさそうにただ佇んでいた。



「そういえばどうだエルザ?新しい勇者のパーティーは?メアリーの代わりを探すのに苦労したって聞いてるぜ?」


「……転移発動まで10秒ってとこかしらね、まあ苦労したそうよ、スズを見つけたのはセレス学園長だけどね」



 転移まであと5秒。


 それに真っ先に気付いたのはやはりこの男だった。



「バンディット!!アルカから離れろ!!!!!」



 ナナシはその声に反応し、大きく後ろに飛んだ。



 ネザーの声に反応して飛んだナナシが見たもの。



 今にも魔法を撃ち込もうと、涙を流し、歯を食いしばりながら両手を前に構えたエルザだった。





 -----言ったわよねナナシ、一度だけだって




 エルザがそう言い終えた瞬間。

 フィーナの転移によって7人はその場から消えた。





 ----------



『ボルカニックカノン!!!!!』



 転移を終えて俺たちの目の前に広がったのはただ一つの巨大な爆炎だった。

 周りの風景など気にする間も与えない先制攻撃。

 まさに先手必勝、一撃必殺。



『完全超悪・界』


 後ろに跳ねながら魔力を練り、ギリギリ発動出来たおかげでなんとか爆炎は逸らした。

 でもこれじゃ足りねえ、ギリギリ練っただけのスカスカの魔力じゃ長くは持たねえ。


 相手は大魔導 エルザ・アルカ。

 とりあえずこの一撃をなんとかしねえと。


 その中で俺の思考より早く動いた奴がいた。

 巨大な爆炎と悪意に覆われながらメアリーが俺の前に出る。


「ネザー様!土壁で2人と隠れてください!!」



 メアリーはそう言うと後ろから俺の服を掴んでネザーに向かって俺ごと投げ捨てた。


「メアリー!?何考えてんだ!!」


「大丈夫だバンディット!!下がっていろ!!」


 メアリーを心配した俺をネザーは引き寄せるとメアリーの後ろで土の壁を作り出した。




『マゾヒスティックループ』



 メアリーの声と同時に俺の『完全超悪・界』は消え、爆炎が俺たちに襲いかかった。



『マゾヒスティックループ』『マゾヒスティックループ』『マゾヒスティックループ』『マゾヒスティックループ』『マゾヒスティックループ』『マゾヒスティックループ』『マゾヒスティックループ』『マゾヒスティックループ』



 土壁の中でなんとか聞こえたのは何度も何度もそれを唱え続けるメアリーの声だった。



 途中で喉が焼けたのか、掠れるような声になってももう一度唱える時にはその声は普段通りの声に戻っている。



 爆炎に覆われていた時間はそう長くはなかったが俺にはそれが永遠のように感じた。


 命を庇われるという一度だけ経験したあの日。

 この時間が終わった時にメアリーは無事なのか?


 また死んでしまうのか?また勇者たちに奪われるのか?


 そうさせないために、悪になることを、こうなることを選んだのではないのか?





 -----大丈夫ですよ、ナナシさん



 俺たちを覆う爆炎はようやく消え、メアリーの声が壁越しに聞こえる。



 俺は我先にと土壁を破壊して、外に出た。



 そこにいたのは一糸纏わぬ姿で仁王立ちしたメアリーだった。



「………ナナシさん、あまり見ないでいただけると助かります。服まで再生しないのは難点です」



 メアリーが何をしたのかを俺は分からないがたった一つ分かっている。

 ----俺はまた守られた。



「……メアリー!!!!!」


「はぁい、エルザさん。どうしたんです?そんなに声を荒げて?」



 怒声と言っても過言ではないような声でエルザがメアリーを呼び、メアリーはそれに応える。



「例えメアリーだって邪魔するなら怪我じゃ済まないわよ!?」


「ふふ、殺す気だったくせにまるで殺したくないようなことを言うんですねえ」



 エルザは再び拳を握りしめて、食い縛るような顔でメアリーを睨む。



 その一瞬。



「エルザ!!!!!」





『小鬼の毒撃』






 フィーナが叫ぶが遅い。



 ボキボキッ、という鈍く折れる音と共に少女の拳がエルザの脇腹に突き刺さり、小さく吹き飛ばされた。



 弱さ故の無警戒。



 最凶の男、ナナシ・バンディット。

 元聖女、メアリー・ロッド。

 戦闘狂、ネザー・アルメリア。



 この3人と行動を共にしているが故の警戒の薄さ。

 弱い今だからこそ可能な不意打ち、その不意打ちを有効にするための一撃必殺。



「安心して、私はあなたを殺さない。あなたを殺すのはメアリーだから。そしてフィーナさん、あなたも殺さない。あなたを殺すのはナナシくんだから」



 少女 ナーガ・ディオネ



 殺さないとはいえナーガに吹き飛ばされたエルザを見るにダメージは大きい。



 大きな咳と共に地面に飛び散る血。

 脇腹は風によって肉を抉られている。

 スズが急いでエルザに駆け寄り、傷を探る。



「……麻痺毒だね、解毒は僕の薬でなんとかできるから彼女の言う通りすぐに死ぬことはないと思う。でも身体の怪我の方は治療しないと後遺症が残るかも」



 スズはフィーナに説明しながら、鞄から注射器を取り出してエルザに射った。


「……先に手を出したのはこっちだし悪いのもこっちな気がするけどね。どうする?フィーナ様」


「スズさんはエルザを街に連れて行って治療してあげてくれるかい?こっちは僕1人でいいよ」


 もっと動揺しているかと思ったがフィーナも思いの外冷静だった。



「了解」



 スズはそう答えると転移の魔法を唱え始めた。



「フィーナ、一応言っとくけど自業自得だからな」

「分かってるよ、メアリーもついでに服を買ってきたらどうだい?」



 フィーナの指示ではない、と。

 まあそりゃそうか。


「おうメアリー、行ってこい」


「あの、私今全裸なので流石にこのまま街に転移されると困るんですけれども」


 ……そういえばそうだったな。

 あまり視線を送らない方が良さそうだ。



「じゃあ私がいくよ、買って戻ってくる」


「貴様1人では万が一アルカが回復してはどうしようもないだろう。僕もついていく、よいなバンディット?」



 まあいいだろう、ナーガはともかく可能ならネザーにはこの場に留まって欲しかったというのが本音ではあるんだがな。



「あぁ、油断するなよ」


「それはこっちのセリフだなバンディット、親しい仲だったとは言え貴様も気を許しすぎだ」



 ………ごもっともで。

 今のエルザの魔法もネザーがいなければ下手をすれば全滅していた可能性は十分あった。



「悪かったって。とりあえずナーガは頼んだぜ?ちゃんと無事に連れてこいよ?」


「……くはは、当然だ」



 そう言うとネザーとナーガもスズの元へ向かう。

 無神経、と見えるかもしれないがスズはそれを拒絶することなく受け入れていた。


 さて、こっちは全裸のメアリーとフィーナと俺の3人。

 万が一戦いになったら分が悪いな。



「で?話って何さ?」


「……あぁ、ヘリオって白髪の騎士知ってるか?」



 ……舐めた野郎だ、本当に。


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