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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
三章  悪に救われる者たち
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正義の勇者の世界救済

「………本当に行くのかい?」


「あぁ、ディーンが遠距離の転移できて助かったぜ。メアリーはもう転移も魔力感知もできねえからな」


 宿から出た俺たちは宿の前である話をしていた。

 俺が考えていた計画に必要なことを片付けるため、そしてディーンの依頼を果たすため。



「白魔法が使えなくてすいませんでしたね、ほらネザー様もいつまでもごねないでくださいよ」


「むぅ……僕としてはもう少し魔界の魔物と戯れあっていたかったのだがな、あっちに戻るのも何かと面倒なことが多いだろうに……」



 メアリーは俺の煽りに反応しながらネザーを宥めていた。

 まあ俺たちの中で人間の世界に戻って1番厄介ごとが多いのは間違いなくネザーだろうし嫌がる気持ちは分からんでもないけどな。



「リリレイ殿はワシが預かっておこう、人に化けておけば怪しまれることもなかろう」


「……ナー爺」


「………ナー爺?まさかとは思うがそれは太陽の神と呼ばれておるこの火龍イツァム・ナーのことかの?」



 リリレイと爺さんも気づくと仲良くなっていた。

 まあリリレイみたいなまだ幼い子供からすれば爺さんみたいな年寄りの方が安心できるところがあるんだろうな。


 だが何故か1番嫌がっていたのはナーガだった。

 普通の少女だったからこそ今の自分を人に見せることに抵抗でもあるのだろうな。



「はぁ……嫌だなあ……」


「うるせえな、お前は別に面倒なこともねえだろ」


「……修行でボロボロの顔とか腕を見られるのが嫌なの!顔とかも毒の火傷とか風の切り傷とかあるし」



 前言撤回、ナーガが1番大したことがなさそうだ。



「っし、そろそろいくぞ。頼むぜディーン」


「………わかったよ、僕はそんなに離れていないところに姿を隠して置くからなにかあったらネザー王子の転移で僕のところへ頼むよ。ネザー王子の転移と魔力感知なら難しくはないだろう」 


「ふむ、それは構わんが……」


 このままネザーの抵抗に付き合っているのも面倒だ。

 多少強引だが力技といこう。


「いいから行くぞ、後で俺とリリレイ以外の奴らと一戦ずつ用意してやるからよ」


「…………ほう、それは素晴らしい!いやなんとも魅力的なおまけがついてきたものだな!くはははは!!それでこそ幼児のようにごねてみた甲斐があるというものだ!!」



 …………この王子、やりやがったな。

 俺には関係ないこととはいえ一本取られたと言わざるを得ない。

 ナーガとメアリーはため息をついていた、こいつらも随分とネザーの戦闘狂に慣れてきたものだ。



「くはは!さあ用意はいいぞナイトハルト!僕たちを学園へ飛ばすがいい!久々に兄上に模擬戦でもしてもらうとするかな!」



 まあ上機嫌に越したことはない。


 特に今回はネザーに働いてもらうことになるだろうしな。




 --------




「………はぁ」



 フィーナは学園の窓を見つめながら深くため息をついた。

 そのため息が意味することを知っている人間はここにはほとんどいない。



「ねえエルザ、最近フィーナ様元気ないね。なんかあったのかな?」


 薄緑色の髪をした短髪の少女がエルザに話しかける。


「……スズ。……ま、腐っても勇者だからね。悩みは尽きないのよ」



 スズと呼ばれた少女はそっかと相槌を打つ。

 そして当然エルザもそのため息の理由を知る者の1人である。

 そしてこれが全員だ。

 つまり未だにフィーナは学園にもギルドにもナナシのことを話していない。


 またエルザもそれを容認している。

 ナナシと普通に話してしまったから、友達だと思っていた時と同じように話してしまったから。

 エルザももう、ナナシを見捨てられない。



「……エルザも変、もしかしてナナシ君たちのこと?」

「…………ッ!?」



 図星。

 スズが思っている形の心配とは全く違う形であるとはいえナナシたちのことであるのは間違いではない。

 でもそれをスズに言うわけにはいかない。


 何がナナシたちとの戦いの引き金になるかわからないからだ。


 もしそれをスズが学園やギルドに話してしまえばこの国は間違いなくナナシたちを敵と断定するだろう。


 そうなればナナシを救うことは叶わない。

 そもそもあのナナシにとっての救いというものがなんなのか、エルザもフィーナも分からないままだというのに。



「……まあそうね、メアリーやネザー様も一緒だから大丈夫だと思いたいけど」



 誤魔化さなくては。

 この嘘がもし明日我が身を滅ぼすことになったとしてもエルザはナナシを敵に回せない。



 自分とフィーナはナナシに復讐されるべきなのだから。

 ナナシがそれを望んでいると知ってしまったから。



 全てが手遅れの現状に今更手遅れが増えたところできっと何も変わらない。



 やはりナナシと会うべきではなかった。

 会った時にナナシを殺すべきだった。



 しかしエルザにそれは出来なかった。

 フィーナにも出来なかったのだから。



 いつかきっとナナシは自分を殺しに来るのだろう。

 その時にはきっとナナシは笑顔を向けてはくれない。



 エルザは知ってしまったのだ。

 自分にとってのナナシという存在の大きさを。



 エルザは机に顔を伏せる。

 涙を隠すために。




 --------ガラガラガラ



 その時だった。

 教室の扉を他クラスの生徒がノックもせずに開けてこう言った。




「おい!!バンディットたちが帰ってきたぞ!!!」




 その声に教室中がざわめきだした。



「ほらやっぱりネザー様がいるんだから大丈夫だって言ったろ!?」


「さすがメアリー様ですわ!!」


「ナーガちゃん……無事でよかった………」


「やっぱりあのバンディットとかいう奴すげえんじゃねえか!?」



 エルザの頭にナナシたちの顔が浮かび、エルザは勢いよく立ち上がった。



「………フィーナ!!!」



 そう呼んで向いたフィーナの席。

 そこにはもう既にフィーナの姿はなかった。


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