教え
話していた通り、ロンドとの魔力の修行に並行してボスと肉体を鍛える修行も行っていた。
基本的に筋トレと組み手の修行だったが、たまに短刀の使い方も教えてくれた。
「ナナシ、俺達は山賊だ。世間に忌み嫌われ、蔑まれるだけの賊だ。そんな俺達の武器は何かわかるか?」
「……武器を持ってる事?」
「アホ、武器なんかそこら中にある。例えばそうだな……」
そう言うとボスは少しキョロキョロと周りを見回していくつか拾うと戻ってきた。
「例えばこの鋭い枝、大きな石、毒を持つキノコ。この全てが相手を殺す武器になる。お前が今立っている地面にある砂や土を目潰しに使うのもいい。どんな場所でも相手を殺す武器はどこかに必ずある」
「うん」
「そんでそれは正解じゃない。俺達の武器は相手を殺すための理由がなくても相手を殺せる事だ。殺すのに躊躇いがない事だ」
それならもう持っているな。
だがボスの考えは俺とは違った。
「自分が持っていない物を持ってるのがムカつくからとかそんな理由はいらねえ。羨ましいとかそんな理由はいらねえんだ。いいか?全ては殺した後で、または殺された後だ」
ずっと殺すための理由があった。
ボスの言った通り、気に入らないとかムカつくとか。
殺すために生きてきた俺と生きるために殺してきたボス達との差。
多分、どっちも間違っているのだろう。
人を殺してはいけません、なんて特別誰かにしっかり教えられたわけでもないのに皆がそう思っている。
「……まあそう考えても簡単に割り切って出来る事じゃねえんだけどよ。もしナナシがこの先俺達と同じように生きるなら覚えとけ。この世界には殺しても許しきれない奴なんてのがいるんだよ」
「ボスは……?」
「ん?」
「ボスにも殺しても許しきれない奴がいたの?」
「あぁ、いた」
「そっか」
「……誰?って聞かねえのか?」
「はは、どうせもう殺してて許しきれなかったんでしょ?」
「……そうなんだよなあ」
「そういえばボスの名前知らないや、教えてくれないの?」
「あー名前はもう名乗れねえのさ。まだロンドから聞いてねえか?」
「うん」
「まあ魔法の誓約って奴でな、能力の強化と引き換えに何か代償を支払うんだよ。その代償が大きければ大きいほど能力は強くなる。俺はそれを名前とかで払ったってだけさ」
誓約、そんなものもあるのか。
そして名前「とか」で払ったって事は名前だけじゃなかったんだろうな。
「まあそれはまだ考えなくていい。とりあえず修行だ修行!!どんだけ強い魔法を使えても体力がなきゃ意味がねえ!!死ぬほど筋トレして走れ!!そっこらは組み手で蹴って殴られろ!!」
これはまた随分スパルタだ。
だがボスやロンドを見る限り合っているのだろうな。
効率うんぬんはわからないが、学園に入るまでの10年はおそらくこれが日常になるのだろう。
16になったらこいつらともおさらばだ。
それまで充分に鍛えて貰うとしよう。
そして俺は毎日を修行で過ごした。
10歳になった日に初めて酒を飲まされた。
全く酔わない俺を面白がってみんなが次から次へと酒を注ぎ、なんだかんだ吐くまで飲まされた。
12歳の時にはみんなが昔話をしてくれた。
住んでいた村にいた家族の話、生まれた国の話、いい王様の話、悪い貴族の話。
いつか殺すつもりの奴らの話などさほど興味はなかったが少し楽しかった。
14歳になった時初めて1人で村に野菜を盗みに行った。意外と大した事はなく、あっさりと奪うことができた。
皆からしたら普段の事だろうに、その日の夕食は普段より豪勢だった。
俺は段々皆と一緒にいるのが怖くなっていた。
ここを出て行く時に俺は本当にこの人達を殺せるのだろうか。
明日には愛着が湧いているかもしてない。
ここにずっといるのも悪くないのかもしれない。
寝る時にそんな事を考える程には。
そしてもうすぐ16になると言う時。
----そう考える必要がなくなった。