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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
三章  悪に救われる者たち
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違うということ

 俺は計画の全てをイツァム・ナーに話した。

 イツァム・ナーは俺の目を睨むように見ている。

 てっきりすぐに殺しに来るかと思って警戒くらいはしていたんだがな。



「…………ふう、なるほどのう」


 イツァム・ナーはため息をついた。

 どうやら殺しに来るつもりはないようだ。



「小僧よ、貴様は自分の言っておることがどういうことか分かっておるのか?」


 イツァム・ナーは未だに俺から目を逸らすこともせずに問いかける。


「あぁ、分かってる。お前にとっても裏切りになるんだろうな」


「そうではないわ、貴様にとってという話じゃ。ワシにとってなどどうでもよい、それがワシらの繁栄になるのならな」


 正直、俺は自分の計画がこいつらの繁栄に繋がるとは考えていない。

 だがこいつがそう話をするのならこいつにはこいつなりの考えがあるのだろう。


「繁栄の話はそっちでやってくれ、俺には関係ねえからな。俺にとってって言う話ならそれでいい、あの時からずっとそう思ってた」



 我ながら冷たい言い方をしたものだと思う。

 しかしイツァム・ナーの表情は随分と優しいものだった。

 そしてイツァム・ナーは俺に問う。


「……小僧、貴様はこの魔界にいる人間たちがどうして魔界にいると思う?」


「…………人間の世界にいられない理由があるからだろ?」


 そんなのそうに決まってる。

 誰かを殺したとか何かを奪ったとか、罪を負った人間が罪から逃げたのだ。



「……正解じゃ。人間の世界にいられなくなったんじゃよ、あの人間たちは。

 ……小僧、貴様ならもうワシの言いたいことは分かるじゃろう?」


「……あぁ、分かってる。ずっと分かってたつもりだったけどやっと分かったんだ」



 俺がそう言うとイツァム・ナーはようやく俺から目を逸らし、大きくため息をついた。

 そして再び俺の目を見る。


「…………貴様について行く。小僧に興味がある、貴様がこれからどう生きてどうなってどう死ぬか。ワシはそれをこの目で見たい」


 あの冷たい目だ。

 燃えるように緋い目からは想像もできないほどの冷たい目。


「魔物でもやっぱり俺は間違ってると思うか?」


「当然じゃろ、1500年もの間生きてきたがここまで間違う奴はそうはおらんかった」


 やはりそうなのだ。

 俺は間違っている。

 それでも俺は足を止めるわけにはいかない。


「なあ爺さん」


「……小僧、それはひょっとしてワシの事かのう?」


 爺さんという呼び方が気に入らないのかイツァム・ナーが俺のことを睨む。


「今この場所にお前以外に俺が呼べる相手がいるか?」


「……舐めた小僧じゃの……なんじゃ」


 それでもこいつはそれを受け入れた。

 他愛のないことだがそれを受け入れる程度の価値を俺に見出してくれたのだろう。



「お前に話してよかったよ」



 イツァム・ナーの反応が随分と遅れる。

 細い目を見開き、口を少しだけ開いて驚いているのが分かる。



「……ぬかせ、小僧が」


「まあでもそういう夢だったんだろ?七つの大罪を従えた俺が世界を救うってよ」



 随分と都合のいい夢だ、そして捻くれた夢。

 そして俺は再び歩き出した。

 ネザーと魔王の元へ戻るために。


 そして後ろからついてきたイツァム・ナーがぼそっと呟いた。


「…………違うということは1500年生きたとて理解できるものではないのう」


 それを聞いた俺は足を止めてイツァム・ナーの方を振り返って答えた。

 俺に出来る限りの笑みを浮かべながら。


「当たり前だろ?俺は人間でお前は火龍。俺は若者でお前は爺さん。俺は悪でお前は魔。そんだけ違えば理解なんてできっこねえよ」



 --------





 ワシが初めてこの小僧の魔力を感じた時。

 この小僧は人間の世界にいられなくなったのだろうと思った。


 魔界で生きている人間たちのように。

 人間の世界で何か大きな罪を犯して逃げてきた悪人だと。


 この小僧が人間の世界で何をやらかしたのか。

 この小僧が人間の世界の何から逃げてきたのか。


 殺したか?奪ったか?犯したか?

 違った。


 友からか?軍からか?国からか?

 違った。



 この小僧はやらかしたから来たのではない。

 やらかすために来たのだ。

 この小僧は逃げてきたのではない。

 立ち向かうために来たのだ。


 どうして?

 お世辞にも強大とは言えぬが凶悪な魔力を持ち、お世辞にも最強とは言えぬが強力な魔王が味方についているというのにこれ以上何を求めに来た?



 この小僧はどんな生き様を持つのだろう?

 この小僧はどんな生き方を望むのだろう?

 この小僧はどんな死に方を得るのだろう?

 この小僧はどんな死に様を負うのだろう?



 ナナシ・バンディット。


 この小僧がこの先どれほどの人間を不幸のどん底に叩き落とすことか分かったものではない。

 悪に染まることを選んだからこそのあの魔力。



 勇者と戦うためだけにこの小僧はどれほどの犠牲を払うつもりなのだろうか。

 それほどの犠牲の価値がその戦いにあるのだろうか。


 勇者と戦うために勇者と違うことを選んだこの小僧の先を見たい。

 生き様など二の次だと吐いたこのワシが生き様を見届けることを望んでいるというのか?


 そうじゃ、望んでいる。

 ワシはこの小僧の行く先を見ることを望んでいる。



 小僧が話した計画というものはそう思うに十分値するものであった。



 あの魔力を感じた後にこの小僧を見た時、目を疑ってしまった。

 あの魔力を持つ者が仲間を引き連れておった。

 あの魔力を持つ者がワシの流した溶岩の津波の最前線に立ち、仲間を守っておった。



 ほんの短い時間であったが勘違いをしていたのだ。

 この小僧は邪悪な魔力を持つだけの人間なのだと。


 それもその計画を聞くまでのことだった。

 この小僧はそんな人間ではなかった。



 なんのこともない、感じた通りのことだ。

 この小僧は邪悪な魔力を持つ悪人だったというだけのこと。



 目的のために手段を選ぶことをしない。

 どんなことをしても、どんな犠牲を払ったとしても。

 この小僧はその目的を遂げるだろう。



 人間と魔物の戦争などこの小僧にとっては優しいものなのだろう。

 お互いがお互いの大事なものを守るために戦っておるのだから。



 大事なものを失って涙を流す者を見ないために。

 大事なものを失って後を追うものを出さぬために。



 この小僧には、ナナシ・バンディットにはそれがない。



『戦うために大事なものを失いにいくのだ』



 なんと間違った人間なのだろう。

 失うことが手段で戦うことが目的なのだ。



 きっとこの小僧は人間に向いていない。

 魔物であるワシにもわかる。



 この小僧が人間などではなくただ誰かを不幸にするだけのものに生まれたならどれほど小僧は幸せだっただろうか。



 それは炎でもよい、毒でもよい。

 落雷でも、竜巻でも、津波でもよい。



 そして小僧もそう思っておる。

 そうなりたいと思っておる。

 そうなろうと思っておる。



 今のワシには小僧の計画を誰かに話す権利などない。

 話すことが出来るというならばたった一つだけ。






 小僧がそうなるためのものだということだけかの。


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