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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
三章  悪に救われる者たち
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憤怒の火龍

『火龍 イツァム・ナー』


 太陽を司るとして崇拝されている龍である。

 魔界の火山の溶岩に住み、燃える岩を食べ、マグマを飲み、炎を吸って生きている。


 龍と言われているがその容姿はどちらかと言うとワニに近く、背に炎の羽を作り出して空を飛ぶ事もできる。


 しかし崇拝されているというのはあくまで伝説上の話であり、魔物としてのイツァム・ナーは話が違う。

 イツァム・ナーが歩いた道は溶岩となり、ただの一息が生物を溶かす熱風になり、飛んだ空は一面の陽炎を作り出す。


 しかし性格は極めて温厚で自ら生物を襲うことは滅多になく縄張り意識も低いのでこちらから手を出さなければ襲ってくることはないので生物としてと危険度はB級とされている。


「書物に書いてあるイツァム・ナーの情報としてはこのくらいですね」


「……と、いうわけなんだがどう思うよお前ら」


 魔王の回復が終わり転移で魔王が魔界に帰った後、俺たちは別の街に向かって歩きながら話していた。


「ふむ、まあ味方になる分には頼もしい限りであるがな。問題は山積みであるぞバンディット」


「………メアリーさんが急に寮に現れたと思ったらこんな山道に転移で連れてこられて私は今何の話をされているんですかね……」


 メアリーに連れて来させたナーガがぐちぐちと言っているがそんな事はどうでもいい。

 問題はネザーのいう問題についてだ。


「まあ確かに問題は多いよな……」


 仲間になったとしてどうやって連れて歩くか?

 どうやって食物としている溶岩や焼けた岩や空気としている炎を用意するか?

 戦いの最中にただでさえ俺の【完全超悪】で動きが制限されているネザーやメアリー、ナーガの動きをさらに奴の作り出す環境で制限することになる。


「魔王様は1週間後に私たちの魔力を探って返事を聞きにくるそうですし焦ることはないとは言え……」


「とりあえずディオネに説明してやろうではないか!仲間はずれというのは寂しかろう!」


「仲間に入れて欲しいと頼んだ覚えはないんですけど」


「イツァム・ナーって龍知ってるか?そいつが俺らの仲間だって魔王が言っててよ、どうすっかって話だ」


「…………!?」


 そこから先、ナーガはずっと騒いでいた。

 早く転移で返してくださいだの魔王ってなんの事ですかだのイツァム・ナーの友達なんていらないだのまるで駄々っ子のようだ。

 まあ実際気持ちは分からんでもないがどうせいつかは国を出るつもりではあったし、その時はナーガも連れて行く予定だった。

 気掛かりなのは俺たちがギルドへの登録を済ませた以上、その情報が共有されているであろうという事。

 そしておそらくあの2人の生徒が殺されたことをフィーナとエルザは報告するだろう。

 そうなった時にナーガだけが残っていた場合、間違いなくナーガは軟禁される事となる。

 最悪、尋問されて仲間として使い物にならなくなる可能性もある。


「まあ仕方のない事ですよナーガさん、諦めも肝心だと神も言っています」


「見捨てる神がどこにいますか!?」


「拾う神あれば捨てる神ありといいますし」


「神神神……これだから神に全てを捧げる狂信者は……」


「狂信者!?」


「まあ神などといるかも分からぬ者に頼るのは僕も理解できん。神に祈る時間を自分に割けばどれだけ成長していたか分からん者も多いぞ?」


「ぐぬぬ……無宗教共め……!!ナナシさんは!?神様肯定派ですよね!?」


 神云々の話を俺に振るのかメアリーは。

 まあ神にこの世界に送られた身としてはいるとは思うが肯定派かといわれるとな……


「あー神なー……だって神って言ったもん勝ちみたいなとこあんだろ?神に愛された夢を見ました!だから私は神の子です!私を崇めなさい!みたいな」


「そんな事はありません!神はいつも貴方の事を見ています!強きを抑え!弱気を守り!悪事を滅し!それ即ち神の加護を得たり!です!」


 メアリーはふんふん言いながら神の事を俺に言うが興奮しすぎだ。

 全部ブーメランだ。


「んじゃ俺らは揃いも揃って辺獄行きだな。メアリーも神に媚びても無駄だぞ?」


「………!?」


 からかっていたつもりだがメアリーの顔は真っ青でぶつぶつと何かを呟いている。

 ナーガはそれを横目で見ながらため息をついていた。


「なぁネザー、お前イツァム・ナーとやりたいか?」


「む?それは勿論だ、やれるものならやりたいし欲を言えば殺したい。鱗を削ぎ、皮を剥ぎ、肉を裂き、骨を断ちたいところだ」


 俺がそう聞くとネザーはここぞとばかりに欲を出し話し始めた。

 戦闘狂にも恐怖はあるだろうと心配してみたがどうやら杞憂だったようだ。


「そこまでしろとは言ってねえよ。最悪戦いになった時に勝てるかどうかだけ知りてえんだよ」


「………くはは!何を先程から腑抜けた事を言っている!貴様は僕が認めた僕の王だぞ?やりたいかではなくやれと命じろ、勝てるかではなく勝てと命じろ。僕は必ず笑みを浮かべながら頷こう、やるのだろう?イツァム・ナーと」


 ネザーは分かっていると言わんばかりに笑みを浮かべながら俺にそう言った。

 王子であるネザーが俺の駒である事に絶対の誇りを持っているのがそれだけでわかる。


「……1週間も必要なかったな、戦いになった時のやり方はお前に任せる。メアリーもナーガも好きに使え、もちろん俺の事もだ。誰一人殺さず火龍を討て」


 ネザーはその命令に返事をしなかった。

 ただ笑みを浮かべ、自前の短刀を指でくるくると回している。


「僕たちはもう街には戻れぬ、つまりこの1週間は野宿になる。その間ロッドを借りるぞ、戦闘においてロッドのスタイルを確立せねばなるまい?ディオネは貴様に任せる」


 そう言うとネザーはメアリーの横に歩いて行った。


「………さて、お前はどうする?」


 俺からのその問いには答えずにナーガは俯いて俺の後ろを歩いていた。


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