ナナシVSキングオーガ
「ったく……どうすんだよオーガの耳、窒息すんの待ってから掘り出すか?」
「まぁせっかくの素材ですからねぇ、それに出来ればまた探して歩くのは遠慮したいです」
「僕はまだ戦えと言われれば喜んで戦うが?」
「……今はそんな話はしてませんよネザー様」
せっかくのオーガも埋まってしまっては素材にも金にもならない、別にたいして苦労したわけではないからいいといえばいいのだがやはり勿体ない。
「ふむ、ではこの砂が無くなるまで緑魔法で何か適当に生成するか。豚とはいえ楽しませてくれた礼に墓くらい作ってやるとしよう」
「あーそうだな、頼むぜネザー」
結局ネザーはそれから砂で4匹分の墓を生成し、しまいには供物として花の形をした砂まで生成し出した。
10分程の時間だったが砂の圧と無に近い空気、ネザーが生成を終えて穴を覗き込むと4匹はほとんど動かなかった。
しかし微かに呼吸の音が聞こえる。
まだ絶命までは至らなかったようだ。
「む?豚どもめ、まだ生きておったか。苦しかろうな、今すぐに楽にしてやろう」
ネザーがそう言ってオーガのある穴に近付いた瞬間だった。
ブギャァァァァォ!!!!!
劈くような鳴き声と共に森の奥から現れたのは、ジャックオーガよりもさらに一回り以上大きなオーガだった。
「……キングオーガですね、魔力のコントロールをして魔力を消してジャックオーガの臭いを辿って来たのでしょう」
「ほう!これがキングオーガか!!いやはやなんと素晴らしい巨躯だろうか!!バンディットよ、此奴も僕がやってよいな?」
ネザーはそう言うがジャックオーガはネザーの気を収める為に仕方なく譲ったのだ。
俺だって魔物に対して試したい事はある。
「試したい事があるんでな、悪いが譲ってくれ」
「ほう?新しい技か?それなら僕が相手をするが」
「いや、そういうんじゃねえんだよ。魔物相手じゃなきゃ意味がねえんだ」
ネザーは不思議そうな顔をして首を傾げている。
しかしこれだけはやっておかねばならないのだ。
「下がってろお前ら、気失っても知らねえぜ?」
俺は一応声をかけるがメアリーもネザーもナーガも誰も必要以上に下がる事をしない。
それぞれ理由は違うがそれは例えば悪足る為の意地だったり、興味だったり、品定めだったり。
「随分強気じゃねえかよお前ら、頼もしい限りだぜ」
そう言って俺は魔力を練り始める。
目の前にいるキングオーガはそれに気づいて警戒しているのか突っ込んで来るような事はない。
「【完全超悪】」
今回は半分程の魔力を込めて使用する。
目的は2つ。
1つはBランクの依頼のオーガの親玉相手に【完全超悪】が通用するかどうか。
俺はキングオーガに視線をやる。
キングオーガは見るからに怯えている。
そう、キングオーガには知能があるのだ。
危機を乗り越えるために群れを成すような知識。
危機に対する警戒をするような魔物だとするならば奴らにはあるはずなのだ。
『恐怖』という感情が。
まず前提としてオーガは悪ではない。
自分達が生きる為に獲物を殺し、自分達が殺されない為に敵を殺す。
そこにあるのは善悪のそれではない野生という生き様のみ。
だからこそ奴らは【完全超悪】を警戒し、怯えるのだ。
俺は一歩ずつキングオーガに近づいていく。
キングオーガは完全に萎縮しており、下手に後ろに下がっていいのかすら分かっていないのだろう。
俺はキングオーガに触れられる程の距離まで近づくと奴に掌を上に向けて差し出した。
俺が確かめたかった2つ目の理由。
『魔物は恐怖に対し服従するのか』
キングオーガは周りをキョロキョロ見渡してから再び俺の顔を見る。
そしてそこから俺の手に目線を下げる。
俺の【完全超悪】で死の危険まで感じているのだろう。
キングオーガは恐る恐る指を1本だけ立てるとゆっくりと膝を着き、俺の掌に指を乗せる。
俺はキングオーガの差し出した指を撫でてやるとキングオーガは不思議そうな顔でこちらを見つめている。
少しの間それを続けていると結果は出た。
キングオーガは安心したようで身体の力が抜けている。
これは決して俺を敵でないと判断したわけではない。
俺を敵に回さなくて済んだと判断したのだ。
「メアリー、ジャックオーガとオーガに【ヒール】を使ってやれ」
「………はぁい」
メアリーは俺の言葉をオーガと同じくらい不思議そうな顔で聞いていたが目的を察したのか穴の上から4匹にヒールをかける。
ジャックオーガ達はまだ穴の中にいるものの、回復して立ち上がりはじめる。
そしてキングオーガと目が合うとギャァギャァと何か会話をし始めた。
俺は黙ってそれを待っている。
言葉は分からないが内容は察しがつく。
この人間は敵ではない、もしくはこの人間は敵にしてはいけない。と言ったところだろう。
ジャックオーガ達も自力で穴から抜け出すとキングオーガの後ろに下がる。
キングオーガは今すぐにでも逃げたいのだろうが生半可に知能がある分、何もなしに逃げるのはいけないと思ったのか身体を探している。
他の冒険者達の依頼で狩られたオーガの死骸を思い出したのだろう。
キングオーガは自分の耳を1つ勢いよく千切ったのだ。
キングオーガはそれを恐る恐る俺に差し出した。
俺はそれを遠慮なく受け取ると再びメアリーを呼んだ。
「メアリー、コイツにも【ヒール】を頼む」
「はぁい」
そう返事をしてメアリーはキングオーガの耳を治療し始める。
なくなった耳が生えてくる事はなかったが流れていた血は止まり、キングオーガは再び不思議そうに耳があった部分を撫でる。
俺はキングオーガの耳を適当な袋にしまうとそれを見たキングオーガ達はもういいと判断したのか森の中へ帰っていった。
「ふむ、試したかったというのは魔物に【完全超悪】が通じるかどうかという話だったのだな」
「まあそんなとこだ、んじゃ帰るか」
「……え?ギルドからの依頼はオーガ3匹の討伐ですよ?」
「ナーガさんは今のやり取りを見てたのにオーガを殺して耳削ぎとれるんですか?」
「………無理です」
「ま、そもそも目的が違うしな。別に依頼を達成したかったわけじゃねえし、ネザーの気晴らしと俺の試したかった事をやりに来ただけだ。この耳はギルドが欲しがるなら売ってやるけどな」
「耳だけじゃ素材にもなりませんしね、まあちょっと狩ってきたって見せるだけでいいんじゃないですか?」
俺たちはその場で話を始める。
三人がギルドの依頼を続けるかどうかの話をしている中、俺は袋からキングオーガの耳を摘んで取り出した。
俺の掌よりも大きく硬い耳、魔物の部位を見つめて改めてギルドにきた事を実感する。
そしてキングオーガの耳を自分の目線より高いところで見つめながら俺は呟いた。
「欲しいのは左の耳じゃなくて右の耳だったんだがなぁ」




