悪の勇者の世界征服
ギルドの使いと共馬車に乗って3時間程、アルメリアの街から少し離れた場所にある街に着いた。
「こちらが我がアルメリアのギルド本部になります、本日は宿を取っていますのでそちらにお泊りになってくださいね」
ギルドの使いはそれだけ言うと馬車を連れて帰っていった。
「さ、ナナシ達のギルド登録を済まそうか。どうせナナシはすぐにでも依頼を受けるつもりなんだろう?暗くなる前に終わらせちゃいなよ?」
「はは!分かってんじゃねえかフィーナ、『久しぶりに』魔物を狩れるのが楽しみでな」
「………!!」
「……ふふ、まあ無理はしないようにね。僕らは今日は宿で休むよ、移動の疲れもあるしね」
久しぶりに、と言う言葉にエルザが咄嗟に反応する。
ずっと山賊に捕らえられていたという嘘の意味を失くす行為。
フィーナも少し言葉に詰まったものの冷静に言葉を返す。
フィーナもエルザも分かっていた、これはナナシからの宣戦布告だと。
ナナシから自分達に対しての明確な言葉での敵対。
「………あぁそうだフィーナ。次会ったらさ、ちょっと付き合ってくれよ。そろそろ一回お前と本気で戦ってみたいんだ」
次、本気で。
もちろんこれはそういう意味である。
本気で殺すつもりでやるからお前も殺すつもりでやれよ。
ナナシは分かっている、ナナシは信じている。
フィーナならば分かってくれると。
「……時間の無駄になるだろうし、やめておいた方がいいよ」
それから逃げたのはフィーナの方だった。
しかし逃げに見えるのは言葉だけ、フィーナの目はそうは言っていない。
いつでも来なよと言わんばかりの目。
「それもそうだな、んじゃまた今度にするわ」
ナナシもその言葉に返すようにフィーナの目を見る。
覚悟しておけよ、という目で。
「……僕達はもう宿に行くよ、気をつけてね」
「あぁ」
そしてナナシとフィーナはすれ違う。
善と悪がすれ違う。
善の勇者と悪の勇者がすれ違う。
「じゃあな、親友」
「またね、親友」
一瞬だけ重なったように見えた光と闇は再び別れるのだった。
ーーーーーーー
---俺は別れを告げたつもりだった。
2度と親友として会う事がないように『じゃあな』と言ったんだ。
でもフィーナは『またね』と言った。
アイツは次会う時にも親友として会うつもりなのだ。
あれだけはっきり宣戦布告したにも関わらず、アイツはまだ俺を信じている。
心の中で笑いがこみ上げてくる。
どっかの神とかいうのが本当の勇者は俺だとか言ったらしいが、やっぱり本当の勇者はお前だよフィーナ。
きっと世界を救うのはお前だ。
仲間を信じる事を貫いたのはお前の方だった。
親友を信じきったのはお前の方だった。
だからこそ俺はお前の敵になれる。
勇者なんて柄じゃねえ、平和なんて興味もねえ。
民なんて助けねえし、世界も守らねえ。
俺はお前を殺す為に勇者の敵になろう。
お前が俺を殺したくなるように平和を壊そう。
お前が守る民に疎まれ憎まれ蔑まれよう。
世界を救わせない為にこの世界を征服しよう。
今はまだ俺たちは弱い。
信頼関係なんてもんは無いし、悪に染まってない奴もいるし、俺の味方じゃねえって奴までいる。
ーーーーそれがどうした?
そもそも俺達に強さなんて必要ない。
いちいち信頼なんてもんに頼らない。
悪に染まれない奴は切り捨てる。
味方じゃない奴はぶち殺す。
さぁ、別れは済ませた。
ここから先は正義と悪の戦争だ。
「行くぞお前ら、勇者の敵になる為に俺たちはこの世界を征服する」




