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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
二章  邪悪に魅せられた者たち
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エルザの苦悩とフィーナの心

「聞いたか?あのナナシとかいう奴の話」


「あぁ…緋剣ディーン・ナイトハルトに決闘で勝ったんだろ……?」


「あの闘技場での黒魔法も随分騒ぎになってたよな」


 ナナシとディーンさんが決闘した翌日の話。

 教室でクラスメイト達が話しているのが聴こえてくる。

 僕がナナシの友人だって分かってるんだからこういう事は僕も混ぜた方が話せる事はあると思うけれどクラスメイトはやはり遠慮しているのか話しかけてくる事はない。



「………あの緋剣がボコボコにされてもう戦えないって話マジなのかな……?」


「……まさか、自信をつけさせるためにナナシとかいう奴に華を持たせてやったんだろ」


「それもそうだよな、ナナシって奴黒魔法の威圧は凄いけど実力的には大した事なさそうだったし」



 この噂は僕も聞いている。

 ナナシがボコボコにしたという部分は正直納得できてしまうのが辛いところだ。


「ねえフィーナ、聞いた?ナナシとディーンの話」


 クラスで唯一の友人のエルザが僕に話しかけてきてくれた。


「うん、今もクラスメイトが話してたのを聞いていたよ。彼らは僕に話しかけていたわけではないけどね」


「……急に寂しい事言うんじゃないわよ……じゃああの黒魔法はやっぱり……」


「ナナシで間違いないだろうね、ディーンさんが2度と戦えないっていうのも本当だと思う」


「本当に?相手はあの緋剣よ?ナナシじゃ勝ち目なんて」


「あるさ」


 そう、ナナシならディーンさんにも勝てるだろう。

 純粋な戦闘でなく、何かしら策を練って戦えばナナシなら勝てる。

 ナナシが本気の黒魔法を一部分に集めたりすれば動きを制限するのはそう難しくないだろう。


「どうやったかはわからないけどね、でもわかるんだ。ナナシならディーンさんに勝てる」


「……フィーナはどう思ってるの?ナナシの事」


「一番の友達さ、ナナシは僕の親友だよ」


「……あの入学式の前日の夜の魔力の持ち主がナナシだって分かってるのよね?」


「もちろんさ、ナナシは邪悪な魔力の持ち主だ。でもそれがなんだって言うのさ?」


「……危険すぎるわよ、ナナシは」


 そんな事は元からわかってる。

 ナナシはいつか僕の敵になるのかもしれない、それは明日かもしれないしもっと先の話かもしれない。


「そうかな?」


「そうよ!あの魔力を感じたでしょう!?いつか戦った魔王の使いだってあそこまで禍々しい魔力はしてなかった……もしナナシが私達を殺そうとしたらフィーナは戦えるわけ!?」


「戦えるさ、そして僕が勝つ」


 そう、ナナシがいつか敵に回ったとしても関係ない。

 僕は負けないのだから、僕が勝つのだから。

 その戦いを何度繰り返そうとも、何度ナナシと敵対しようとも。


 僕は死ぬまでナナシに負ける事はない。


「エルザ、君は勘違いしてる。ナナシが僕達を殺そうとしたら僕達は殺されるのかい?勇者、大魔導、聖女を相手にナナシが勝つ見込みがあるのかい?」


「そんなのわからないじゃない……ナナシの力の底だって私達は知らないのよ?」


「そうだね、まだ僕らが友人になって半年だからね。これからおいおい時間をかけて知っていこう、お互いの事を。そうすればナナシもいつかはわかってくれるはずだよ」



 我ながらよくもまあこれだけの口から出任せを言えたものだ。

 ナナシとはいつか絶対に戦う運命にあるのだろう。

 いつか勇者である僕が魔王と戦う運命にあるように。


 聖であり、善である僕は魔と戦う運命で悪と戦う運命なのだ。


 そして僕は魔王を滅ぼし、ナナシを倒し続ける。

 それだけの事なのだ。



「僕を誰だと思ってるのさエルザ、僕は勇者フィーナ・アレクサンドだよ。悪にも魔にも負ける事は許されていないのさ。さ、今夜はナナシの部屋でボードゲームでもやろうかな。今日はネザー様も来るそうだし」


 エルザははぁ、と深くため息をつくと髪を弄りながら友人の元へ歩いていく。

 エルザには友人ができているのがなんとも羨ましい。



 僕はディーンさんと何度か共闘した事がある。

 確かにあの人は強かった、剣を彼が持つ緋く熱い黒魔法で覆い溶岩のような剣で焼き切る。


 王国騎士団として磨かれ続けた剣術の腕は僕よりも上のはずのあの人がナナシに負けた。

 だとすればあの人の敗因は周りのクラスメイトが言っているように実力ではないのだろう。



 それが誓約の力なのか、純粋な心の魔なのかは分からない。


 そろそろ帰ってナナシの部屋に行こう。

 友人が僕を待っているのだから。


 僕は友達と話すエルザの横を通り教室から出て行こうとする。



「友達ならいいの?」



 すれ違い様にエルザが呟く。

 僕はその言葉が聞こえなかったフリをした。

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