決着と結果と
「小僧の勝ちでいい……だからもう……やめてくれ………!!」
場外からヘリオが懇願している。
周りにいる生徒や教師も同じ気持ちなのか舞台上にいるナナシを見ている。
「決闘の条件を決めたのはこいつだろ?お前らが俺の勝利を認めるんじゃねえ、こいつが自分の敗北を認めんだよ」
そう言いながらナナシは横たわるディーンの身体を踏みつける。
それを見たヘリオは歯を食いしばってナナシを睨む。
「おいおい、なんだよその目は?俺が悪いのか?こうなる前に負けを認めなかったこいつは悪くないのか?」
「……しかしこのままでは貴様はディーンに勝つ事はできない!そうだ!参ったと言わせる事が勝利の条件なのだからな!!そうだなセレス学園長よ!!」
ヘリオはいい事を思いついたと言わんばかりに立ち上がるとナナシを指差し、セレスに問い掛ける。
「えぇ、その通りです」
「聞いたか小僧!!このままディーンをいくらいたぶっても貴様は勝つ事などできないのだ!!降参を促せないのなら貴様が勝利を諦めるしかあるまい!!」
場外からヘリオはニヤニヤと笑みを浮かべながら腕を組んでナナシに叫び散らす。
ヘリオはまだ分かっていないのだ。
ディーンの前に立つナナシという男がどれだけ強大な悪なのかという事を。
「それもそうだな、それじゃ仕方ねえ
------殺すか」
ナナシの一言に闘技場内の空気が凍りつく。
ヘリオとセレスだけでなく、ネザーやメアリーまで唖然としている。
やるわけがない。やれるわけがない。
ディーンは王国騎士団の人間なのだから。
緋剣と呼ばれる英雄なのだから。
そんな事を考えている者達の反応も待たず、ナナシはディーンの剣を拾い上げる。
「ま……待て小僧!!何をする気だ!!」
「は?殺すに決まってんだろ?俺にとっちゃ降参して負けるか殺して負けるかの違いでしかねえしな」
「そ……そんな事が許されるわけないだろう!!」
ヘリオが思わずナナシを止める。
ナナシはこいつは何を言っている?という表情を浮かべたまま、剣を担ぎディーンの元は歩いていく。
「セレス学園長、決闘で人を殺してはいけません。というルールはあるのでしょうか?俺の中での決闘は命を掛けて意地やプライドを守る為の物なんですが」
「い……いえ……そんな事はない……の…ですが……」
「ですが?」
「ひっ……!」
今度はナナシがセレスに問い掛ける。
そこそこ距離はあるにも関わらず、セレスはナナシの目に怯えて短い悲鳴をあげる。
「……ふざけるなよ小僧!ディーンという男がどれだけの男かわかっているのか!?」
「その話は長くなりそうだな?この決闘が終わって俺がお前ら騎士団への暴言の謝罪を済ませてから聞かせてくれよ」
「貴様……!!貴様貴様貴様……!!!」
ーーードスッ
ナナシは剣を振り上げると横たわるディーンの背中に振り下ろした。
血反吐も出なくなっていたディーンが血を吐く。
「……っと、腹刺したくらいじゃ死なねえか。やっぱ頭に刺さねえと駄目か」
「……ま……待ってくれ!!悪かった!!我々が悪かった!!!いくらでも謝罪する!!だからもうやめてくれ!!!」
ヘリオはここまでやってようやく気付いたのだろう。
自分達がどれだけ危険な相手に挑んだのか。
「……さっきから思ってたがお前場外からいちいちうるせえんだよ。決闘だろうが、終わるまで黙ってみてろよ」
「………自分の態度が気に入らなかったのであろう。心から謝罪する。この決闘も君の勝ちでいい。どんな条件でも我々は受け入れる。だからこの決闘をこれで終わりとして欲しい。………頼む」
先程とは打って変わってヘリオは真面目な表情で冷静にナナシに提案し、頭を下げる。
いつしかナナシとディーンの戦いはナナシとヘリオの交渉戦に変わっていた。
「どんな条件でもと言ったな。その言葉、絶対に忘れるなよ。もし惚けてみろ、その時はお前を殺す」
そう言うとナナシは闘技場の舞台から降り、ディーンに一瞥もくれず闘技場から出て行く。
客席からそれを見ていたネザーも立ち上がり、俯いているメアリーに声を掛ける。
「バンディットが闘技場から出た。行くぞロッド、立てぬなら手を貸すが?」
ネザーはメアリーに手を差し出すが、メアリーはそれに触れず立ち上がる。
「……必要ありません。さぁナナシさんの所へ向かいましょう」
「迷いは切れたか?」
メアリーはネザーの問いに答える事なく歩き出す。
だがその目は確かに、勇者のパーティーの僧侶には相応しくない目をしていたのだった。




