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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
二章  邪悪に魅せられた者たち
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教師の苦悩

 ーーーーー学園長室


 セレス・トート、過去に魔法騎士として王国に貢献しその知識と知能から現在は此の学園で学園長を務めている。

 そんな彼女の元には勿論学園内で起こった問題が報告される。

 入学式から早々ではあるが、今日も報告があった。


「セレス学園長、ナナシ・バンディットの件でお話があります」


「ええ、例の黒魔法の子ですね。それにしても今年は豊作の年ですねえ。勇者フィーナ・アレクサンド、大魔導エルザ・アルカ、聖女メアリー・ロッドだけでなく次期パラディンと名高いネザー・アルメリア、今年は粒揃いではありましたが……」


「それどころではありません学園長!あの黒魔法を感じたでしょう!?あれは紛れもない悪の魔力です!彼を学園で育て上げるなどあってはなりません!即座に彼の退学手続きを取るべきです!!」


 ナナシの担任であるカイン・マクダネルが言う。

 カインの意見は概ね間違ってはいない。

 しかし、学園としてナナシを退学にする事はできない。



「ええ、マクダネル教諭。貴方の言うことは間違ってはいません。しかし学園としては彼を退学にする事はできません」


「………!?何故ですか!?彼が力を一つでも身につけてはその時に手遅れになってしまうかもしれないのですよ!?」


「分かっています。しかし彼を今退学にすると言う事はその瞬間に我々は彼を敵に回す事になります。話によると例の彼の件の黒魔法は本気でなかったと聞いていますよ?」


「それは……そうですが……」


 カインの言葉を遮るようにセレスは言う。


「マクダネル教諭、彼だけは無理などと口走ってはいけません。教師としての話ではありません。子供が誤った道に進もうとしているのならそれを正すのが我々大人の仕事でしょう?」


「………そう……ですね……分かりました。ではバンディットの件は保留と言う事でよろしいでしょうか?」


「ええ、しかし国には報告書類を提出しないといけませんから作成はお願いしますね」


「かしこまりました、では失礼致します」


 そう言ってカインは学園長室から出て行った。

 セレスは柔らかい椅子に寄りかかると大きく息吐いた。


 我ながらよくもあのような事を言えたものだ。

 例の彼の黒魔法を感じた時、もう手遅れなのだと思った。

 あの一瞬の解放に対してあれだけの悪意を込められるだけの魔法の洗練。


 彼は既に己の悪を理解していたのだ。

 そしてそれを理解した上で己の悪を磨いてきたのだ。

 そうしなければあの年齢であれだけの濃度の魔力は作ることなどできない。


 セレスは逃げるように脳を働かせる。

 我々学園の仕事は悪に対抗できる生徒を1人でも多く作り出す事。

 彼を敵に回す事だけは避けねばならない。


 話によると彼の傍にはメアリー・ロッドとネザー・アルメリアがいる。

 もしあの2人が既に彼の側についていたとしたら。

 我々が彼を敵に回した瞬間にあの2人も敵に回す事になる。


 あの2人を敵に回すという事は大きな問題がある。

 必然的に勇者のパーティーから僧侶が離脱する事、国を代表する貴族であるアルメリア家の王子が国と敵対するという事。


 それだけならばまだいい。

 しかし万が一、億が一の可能性で勇者のパーティーが丸ごと彼についてしまったら?

 国が丸ごと彼の味方をしてしまったら?


 どれだけ小さな可能性だとしてもそれだけは絶対に避けねばならないのだ。

 それにもし彼を退学にしたとしてもあの2人が彼が力をつける事に協力的だとしたらそれこそ元も子もない。


 だから学園は彼を退学にする事はできないのだ。

 言い換えれば彼を学園の監視下に置いておかねばならない。


 彼を学園内で殺す事も考えてはいた。

 しかしあの黒魔法が彼の本気でない以上、彼が本気の黒魔法を解放したとしたらあの黒魔法は想像以上に脅威となる。


 はっきり言ってしまえば純粋な戦闘ならば彼はそこまで脅威ではない。

 しかしそれは純粋な戦闘においての話である。


 彼の黒魔法、分かりやすく言ってしまえば圧倒的なまでのデバフと状態異常をかけられた上での戦闘であの3人を丸ごと敵に回すなど恐ろしくて考えられない。


 その状況下で動く事が出来るのは勇者フィーナと大魔導エルザぐらいであろう。

 それでもあの2人がいつも通りに動けるとは考えにくい。


 もし優勢だったとしてもメアリー・ロッドによる転移で逃げられてしまったらもう彼を探す手段は少ない。


 今この学園は彼を近くで監視し、彼の力を把握する唯一の手段なのだ。

 彼をこの学園から自ら追い出すなど絶対に許されない。


 国が彼にどういった処置をするかはセレスの考えるところではない。


 しかし学園としての処置はセレスの権限にある。

 最悪学園が彼の側につく事すら考えねばならない。


 セレスは再び大きく息を吐くと頭を抱える。

 たった1人の巨大な悪が常に学園内にいる。


 彼は何を考えているのだろうか?

 まだ対面した事もない人間を一瞬感じた魔力だけでここまで警戒しなければならないとは。


 我々学園が彼と敵対していると考えるならば、我々は彼がこの学園に入った時既に負けているのだろう。

 期待すべきはフィーナ・アレクサンド。


 大人子供問わず皆が知っている。

 悪は正義に滅ぼされるべきなのだ。


 そんな幼い希望を抱きつつ、セレスは仕事を再開する。

 彼女が抱える学園の問題はナナシの件だけではないのだ。



 そしてセレスは次の入学書類に手を付けた。

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