朝日と恋人(仮)
結果から言うともちろんフィーナとエルザは営んでなどいなかった。
どうやらあれからずっと2人で目を閉じながら瞑想をしていたようだ。
色気もクソもない。
「よう、お待たせさん」
「あぁナナシ、ようやく帰ってきたんだね。外を見たかい?魔人が現れたらしいよ?」
「その割に随分余裕そうじゃねえか」
「まあ確かに酷く悪意のある魔力は感じたけどどうせもうそこにはいないさ」
「なんでだよ?」
「すぐに消えたからさ、お目付役にでも転移させられたんだと思う。ナナシは気付かなかったのかい?」
「なんか妙なもんは感じたがどっかからって事しかわからなかったぜ。後で魔力感知も練習しねえとだ」
「慣れだよ慣れ、そんな事より外を見てみなよナナシ。もう朝だよ?せっかく最後の日に語り明かすつもりだったのに」
「メアリーが2人でいたいって煩くてな」
そう返すとメアリーが「え?」みたいな目で俺を見てくるが気にせず話し続ける。
「最初は本当に少し話したら帰るつもりだったんだけどな、メアリーがあとちょっとだけ、もうちょっとだけってしつこくてよ。ま、そこが可愛いんだけどな」
メアリーは可愛いと言われて俯いて照れているのがわかるがこの話はもちろん丸ごと嘘である。
「ちょっとナナシ、ちょっとこっち来なさいよ」
エルザが俺の裾を掴み引っ張るので黙ってついていく。
「どうやったの?」
「あん?」
「異性はどうやったらオトせるのって聞いてんの!!」
「異性はってフィーナはだろうがよ」
「うっさいわね!いいから教えてよ!」
わざわざ少しフィーナ達から離れたのにそれだけ大声で喋っては無駄もいいところだ。
「努力と気遣いだろ。近付くために仲良くなるために好かれるために。がんばんだよ」
「………簡単に聞こえるわ」
「簡単さ、特にフィーナならな。見た目なんか気にするタイプでもないし優しくて芯のある女が好きなんだろ多分」
「なるほどね……がんばる……そうね!がんばるわ!!」
「おうがんばれよ」
結果何も教えられていないのだが本人が納得してるのが何より大事だ。
「ナナシさんナナシさん」
メアリーが近寄ってくる。
それに気を使ったのかフィーナの側に行きたかったのかエルザは戻っていく。
「なんだよ淫乱僧侶」
「どういう事ですか淫乱僧侶の恋人さん」
「やめろ寒気がする。恋人って事にしといた方が2人でいるのにちょうどいいんだよ、我慢しろ。どうせお前なんか口開いちまったら恋人が出来るような人間でもねえだろ」
「罵倒しないと話ができないんですかね?まあ恋人を作る気はありませんけど……そういう事ならわかりました」
「あ、今日の日付が記念日だって覚えとけよ。俺は忘れると思うからな。あんま適当にして怪しまれるのも面倒だしな」
「あっはい。設定とは言えまさか初めての恋人にお前だけは記念日覚えとけと言われるとは思いませんでした」
話しているうちに朝食の時間が来た。
今日から俺も学生になるわけだ。
校則があり、マナーやモラルがある学園。
出来る事なら絡んできたやつでフィーナに負け続けているストレスを発散したいものだ。
「さ、朝飯だ。さっさと食って学園に行こうぜ」
フィーナほどではないが俺も学園は楽しみにしてるんだぜ?
まずは俺のいう事を聞く忠実な部下探しからだな。
そんな事を考えながら俺たちは食堂に向かうのだった。




