表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
最終章  悪と正義
128/130

やっと

「わ!ナナシくんツノ生えてる!!」



 フィーナの亡骸を焼いてすぐ、他の奴らも集まってきた。

 つーかナーガの第一声はそれかよ。



「あぁ、『魔王』になったら生えてきた。なかなかイケてるだろ?」


「ふむ、ツノの生えた人間と言われると違和感を感じるがバンディットだとこうも馴染むものか」



 おいネザーそれどういう意味だ。

 絶対悪い意味だろ。



「いやぁ、それにしても本当に『魔王』になってしまったんだねナナシくん。危うい子だとは思っていたけど想像以上だ」


「ワシは知っておったがの。しかしまあなんと言うのかの?不思議と普通?に見えるわい」



 別に気にしてねえからいいけどお前らそれ全部悪口だからな?



 けど、多分それはこいつらなりの気遣いなんだろう。

 フィーナのことについて触れようとしない、きっと俺が傷ついてると思ってるから。



「王国騎士団たちはみんな引き返したんだな?」


「うむ、間違いなく撤退した。奴らの仲間の死体以外は全てな」


 そうか、『勇者』だったものに用はないってか。

 間違っちゃいねえんだろうけど、なんか苛つくな。



「………いずれフィーナ様の代わりが私たちの前に再び現れるのでしょうね。『正義』に選ばれてしまった哀れな人間が」


「そりゃそうよ、というかどうせそのうちあたしたちの扱いだって多分魔王の側近みたいなもんになるわ」



 もう関係ねえよ、フィーナ以外の『正義』も『勇者』も俺は認めねえ。

 全員殺す、全部滅ぼす。

 と、俺が言う前にナーガがエルザの件に触れる。



「………ねえナナシくん、なんでエルザ・アルカがいるの?」



 そりゃ知らねえもんな、そうなるよな。

 でもエルザをそんな殺意に満ちた目で見るな。



「エルザも七つの大罪の1人だったんだよ、もういねえけどフィーナもな。ったく………随分遠回りな内輪揉めをしたもんだ」


「………ふーん、でもフィーナさんの味方で私たち悪の敵だよね?殺しとかなくていいの?」


 まあ、な。

 それはそうだ、そもそもそれもこの戦いの目的だった。

 でもなんといえばいいのかわかんねえけど、もういい。



「あぁ、もういいんだ」


「………そっか。ナナシくんがいいなら私もいいや」



 ナーガは少しがっかりしたような表情を浮かべて顔を背けた。

 それがエルザと戦えないことに対してなのか、それとも俺に対してなのかは分からねえけど。





「………フィーナは、俺が殺した」



 俺が不意に、何の前触れもなく発した言葉に場の空気が凍る。

 その言葉にどう返すべきなのか、友を失った俺を励ますべきか、復讐という目的を果たした俺を労うべきか。



 それが分からないというような空気。

 そりゃそうだろうな、俺にだって分からねえんだからよ。



「くっ……くははははは!!!そうだな!!そうだバンディット!!!実に見事だ!!!僕も当然期待はしていたが、ともすればあっさり殺されるものだとも思っておったからな!!!」



「私は勝つって信じてたからね!!でも殺されたのがナナシくんじゃなくてよかったよ」



「えぇ、正直魔力量や経験値ではフィーナ様の方が圧倒していたでしょうし私もナナシさん死んじゃうかなって思ってました」



「あたしはフィーナが勝つと思ってた………けどまあフィーナじゃナナシは殺せないわよね」



「どうせまた自分の命を盾にしたんだろう?僕やフィーナ君だから殺せないようなものの相手を間違えればそのまま殺されるんだからね?」



「ほっほ!この小僧がそんな相手にそんな戦い方を選ぶわけがあるまい。なんと言っても悪人なのじゃからのう」




 -------笑ってる。



 悪に堕ちたこいつらが、正義との戦いの末に笑っていられる。

 正義は勝つだなんて大衆の希望のような言葉をひっくり返すような存在のはずのこいつらが笑っている。



 ポロッ



「…………あ?」



 またかよおい、なんでだ。



 なんでまだ涙が溢れてきやがる。



「ちっ……止まれ!なんだよクソ!!」



 フィーナを殺した時に流した分で枯れ果てたとすら思っていたのに。

 まだ出てくんのかよ。



 早く止まれ、これ以上こいつらに泣いてるとこなんて見せたくねえし見せらんねえんだよ。



「クソ……クソクソクソ!!!なんだよクソ!!!!」



 我ながら言葉のボキャブラリーが酷えな。

 さっきからクソしか出てこねえじゃねえかよ。





「ありがとうございます、ナナシさん。私たちの『悪』を守ってくれて」





 -------あぁ、そうか




「ナナシさんと私たちはずっと間違っていたのだと思います。出会ってしまったことも、繋がってしまったことも」




 だからか、だから涙が止まらねえのか。



「でも私は……いえ、少なくとも私たちは間違えてよかったんだと思います。正しい道を選べば真っ直ぐに生きていけたのかもしれないですけど、きっと幸せにはなれなかったのですから」



 やっと守れたんだ。

 守れるようになるまで奪われたり、失ったりしてきたけど、これでやっと-------




「これでやっと……私はナナシさんに………私……私は…………」




 ………やっと?

 メアリーが言葉に詰まって地面にへたり込む、いや座ったのか。




「………さい」




「メアリー?」



 メアリーが地面に膝をついたまま、顔を上げることなく何かを小さく呟いた。








「……………あなたの………か………家族を殺して………ごめんなさい………!!」




「…………は?」




 メアリーは地面に手をつき、頭を下げたまま震えていた。

 表情は見えないが、地面にポツポツとメアリーの涙が零れ落ちる。




 ずっとそんな気持ちを抱えてたのか?

 俺への贖罪のような気持ちを抱えながら、それでも俺の側にいてくれたのか?




 山賊を殺したことを俺に謝るために、正義から目を背けて、勇者を裏切って、国や家族まで捨てたのか?



 やっとって、やっと謝れるってことだったのか?

 今までずっと謝れないまま、罪悪感を抱えてたのか?



「……メアリー、俺は」



「ナナシさんに愛情を注いだ家族を………こ………殺しておいて……許してくださいなんて言いません……!!許してくださいなんて口が裂けても言えません……!!でも……だったら………!ど……どうしたらいいのか私には分からなくて………!!」



 メアリーらしくもない、まるで赤子にも似た嗚咽。

 見るに堪えねえし、聞くにも耐えねえ。




「…………顔上げろメアリー。もう、いいからよ」






 -------そんな言葉で許せてしまうってことに最も早く気付けていればって思っちまう。




「………ナナシさん……私は……ナナシさんの………」



「いいから顔上げろっつってんだろ、とっとと魔界に戻るぞ。新しい魔王ですって魔族の奴らに言わねえとだろ?」



 俺の言葉にメアリーがやっと顔を上げようとする。

 ははっ、どうせきったねえ顔してんだろうな。

 けどまあ、その辺の因縁もそろそろ終わりにしねえとな。






 -------ただ、俺は『悪』だぜ?






 ドゴォ!!!!





 俺はメアリーの目の前で足を思い切り上げ、顔を上げようとしていたメアリーの後頭部に思い切り叩き付けた。




「がふっ!!!!」



「俺の家族を殺したことをこの俺がごめんなさいで許せるわけねえだろ?だからこれで終わりだ、もう気にすんな」



 もうこれでいい。

 こんなことでよかったんだ。

 お前じゃなきゃ、許せてなかったかもしれねえけどよ。



 メアリーは俺の言葉にやっと顔を上げた。

 地面に思い切り叩き付けられて顔中傷だらけ。

 けど少しだけ、ほんの少しだが、笑った気がした。




「…………はぁい」


「マゾヒスティックループで回復していいぜ?」



 やっといてなんだがせっかくの可愛い顔が台無しだぜ?

 本人には絶対言わねえけどな。



「いえ、この傷は消したくないので」


「………好きにしろ」



 ほんとにいいのか?

 ここから先だって長いんだぜ?

 ずっと正義だの人間だのと敵対しねえといけねえんだからよ。




 --------------



「………エルザ嬢は謝らなくていいのかい?」



「……………あたしにはまだ、ナナシに許される資格がないですから」



「ふふ、難儀な性格だね。羨ましいんだろう?あの2人が」



「………ふん、あたしだっていつか謝ってみせますよ。ほらナナシ!!魔界に行くんでしょ!?転移やったげるから早く集まりなさいよ!!」



「分かってるっての!!おら、行くぞお前ら!!」






『悪』が勝ち、『正義』が負けた世界。

『魔』が勝ち、『人間』が負けた世界。



 それでもまだ、『悪』は『正義』と戦う。

 それでもなお、『魔』は『人間』と争う。



 かつての勇者が焼かれたその場所に、かつての勇者の剣が墓標のように立てられていた。



 対となる2つの争いは、終わることなく続いていく。



 何度も何度も、終わることはなく。



 終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ