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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
最終章  悪と正義
127/130

送り火

 -------終わった。

 全部が終わった。

 果たすべき復讐とかいうやつも、望んでいたはずの本気の戦いも。



 そしてこれからは始めなければならない。

 自らが手にかけた友のために。



 かつての親友の亡骸の側でそんなことを考えながら俺は腰を下ろしていた。

 戦いに勝って傷が塞がったとはいえ、身体に残っているダメージや体力、魔力の消費はすぐには元に戻らない。



 とかいう実際嘘ではない理由付けをしたものの、理由は単純、なんとなくここから動きたくなかったから。



 フィーナの魔力が消えたことは他の奴らにも知れてるだろうし、俺からわざわざ動かなくてもどうせ全員あっちから来てくれる。



「…………はぁ」



 なんなんだろうな、この解放感と呼ぶにはあまりに息苦しい感じ。

 この先、俺はどうすればいいんだろうか。



 フィーナと本気で戦い、そして殺した。

 本来の目的が確かに果たされてしまったが故の虚無感。



「………生きて、か」



 本来なら死ぬのは俺の方だった、フィーナが俺を殺せなかっただけ。

 だが確かに本気の戦いだったはずなんだ。

 だからこそ、なるほどと思える。



 殺された方が楽だったのかもしれないという、フィーナの考えを。



「………死んだらまた、フィーナに会えっかな」



「なに馬鹿なこと言ってんのよ、ナナシ」



「そうですよ、残される側の気持ちも考えてくださいよ」



 背後から急にかけられた聞き覚えのある声に反応し、立ち上がって声の方向へ身体を向ける。

 やっぱり2人とも生きてたか、よかったよかった。



「ようエルザ、メアリー」



「よう、じゃないわよこの馬鹿。絶対死なせないからね、フィーナが殺され損じゃない」



 ………意外だな、エルザは絶対に怒ると思ってたんだが。

 俺がフィーナを殺して、俺はエルザに殺されるくらいのパターンは結構な可能性で考えてたんだけどな。



「………まあ、それもそうだな。ってかアイツの遺言で生きてって言われちまったしな」



「あはは、フィーナらしいわね。で?どうするの?」



「………?どうするって、何がだよ?」



「なに言ってんの、あたしのことも殺すんじゃないのって聞いてんのよ」



 あー、そっか、そういう意味か。

 ………まあ、もう無理だな。



「………いや、いいわ。お前が俺を殺す気ならやるけどよ」



「そ、でも言っとくけどあたしはあんたに着いていくわよ?」



 ………つーことはやっぱエルザも七つの大罪の1人だったってわけか、確か残りは強欲と傲慢だったな。

 フィーナは……傲慢だったんだろうな。



 強欲ってタイプじゃねえ、アイツがもっと多くを望んで、欲しがっていたなら、きっとこうはなっていない。

 かと言ってエルザも別にそんな感じはねえけどな。



「おう、とりあえず他の奴らが来るまでここで待つぜ」



「………ねえ、ナナシ。フィーナの亡骸、燃やしていい?」



 これまた意外だな。

 エルザのことだから、フィーナの亡骸は見たくもないと思ってたんだが。



「………いいのか?」



「うん、もうこれ以上、勇者の姿で境目とはいえ人間の世界にいさせたくないから」



 やっぱり、あっちでも苦しんでたんだな。

 勇者になったこと、正義になったこと。



「……あぁ、やってくれ。メアリーも祈っていいぜ?」



「ありがと、ナナシ。メアリー、どうする?」



「………いえ、私はもう、僧侶ではありませんから。神にも、人間の作った教えにも、もう従うつもりはないです」



 そうだよな、そのために『悪』になったんだから。

 人間たちに背くために『悪』になったんだから。



「………変わったな、エルザもメアリーも」



「はあ?『魔王』にまでなっちゃったあんたがそれを言う?」



「はは!!それもそうだな」



 でももう、俺に『魔王』でいる理由はない。

『魔王』でいなければならない理由しかない。

 いや、『悪』でいなければならない理由すら、俺にはきっと、もう-----



「でも、それでよかったのかもね」



「………あ?」



「ナナシが『魔王』になったから、『悪』として生きたから、フィーナは多分『勇者』や『正義』としてこの先も生きていくよりも幸せだったんだと思う」



 本当に、そうだろうか。

 唯一の友と対立して、殺されたアイツが、本当に幸せだったのだろうか。

 救われたんじゃないかと、俺たちがそう思いたいだけなんじゃないか?





「だってフィーナはナナシのこと、大好きだったからね」




 エルザのその言葉に、思わず止まる。

 思考も、言葉も、身体も。



 全てが止まったはずのその一瞬の後に、涙が俺の頬を伝う。



 分かっていたことだ、辛いことなど。

 フィーナという友を復讐の対象にして殺すことが、後悔しか生まないことは分かっていたはずだ。



 フィーナを理由に『悪』だの『魔王』だのとあらゆるフィーナの敵になろうとした。

 なればなるほど、胸が空くような気持ちになって、同時に訪れていた虚無のような感覚。



 結局、お前が正しかったのか?

 なによりも友であることを選んだお前が正解だったのか?



 だからお前は、笑って死んだのか?

 ふいに亡骸に目線を送り、小さく俯く。



「………フィーナ」



 呼ぶな。

 お前が殺したかつての友の名を。

 友であることよりも復讐を選んだお前が、アイツの死を悔やむな。



「フィーナ……!!」



 お前が終わらせたんだ。

 アイツと友であることを。

 フィーナといた時間、どんな時よりも笑顔でいられたあの時間は、お前には二度と訪れない。



「フィーナ・アレクサンド………!!!!」



 そう、忘れるな。

 お前が殺したそいつの名を。

 お前にとっての『正義』は、お前にとっての『勇者』はそいつだけ、これまでも、これからも。



「ナナシ……」



「ナナシさん……」



『ナナシ!!』




 2人の声に重なるように聞こえた気がした声。

 いや、聞こえた幻聴。

 振り向いたって、そこにアイツはいない。



 ずっと正反対で、まるでコインの裏表みたいだったはずのアイツは、もう俺の後ろにはいない。



 …………何人かの魔力がこっちに来る、そして反対に大勢の魔力が離れていく。

 フィーナの死を察した奴らが撤退していったのだろう。



「………エルザ、みんなが戻る前にフィーナを焼け。集まったら俺たちもすぐに魔界に戻る」



 俺はエルザにそう指示してフィーナの亡骸に背を向けた。



「………もう、いいのね?」


「あぁ、やってくれ」



 エルザの言う通り、こいつを、これ以上この世界に残したくない。

 正義に呪われた哀れな勇者はもう、この世界にはいない。



「-----ボルカニックフレア」



 エルザの魔法と共にフィーナの亡骸がある場所に大きく火柱が立つ。

 それはまるで、天にまで届くのではないかと思うほどの炎。



「もう、『またね』とは言ってくれねえんだな」



 俺が呟いたその言葉は、轟々と響く炎にかき消された。

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