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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
最終章  悪と正義
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『正義』と『悪』の果てに

 もはや2人の間に、言葉は要らなかった。

 ただただ本気で戦うということ、互いが互いに対して考える最大限の感謝。



 剣を交わしながら、どちらかがふと哀しそうな表情を浮かべたかと思えば、相手が笑みを浮かべながらまるで“油断するな”と言わんばかりに剣を振るい、それに思わず笑みが溢れる。



 そうしているうちに段々と哀しげな表情を浮かべることは減っていき、ただ笑いながら戦っていた。



 本気という言葉通り手段を選ばず、使えるものは全て使う。



 砂を剣で払って目潰しや視界の妨害はもちろん、そばにある枯れた木を強化してナイフのように投げつけたりもした。



 終わった時に、一縷の後悔も残さないよう、互いが全力を尽くしている。

 友としての戦いに、まるで呪いのようについて回る『正義』や『悪』や『勇者』や『魔王』といった2人にとって大事だった言葉が今やどうでもよくなるほどの全力。



 そして2人は同じことを考えているのだろう。



 もう少しだけでいい、まだ終わらないでほしい。

 この時間が少しでも長く続いてくれたらいいのにと。





 ---------


 そして時を同じくして、戦場にいた者たち。

 ある者たちは戦いをやめていたり。


「………やっぱり、こうなっちゃいましたか。できればこれだけは止めたかったんですが……」


「これってやっぱり、ナナシが『魔王』になっちゃった、ってことよね……?」


「はぁい、薄々勘付いてはいたんですけどね。フィーナ様と本気でって言ったらこうなるのが手っ取り早いですし」


「……メアリーはどうするのよ?」


「ナナシさんについて行きますよ、でもこれでよかったのかもしれません。これでエルザさんを殺さなきゃいけない理由もなくなりましたし」


「そうなの?」


「はぁい、魔王は倒せましたしね。これで神の言葉も終わりですし、あとはお二人の結果次第です」


「手助けとか行かないわけ?」


「あの2人に水は差せませんよ」


「それもそうね」



 正義と悪はそう言うと笑い合った。


 ---------



 ある者たちは、戦いを終え、なお嬉々としていたり。



「すごい!!すごいよナナシくん!!!ねえすごいよねネザー様!!!ナナシくん『魔王』になっちゃったよ!?」


「うむ!!やはり面白い男だと思っていたが期待以上であるな!!!これは是非ともアレクサンドとの戦いに勝ってもらって僕とも闘ってもらわねばならん!!」


「あ!ずるいですよ!!私もやりたいです!!」


「くはは!!ディオネは騎士たちとの戦いでボロボロでらないか!!貴様はまず怪我を治すことに専念せねばな!!」


「うううう!!!殺しちゃダメですからね!!」



 悪はまだ戦いに飢えていた。


 ---------



 ある者たちは、自らに疑問を持っていたり。



「私の選択は、正しかったのだろうか?あのような少年を『魔王』にする手助けなど……」


「それは終わってみねば分かるまい」


「ヘリオ!!目を覚ましたのか!?」


「……っ……大声を出すな!!ぐぬ……頭がグラグラする」


「ふふ、気持ちは分かるよ。まだ戦うつもりはあるかい?」


「………ふん、もう無駄だろうな。ヘルの魔力や騎士たちの魔力をほとんど感じない、セレス・トートやゴリアテもそこに倒れているしな」


「『正義』の敗北……かい?」


「馬鹿を言うな、『正義』に敗北など存在しない……と、思っていたのだがな」


「全てはあの2人の喧嘩次第だね」


「………喧嘩か。青臭い小僧どもだ」


「ふふ、彼らが羨ましいんだろう?」


「…………ふん」



 正義のような2人は彼らの喧嘩を少しだけ羨んだ。



 ---------



 ある者は、やはり哀れみ、待ち侘びたり。



「………何かを得るための、何かを失わないための戦いしか知らぬ人間が、このように戦えるとはのう」



 火龍は人の姿でそう呟いた。

 ナナシが、フィーナが、失うために戦っていると思っていた火龍だったが、少しだけその考えは変わっていた。



「小僧が『魔王』になったことが、魔族にとって正解だとは未だに思えんがな。間違い続けてきた小僧だからこそ、やはりそれも間違いなのじゃろう」



 哀れみとは少しだけ違うのかもしれない、愚かな人間に対する不思議な感情。

 この気持ちをなんと表現すべきか、イツァム・ナーには分からなかった。



「じゃが、その方が幸せなんじゃろう」



 間違えたからこそ、間違い続けてきたからこそ辿り着いた幸せ。

 正しい道を進んでいては決して辿り着くことのできない、知ることのできない幸せ。



「後は見届けるのみじゃな、あの小僧の終わり方を」



 火龍はそう言い残すと自らを龍の姿へと変えてその場を飛び去った。

 本来ならば魔族の繁栄のために間違いなく『魔王』であるナナシに加勢していたはずの火龍だが、イツァム・ナーの考えも少しずつ変わっていた。



 人間と魔族の決着がどうでもよくなってしまうほどの、ナナシとフィーナの終わりを知りたいという欲。



 そしてそれを知るべき人間を、迎えに行くために。



 終わりは、そして始まりは、すぐそこまで来ていた。

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