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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
最終章  悪と正義
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悪VS正義 英雄 後

 ナナシくんに、ナーガ嬢の手伝いに行けと言われたから。

 私は魔力を辿ってここへ来た。



 それはきっと、ナーガ嬢が苦戦しているだろうからという理由だと思っていた。



 ………だが。






 -------なんだ、この光景は?





「あははははは!!もっと!!!もっとやろ!!!まだまだ足りないよ!!!早く立ってよ!!!魔力を練ってよ!!!武器を構えてよ!!!もっと!!!もっと戦おうよ!!!!」



 いや、光景というべきではないな。

 私にはその景色は見えていないのだから。

 だがしかし、黒い視界の中でその少女の魔力は確かに。

 騎士たちの魔力を消していた。



「……これほど……とは」



 捻り出すようにして私からようやく発せられた声。

 それはまさに驚嘆という意味が込められているのだろう。




『子鬼の毒滴!!!』




 ナーガ嬢はそう叫びながら少しだけ跳ねた。

 足元には、猛毒の液体を纏う暴風。

 それを地面に押し付けるように地を踏み、彼女は猛毒を勢いよく水鉄砲のように飛ばした。



 それはほんの少しの、まるで小雨のような粒だったが、騎士たちの鎧や兜、剣や盾までをも十分に溶かしていた。

 運の悪い者はその猛毒が兜の視界から目に入って、その場に崩れ落ちていく。




「……なんて、恐ろしい」



 その言葉を選んだのは当然のことだった。

 その意味は決して彼女の能力に対してなどではない。



 今の技は周りに味方がいたならば、それらもまとめて攻撃するだろう。

 敵味方問わず、周りのことなど考えず、ただ自分の欲にだけ素直に。




 あの姿は、まるで。





 -------ナナシ・バンディット。




 あぁ、そうか。

 ナーガ嬢はナナシくんに憧れていたな。

 だからそうなろうとしているのだろう。



 いや、むしろ既にそうなっているからこそなのかもしれない。




「……なるほど、ナナシくんは私にこれを見せたかったのか」



 まだ、正義を騙ることを諦めていない私を見抜いていたのか。

 正義を滅ぼし、新たな正義になろうとしていた私に。

 お前は悪だ、と伝えたかったのか。




「……ふふ、そういえばあの決闘の時も、メアリー嬢とネザー王子が観戦に来ていたね。あの時も、目的は今の私と一緒なのかな」



 正義は正義では滅ぼせない。

 正義を正義で変えることはできても。

 正義を破壊して、新たな正義を作り出すことは、きっと正義にはできない。




 それはきっと。





「悪、でなくてはね」




 だから私はこっちへ来た、だから私はあっちにいられなかった。

 そのことに後悔などない、と思っている。

 そう思わなければこっちでは生きていけない。




「ふふ……だから私は怠惰の英雄か」




 悪に屈して、正義でいるのが耐えられなくて、正義でいることを怠けたから。

 正義でいることに耐えられなくて悪に染まったというのに、悪でいることも怠けて、正義になろうとしたから。



 中途半端、と言えるのなら可愛いものだね。

 私の犯したその罪は、悪と断ずるに十分値する。




「楽しいなあ!!!強さって!!!強いって!!!強くなるって!!!強くなれることがこんなに楽しいなんて!!!」




 ナーガ嬢は姿勢を低くして毒の風を手足に纏いながら、なんとも楽しそうに戦場を駆け回っている。

 それはまるで初めて広い草原を目にした、幼い子供のように。



 でも。



 強くなったとは言え、つい最近まで普通の少女だったナーガ嬢だ。

 まるで天下無双の力を見よと言わんばかりの暴走っぷりだが、おそらく身体は既に傷だらけで彼女の毒に混じった血の匂いが漂っている。



 それでも、魔力での形しか分からない私でも分かる。

 今の彼女は、きっと笑っている。



 初めての戦場で、初めての殺人で。

 彼女は嬉々として戦っている。




「……嫉妬の毒蛇、か」




 それが表すのは強さへの嫉妬だと思っていた。

 強くなることへの飽くなき嫉妬。

 強い者への尽きることなき嫉妬。




 そしてきっと、戦うことが出来る者たちへの。

 戦い、殺すことが出来る者たちへの。

 殺し、手に入れることが出来る者たちへの。

 手に入れ、失わせることが出来る者たちへの。



 彼女はそうなりたかったのかもしれない。

 そしてその嫉妬による欲は、きっと、もっと深くなるのだろう。



 彼女の戦い方は、ネザー王子に似ている。

 彼女の能力の使い方は、ナナシくんに似ている。





 命を盾にして、命を剣にして、命を的にするような戦い方。





 既に彼女は、自分の命を二の次と考えているのだろう。

 だからあんな戦い方が出来るのだろう。



 守り、生き延びて、帰還することを考える騎士では無理だ。

 まだ幼い少女の命を殺すつもりで狙う戦い方など、アルメリアの騎士には存在しない。



 ……そうか、それも弱点か。

 またナナシくんとの決闘を思い出してしまったよ。

 命を盾にして、御伽噺の英雄を殺した君の戦い方を。



 なるほど、道理であの迷宮に居たはずだ。

 メアリー嬢もナーガ嬢も、既に自分の命を道具にしている。

 敵を倒すための武器、何かを手に入れるためのアイテム。



 自分の命を守ることなど、既に目的にないのだ。

 目的のための手段に、自分の命を使うことを選択できてしまうのだ。




「……ふ、ふふっ。そうか、そうだねナナシくん。これはあくまで正義への反逆だったね」



 目的だけが絶対の戦い。

 失うものはあれど、手に入るものに価値はない。




『マグマセイバー』



 私も行かなくてはね。

 騎士を殺しに行かなくては、ナーガ嬢を手伝わなくては。



 ……まあナーガ嬢はそんなこと、絶対に望んでないと思うけどね。

 ナナシくんの指示だと言えば、きっと納得してくれるだろう。




 ふふ、今ならナナシくんの『完全超悪』が少しも怖くないだろう。





 それはきっと、どんな悪行よりも悪の理由になるのだろうね。

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