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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
最終章  悪と正義
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魔王足るべきは

「本当に変わった人間じゃのう、あの小僧たちは」



 オレ様を背に乗せ、空を舞う火龍が呟いた。

 確かにな、人間同士の戦争なぞいくらでも見たことがあるが、あれほどまでに利を度外視した戦いは初めて見る。



「間違えたのだろう。何を、どこでというのは分からんがな」


「かかっ、このような巷でもまだ間違っておるのじゃろうな」



 そして、ナナシ・バンディットはそれが間違いだと分かっているのだろう。

 間違わなくては、間違い続けなくては、奴は前に進めないのだろう。



 こうした方がいい、こっちの方が正しいという選択を正しく出来るはずの人間だというのに。



 奴はそれを選ぶつもりなどないのだ。

 奴と勇者が友人として並ぶ姿を見た時、ふと考えたことがある。


 奴はもしかすると、勇者に間違いを止めて欲しいのではないか?

 例え敗北したとしても、間違いの道に進む足を止めてほしいのではないか?



 その方が、奴にとってはいいはずなのだ。

 だが、きっとそれが奴の幸せではないのだろう。



「奴は最後まで間違うつもりなのだろうな。最後の、最後まで」


「……そう、じゃろうなぁ。それもきっと、そう遠い話でもなかろうて」



 ふはは、随分と悲しそうな魔力をするではないか。

 太陽を司り、神とまで言い伝えられた、火龍イツァム・ナーらしくもない。



 そして同じような魔力がこの戦場にはいくつもある。

 つい先ほどからネザーとかいう貴族と対峙している騎士もそうだ、元聖女メアリー・ロッドもな。



 そして特に正義を掲げている者たちの中。

 感情の大小はあれど、それがいくつもある。



「……いたぞ、フィーナ・アレクサンドだ」



 そして一際それが大きいものが、勇者だった。

 隣にいる大魔導も劣らないほどに悲しげな魔力をしてはいるがな。



「……ゆくのか?魔王よ」


「……あぁ、当然だ。だが安心しろイツァム・ナーよ、貴様の、いや、貴様たちの悪企みは理解しているつもりだ」



 オレ様がそういうとイツァム・ナーの魔力が少し揺らぐ。

 隠すつもりはなかったようだが確かな動揺を感じる。



「……いつから、気付かれておったのかのう」


「ふはは!舐めるなよ火龍、オレ様は魔王であるぞ?」



 そう、オレ様は魔王なのだ。

 我らが魔族、魔獣、魔人たちの繁栄の為、ただそのためだけに生きているのだ。



「……後悔はしておらんが、詫びておこうかの」


「必要ない、貴様の我ら魔族への忠誠と献身に何を詫びることがある」



 そうだろう?

 貴様が私利私欲のためだけに尽くしたり、裏切ったり、そんなことをするような者であるなら、きっと貴様はここにはいないのだから。



「オレ様と、先代の魔王。二代に渡って世話になったな、イツァム・ナーよ」


「勿体ない言葉じゃのう。……無事は、祈らんぞ」







「------それでいい」




 オレ様はイツァム・ナーにそう伝え、火龍の背から飛び降りた。

 この下にはオレ様たちの敵がいる、戦わねばならない。



 全ては、魔のために。




「上だ!!!」



 勇者が叫ぶ声がした。

 余裕のありそうな声ではないな、フィーナ・アレクサンドよ。

 焦っているのか?友との戦いに?



 下に構えるは勇者たち、大魔導もおるな。

 他に気になるのは、見たことのない薄緑の髪の女、少し老いた女、肌が黒く見ただけで鍛え上げられた肉体の分かる男くらいか。



 くく、折角だ。

 名乗っておくとするか。






「我が名は魔王!!!弱く愚かな人間たちよ!!!せめて全力を持って楽しませてみよ!!!繰り返す!!!我が名は!!我が名こそが魔王である!!!!!」




 人間たちの表情と魔力が恐怖で揺らぐ。

 何を怯える、貴様たちから仕掛けてきた戦いではないか?



 長きに渡り、魔獣を、肉や皮として扱い続け。

 魔人だというだけで討伐の対象とし続けた。



 ……ああ、そうか。

 勇者たちは国にオレ様たちがナナシ・バンディットという悪についたということを言っていなかったか。



 敵が小僧たちだけだと思っていたのだろう、勇者たち以外は。

 あの程度の悪人に、魔王であるオレ様が関わっているなどと思っていなかったのだろう。



 だが気持ちは分からんでもないがな。

 小僧の魔力とキングオーガのこと、勇者から救われた事実がなければこうなってはいなかっただろう。




「『魔炎』」




 オレ様は50ほどの火球を作り出し、それを空中で待機させた。

 威圧のため、そして人間たちに後悔させる時間をくれてやるために。




「……魔王」



 勇者が小さく呟いて、剣を構え、盾を構えた。

 そう身構えずとも良い、以前の貴様の戦いを見て、わざわざ貴様から倒そうとするオレ様ではないわ。




「まとまってたら一気にやられる!!散らばって!!!!」




 くく、悪人に心を追い詰められて思考が単純になっておるわ。

 冷静ならばまとまって貴様が盾になっていたはずだというのに。




 そしてようやく、オレ様の目の前に勇者が現れた。

 憎き相手、勇者からしたらオレ様もそうなのだろうがな。



「くく、自ら死ににきたか」



「いや、まあ、うん……そうだね」



 皮肉のつもりで言った言葉だというのに、勇者からの返事は肯定だった。

 なるほどな、やはりこいつは勇者には向いていないのだ。



 押し付けるように人間が決めた、人間のための勇者には正義を掲げ続けることはできなかったのだ。

 勇者としての正義よりも、フィーナ・アレクサンドとしての友を選んでしまったのだ。



 ……まあ、その気持ちも分からんでもないがな。

 オレ様のように自ら望んで魔王となることを受け入れるのとは違うのだろう。



 だからこそ、イツァム・ナーは、というよりナナシ・バンディットはそれを企んだのだろう。

 自らの親友であるフィーナ・アレクサンドならばきっとそうなると分かっていたから。



 だからこそ、今もまだ、奴は間違い続けているのだろう。



「……貴様、ナナシ・バンディットに殺されようとしておるな」



 オレ様は周りの人間たちに聞こえないよう、勇者に問いかけた。

 奴は一瞬固まったが、すぐに立て直す。



「……はは、魔王にも分かっちゃうんだね」


「……くだらぬ、などとは言わぬ。それが貴様にとって、大事なことなのだろう?」


 オレ様がそう言うと、勇者ははっきりと固まった。

 今度はすぐには立て直せていない、口を開け、唖然としていた。



「魔王は……いや、君は理解してくれるんだね」


「後悔か?今更遅いと分かっていても、悔やみ切れるものではないだろうがな」



 勇者は、剣と盾を構えたまま、オレ様を見ている。

 その目は何かを訴えようとしている、だがそれは勇者として決して口に出せないことなのだろう。



「初めから、自分で決めるべきだったんだ。誰かに決められていたことよりも、自分で決めることを大事にするべきだったんだよ」



 それはきっと、ナナシ・バンディットの家族を殺したことなのだろう。

 そして、今まで何も考えず、人間のルールで魔族や魔獣を殺してきたことなのだろう。



「……言わなきゃいけないけど言えない。もう、引き返せないところに僕はいるんだから。魔王は、勇者が倒すものだから」



「……あぁ、それでいい。そうでなくては、オレ様も貴様を殺せぬ」



 その言葉を聞くと、勇者は小さく微笑んだ。

 少しだけ、勇者という立場を受け入れられたのだろうか。



「……いくよ、魔王。僕はフィーナ・アレクサンド、人間は僕が守らなきゃいけないんだ」




 勇者はそれがまるで義務のように言葉を並べ、ようやく魔力を纏い始めた。







 さて『魔剣』よ。

 オレ様たちも、終わりに向かおうか。

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