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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
最終章  悪と正義
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貴族の戦い

 イツァム・ナーの咆哮が轟々と戦場に響き渡る、

 うむ、雄々しき声だ。

 大地が揺れるような咆哮はディオネの巻き起こした砂埃を吹き飛ばし、騎士たちの姿がよく見える。


 その瞬間、ディオネは咆哮で固まった騎士に『子鬼の毒突』をブチ込んだ。



「3人目!!!!です!!!!」




 奴も気分が乗ってきたな。

 何かあったのか知らんが、ディオネはただただ楽しそうに、戦場を駆けていた。


「……くはは」



 おっと、思わず笑いが溢れおったわ。

 あの、弱小とも言えたディオネがこれほどまでになるとは。

 これほどまでに成れるとは。



 力をつけるために学び、鍛えるには人間の心は弱すぎる。

 どこかで必ずその努力に否定的になる、その努力に満足し、それをやめる。



 理想に対する努力は、その理想に辿り着いた瞬間に終わる。

 だからこそ、理想を高く持ち、心を強く持つ。



 強い心と高い理想。

 ディオネには、本来それが両方ともあったのだ。



 初めて奴と会った時、僕はディオネに全く興味が湧かなかった。

 弱そうな女だ、と思った。


 奴がバンディットの仲間になると聞いた時は、僕たちには必要がないと考えた。

 弱い心に弱い身体、邪魔になるだけだと。



 だが、それは間違いだった。

 奴には強くなりたいという欲があった。

 それは、それだけは、きっと僕たちの中でもディオネが最も強く求めていた。



 我ながら戦いを好む僕ですら、現状にある程度の満足をしているというのに。

 現状で戦いを楽しむだけの力で、満足していたというのに。



 奴を見ていると、まだ足りぬという欲が出てくる。

 ただ強くなりたいという欲を持つだけのディオネが、ただ強くなれている。



 まだだ、まだ足りない。

 もっと、もっと強くなりたい。



 ディオネの持つ、まるで飢餓とも言えるほどの強さに対する嫉妬。

 奴は今、戦っている僕を見ている。



 観察しているのだ。

 敵と、どう戦えばいいのか。

 どうすれば、敵より強くなれるのか。

 どうすれば、その敵を圧倒している僕より強くなれるのか。



 奴にとっては強さの全てが羨む対象なのだ。

 肉弾戦における筋力、魔法における魔力、戦闘を組み立てる思考力、何か一つでも奴は諦めきれないのだ。



 諦めることに慣れてしまったはずだったディオネが、諦めなくていいと知ってしまったのだ。



 奴はまだまだ強くなれると信じている。

 まだまだ強くならなくてはと考えている。

 もっと強くなれるということを知っている。



 ……嫉妬の毒蛇、だったか。

 七つの大罪に準えたディオネの役目は。

 神に言われたと言っていたな。



 バンディットと共に、悪の勇者と共に、世界を平和に導くだろう。



 神など信じてはいないが、ロッドやナイトハルト、イツァム・ナーも同じようなことを言っていた。


 別に大して気にかけていたわけでもないが、戯れにのってやろう。

 神に選ばれていなかったとしても関係ない。



 僕も名乗ってやろう。

 残りは、傲慢、強欲、暴食だったな。


 ……ふむ、どれも近いといえるし、遠いともいえる。

 しかし、急いでいるわけでもない。


 今はただ、この戦争に酔うとしよう。

 敵は人間、敵は世界、このような戦い、全力をもって戦わねばさぞ後悔することだろう。




 9人目。



 この騎士たちも、良い騎士だ。

 仲間の死を見ても、決して臆することなく戦っておる。

 退こうという考えがないのだろうな。



 いや、バンディットの話の通りならば。

 この騎士たちには退くという行動が与えられていないのではないか?

 現アルメリア騎士団長 ヘリオ・ルークによって。



 恐怖と戦いながら、僕たち悪と戦っているのではないか?

 だとすれば、舐められたものだ。

 なるほど、気に入らん。





「退がれ!!!!!!!」




 戦場に1人の男の声が響く。

 イツァム・ナーに勝るとも劣らないほどの声量。

 咆哮と言っても過言ではないであろうな。


 騎士たちは男の道を作るように割れた。

 1人、金色の髪を靡かせながら、歩いてくる。

 動きを見ただけでわかる、強者の風格。



 そして、僕が待ち侘びた男。



 ナナシ・バンディットという悪人ともう1人。

 友であり、仲間であり、強敵に値する僕の戦いたい者ともう1人。

 家族であり、師でもある、強敵と断ずるに容易い男。



「信じていたぞ!!必ず来ると!!!兄上!!!!」


 アルメリアの国民に見捨てられた貴族。

 アルメリア騎士団 栄誉騎士。

 アルメリア王国第一王子 ヘル・アルメリア。



 僕に戦いを教えた男。

 僕が強く憧れを抱き、目指した男。




 だが兄上は僕を見て、何も言わなかった。



「くはは、なんだ兄上。怒っているのか?僕がこっち側にいるからか?」



 兄上は少しだけ悲しそうな顔をしていた。

 勇者との戦いの際、民に見捨てられた時ですらそんな顔はしていなかったというのに。



「……兄上は変わらんな。相変わらず優しい男だ、だからこそ、民に舐められているということに気付かん兄上でもあるまい?」




 ------兄上は、まだ何も言わなかった。

 初めて見る兄上の目。

 あの目が意味するものはなんだ?



 悲しみ、ではあるのだろうがそれだけではとても片付かない。

 家族と正義と悪で離別した悲しみ?

 だとすれば、それの意味する感情はなんだ?



「…………ふむ、失望、か」



 そうなのだろうな、あの目の意味は。

 騎士として、守るものは自分で選べと言ったはいいが、まさか敵に回るとは、と言ったところか。


 あの時、冗談めかして言った言葉が本当になったことに対する後悔と失望。


 何を考えているネザー・アルメリア。

 悪の側に来たのだ、敵と戦うために。



「4人目!!!!!」



 ……くはは、ディオネの方がよほど悪に相応しく見えるではないか。

 強さをひけらかすためだけに、敵を殺すあの姿。



 ならば見習わなくてはな。

 少年の頃に目指した騎士、パラディンと呼ばれる守る騎士。

 その理想が今でも変わることはないが。



 例えそれが正義でなくとも、家族を敵に回すことになろうとも。

 悪とて騎士、ナナシ・バンディットという我が王を守るために。



 王を狙う敵を滅ぼすのが僕の役目。

 いや、僕らしくもないな。



 目の前に強敵がいるのだぞ?

 楽しまなくては損であろう?



 食い散らかしてやろうではないか。

 七つの大罪のうちの一つに準えて。




(それでいい)



 ようやく、どこかから聞こえた声。

 待ち侘びたわけでもないが、少しだけ楽しみにしていた声。





(その道を征くがいい、勇者と共に、世界を平和に導く為に)




(名乗るがいい)





「暴食の騎士 ネザー・アルメリア。尽きるまで、喰い、殺してやろう」


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