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悪の勇者の異世界征服  作者: 東乃西瓜
最終章  悪と正義
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戦いの火蓋

 ------正義が、きた。



 勇者のパーティが、騎士団が、ギルドが、学園が。

 100人はいるだろうか?


 だが『完全超悪』を警戒したのか馬などはいない。

 フィーナやヘリオ、セレスもいるしそのくらいの情報は流れていて然るべきと言ったところだろ。


 俺の思った通り、やはりこの力は警戒させた方が相手の戦力を削ぐことができた。


 しかし主戦力となるだろうフィーナたちは見えないな。

 騎士団の影に隠れているのか?不意打ちのためか?温存のためか?



 だが、今から案を練って指示を出すなど無駄なことだ。





 ---行くんだろ?




「『子鬼の毒撃』!!!!!」


「くははは!!待ち侘びたぞ!!!!!」



『子鬼の毒撃』を腕に纏ったナーガと、緑魔法で作り出した短剣を両手に構えたネザーが我先にと先陣を切る。


 相手は顔を覆うような兜に鋼の鎧を着込み、剣や槍、盾を持つ者もいた。

 中にはその後ろで魔力を練っている者もいる。

 鎧か、ナーガにはキツい戦いになりそうだな。



「くはは!鎧を相手には分が悪いのではないか!?下がってもよいぞディオネよ!?」



 敵の剣を捌きながらネザーがナーガを心配とは捉えづらい挑発のようなことをしている。

 余裕あるな、あの王子。




 -----しかしその心配も杞憂に終わる。



 ナーガは風を纏った手を地面に付けると、地につけた手はドン!!と激しい音と共に爆発し、まるで自らの身体を銃弾のように撃ち出した。



 だが、驚くべきはナーガの足。

 鎧を着込んだ騎士に向かっているナーガの足には、『子鬼の毒撃』が纏われていた。


 その一撃を腹に食らった騎士の鎧は、離れてみても分かるほどに砕けていた。

 そしてその奥の肉には当然、ナーガの毒が流れ込む。


 騎士はそのまま、膝を折るように崩れ落ち、絶命した。

 周りから見ればただの強烈な蹴り、だがその騎士は確かに絶命している。




「『子鬼の毒突』、心配はいらないですよネザー様」



「……くはは!!見事!実に見事だ!!ナーガ・ディオネ!!!この戦いを終えたら絶対に僕と戦ってもらうぞ!!!」


「あはは!負けませんからね!!」



 ネザーが珍しく賞賛してるな。

 だが確かに、見事だ。

 ついこの前まで傷だらけになりながら、必死に両手に風と毒を纏わせる練習をしていたとは思えない成長速度。



 強くなれたな、ナーガ。

 見ろよ周りの騎士たちを。

 倒れた騎士を眺めながら、ナーガから距離を置きはじめてやがる。


 必死に死因を考えているだろうが無駄なことだ。

 うつ伏せに倒れているその死体を、仰向けにする時間と勇気のないお前らじゃ分かるはずもない。



 ただ一つ言えることがあるとすれば、奴ら騎士団が確かに警戒したということ。




 ナーガ・ディオネという少女を。

 おそらく騎士団にとって存在を把握していてなお警戒の薄かった、敵の中で最も弱いと判断されたナーガを。



 アルメリアが誇る王国騎士団の連中が強者と認め、警戒するに値する敵だと判断したということ。



「………変化、成長か」



 まるで子を持った親の気分だぜ。

 俺の組手に付き合ってくれていたボスやロンド、山賊連中もこんな気持ちだったんだろうか?


 俺を生かすために、俺をアジトに残して死んでいったみんなも。

 もう大丈夫だ、と安心していたのだろうか?



 ナーガを見ている、今の俺のように。

 きっと安心してたんだな、だからみんなは山賊として死にに行けたんだな。



 ……くく、俺らしくもない。

 感傷に浸ってる場合じゃないよな。



「……ディーン、エルザの魔力に注意を払え。下手したらエルザの一撃だけで全滅するぜ?」


「了解、なら私はここで待機でいいかな?ヘリオはどうせ君を狙ってくるだろうしね」


 まあそうだろうな。

 というより、おそらく敵の大多数のメインターゲットはこの俺だろう。

 当然、そのためにわざわざ魔力を何度も見せてやったんだからそうでなくては困る。


「私もとりあえずはここで待機しますね、万が一ナナシさんに刃が届いた時にすぐに壁になれますし。『サディスティックバッファー』はあの集団の中では発動が難しそうですし」


 確かにメアリーの能力は一対一の性能は破格と言えるが多勢を相手にした時、使用するにはあまりにリスクが高い。

 戦闘能力が上がるとはいえ防御面の向上は少なそうだしな。


「うむ、ではワシは行くとするかの。どうじゃ魔王?乗っていかんか?」


「……あぁ、そうだな、そうしよう。空からの方が勇者を探しやすい上、火龍イツァム・ナーの姿はいい威嚇になるだろう」



 その判断は願ってもないな。

 火龍と魔王の姿を確認させることができれば、フィーナたち主戦力も前線に出てくることだろう。





 しかし何より理想的だと言えることは、やはり勇者のパーティは騎士団の味方ではないということ。



 だってお前らは知ってるもんな。

 フィーナ、エルザ、スズの3人はナーガを警戒すべき相手だと知っている。



 ナーガの『子鬼の毒撃』のことを、フィーナたちは騎士団に話していないのだ。

 だからこそのナーガに対する無警戒。



 正義を掲げて悪を討ちにきた集団に、その楔は確かに撃ち込まれていた。






「……クソが」






 …………俺は、今なんて言った?

 クソが?俺がそう仕向けたんだろうが。



 何が気に入らねえんだよ。

 これこそが理想の形だったはずだろうが。





 ……違え、分かってんだ。

 気に入らねえのがなんなのか。



 正義を掲げて俺の家族を殺した勇者たちが。

 その正義を自らねじ曲げているのが気に入らねえんだろ?



 だからディーンがこっちにきた時、あれだけの怒りを覚えたんだろ?



 奴らが、自分たちの正義を、間違いだと認めていることが。

 正義を掲げた行動を悔いていることが。




 俺の大事な家族を殺したことを。

 取り返しのつかない今になってようやく。

 後悔してるって分かるのが。





「……気に入らねえんだよ」

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