第四話
午後九時、テレビとテーブルの間にあるソファーの上で、猫背の女性は毛布にくるまり、猫の様に丸まりながらふて寝する。
「……糞が」
そんな猫背の女性を心配する背高の男性。ふて寝している猫背の女性の隣に座り、毛布の上から優しく撫でる。
「大丈夫? 半分くらい、僕が食べても良かったんだよ?」
「……腹減ってたんだよ……ボケが……」
「……そっか……」
猫背の女性を撫で続ける背高の男性。気を利かせて水を持ってくるか尋ねると、猫背の女性はそれを断り、ゾンビの様に身を起こす。
「……お前、早く風呂入ってこいよ。私は食器を洗っちまうから」
「えー? 一緒に入ろうよ?」
背高の男性の提案に、猫背の女性は呆れるように立ち上がると、毛布を背高の男性の頭の上から被せる。
「脳に蜘蛛の巣が張ってんのか? お前ぇは。んな時間ねえよ」
「時間があったら一緒に入ってくれるの?」
猫背の女性は咄嗟に足を振り上げると、踏み込むように背高の男性の腹部に一蹴りを入れる。
「腐った事言ってねぇで、さっさと風呂に入ってきやがれ!! 殺すぞ!?」
「ぐあああぁぁぁ!!!!!」
思わず呻き声を上げる背高の男性。腹部を抑えながら立ち上がると、バスタオルと着替えを用意する。
「風呂入ったら、とっとと部屋行って休めよ?」
「子供じゃないんだから……」
「でけえ子供みてぇなもんだろ!!」
猫背の女性はひとしきり悪態をつくと、炊事場に移動し食器を洗い始め、背高の男性は素直に風呂場に向かった。
午後九時半過ぎ。食器を洗い終えた猫背の女性は、エプロンで両手を拭くと、バスタオルと着替えを用意し、風呂場に向かう。
すると風呂場の扉が開き、背高の男性が出てくる。
「……なんも面白くねぇな」
しっかりとズボンと服を着ている背高の男性に、辛辣な言葉を投げ掛ける猫背の女性。
「バスタオルだけの方が良かった?」
猫背の女性は通りすがりに背高の男性の脛を軽く蹴り、入れ替わるように風呂場に入る。
「糞な事言って無ぇで、早く部屋行って休みやがれ。潰すぞ?」
「部屋で待ってるからね?」
猫背の女性は、背高の男性の言葉に歯向かう様に風呂場の扉を強く閉める。
午後十時を少し回った頃、お風呂から上がった猫背の女性は、湯気の出る身体にバスタオルを巻き、背高の男性が休んでいる部屋へと向かう。
「……一緒に寝る準備ぐらいしておけ。糞が」
扉を開けるなり、ベッドに座っている背高の男性に悪態をつく猫背の女性。背高の男性は猫背の女性をからかうように、言葉を返す。
「えー? ちゃんとパジャマ姿で待ってたじゃない? 何が不服なの?」
猫背の女性はゆっくりと背高の男性の元に歩いていき、そのままベッドの上に押し倒すと、顔を鼻頭が触れそうな程まで近づける。
「全部言わせる気か? ボケが」
「近いね……」
猫背の女性は背高の男性の言葉を無視し、腹部に股がる。そして、その身体を起こすとこう囁く。
「……覚悟しな……」
背高の男性は、その言葉が合図であるかの様にベッドの側にある電気スタンドのスイッチに手をかける……