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おきらく三題噺シリーズ

ところてん好きでなにが悪い

お題「学園のアイドル・ところてん・お風呂」


 失敗したわ……。

 あたしは風呂の中でぶくぶくと息を吐きながら今日の失敗を思い出して舌打ちをする。

 あの日――。入学式の帰り道であの人に出会って、学園のアイドルになると決めてから、今日まで私は普通の高校生活を犠牲にして邁進してきた。

 学園のアイドルへの道は険しい。まずはクラスのアイドルとなるべく、クラスメートの趣味嗜好を把握することに心血を注いだ。アイドルというからには、容姿端麗なのはもちろんのこと、人望にも優れている必要がある。みんなの偶像として、尊敬され愛される存在でなければならないのだ。

 クラスメートの趣味嗜好を完璧に把握し、男女問わず、個々人にあったコミュニケーションがある。八方美人ではぬるい。八億方美人くらいでなければアイドルは務まらない。

 何を言っているか自分でもわからないけど、ともかく、そうやって努力すること半年……、あたしは文句なしにクラスのアイドルになることができた。一年三組の前沢知恵子といえば、三組の誰からも好かれる人望を築き上げた。

 それなのに……たった一度の失敗で――。

 クラスメートの高山くんの憎たらしい顔がふと頭に浮かぶ。

「へぇ……前沢さんって、そーいうの好きなんだ……、なんか意外」

 彼はまるで焼き鳥にケチャップをつけて食べる人を見るような目であたしを見ていた。

 ところてんを食べるあたしを。

 ダメか? ダメなのか?

 クラスのアイドルがところてん好きってそんなにおかしいか?

 別にいいだろところてん。あのさわやかな口当たりといい、風味と良い、喉を通り抜ける感じとか最高じゃないか。

 テレビに出てくるようなアイドルが食レポ番組で食べたりするのは、見た目の綺麗なスイーツとか、女子が好きそうなパンケーキとかそういうふわついたものが多い。ところてんを食レポするアイドルなんてほとんどいないだろう。

 それが現実なのだ。

 高山のぎょっとした顔は、あたしのこれまでの努力をを吹いて飛ばすような代物だった。

 とてもアイドルに向ける顔ではなかった。

 甘かった。

 弁当にところてんなんて入れなければ、こんな事態にはならなかったはずだ。己の浅はかさを悔やんでももう遅い。

 明日のうちにはクラスでもすぐに、あたしがところてん好きであることが周知の事実となるだろう。そうなればもう、クラスのアイドルという今の地位だって維持できない。

 結局、学園のアイドルになるなんてあたしには無理だったのかな……。

 入学式の時にあたしは初めて学園のアイドルというものを目にした。彼女は生徒会長であり、学校の中心人物として慕われていた。

 凜々しくも美しいその姿に、あたしは息をのんだ。教師からも生徒からも愛され尊敬される――そんな人をあたしは初めて目にした。

 彼女と廊下ですれ違うとき、言葉があたしの口をついて独りでに漏れ出た。

「……あたしも……あなたみたいになれますか?」

 彼女はきょとんとした顔をしていたが、やがてにこりと小さく笑って言った。

「ふふ……よくわからないけど、やりたいことがあるなら、目指すものがあるならやってみればいいんじゃない。諦めるのはそれからでも遅くないと思うわよ」

 その時言われた彼女の言葉が胸の内で再生され、あたしの心に小さな火がぽつりとともるのを感じた。

 諦めたくない。ところてん好きだっていいじゃないか。学校のみんなにところてんの素晴らしさを教えてやる! 初めは認められなくたって、いつか絶対あたしを認めさせてやるんだ。なんたってあたしは学園のアイドルになるんだから!

 顔に浴びるシャワーのお湯が心地よく、気持ちを高めていく。

 あたしは明日の弁当にもところてんを入れることに決めた。



 二年後に前沢知恵子は見事、生徒会選挙に当選して生徒会長になった。

 彼女の選挙公約で購買部にはところてんパックが売られており、学校の名物になっているとか……。

 ちなみに僕はところてん、別に好きでも嫌いでもないかな。

           おしまい。

久しぶりの小説がこんなんになってすいません。

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