プライドも何もかも
少し、言いすぎてしまった。
あんなに、しかも女の子相手に、感情をむき出しにして怒鳴ったのは生まれて初めてだ。
でも、僕には僕の世界がある。
それは微妙なバランスで保っていて、周りをシャットアウトする事で、心を安定させていたのだ。
無駄に人間関係を築いてしまうと、ロクなことがない。
友達が何か悲しいことがあると、自分も身が引き裂かれたようにつらいし、友達が何か良いことがあると、自分のちっぽけな人生を思い妬ましくなる。
その後、その友人たちにことごとく裏切られた事を思えば、互いに本当は友人だと思ってなかった。という結論に落ち着いたけど。
それにしたって僕は本当に人間が小さい
昔からちっとも変わっていない
今だってこうして、一人の女の子を傷つけた
良く考えなくてもわかる事だろ。
僕は身体が入れ替わってこんなに不安なのに。
向こうだってそうだろ。不安じゃない訳がない。
長いこと、人間関係サボってきた僕は。
彼女が発した言葉を、額面通りに受け取る事しかできない、相手の気持ちを考えられない人間に成り下がっていた。
「相手の裏側を視るんや」
「言葉なんて所詮、口から出た音ってだけやねん。」
「その言葉が、その人のホンマの気持ちかどうか、音だけでどうやって判断するん。」
「せやから、目を見て話すっちゅーのは、ホンマに大事な事なんやで。」
高校に入学して、しばらくたってから丈君に言われた言葉。
当時、全く人の目を見て話せなかった僕に向けた言葉。
そのときは深く考えずに、徐々に直して行くか。くらいにしか思ってなかったけど。
今になって、含蓄のある言葉だな。と思う。
ふと気付く。
この時間帯の喫茶店にしては、周りのお客さんは少なめだが、かなり好奇な視線を向けられている事に。
そりゃそうだ。周りから見た僕たちは
そこそこ名門女子校の制服に身を包んだ、可愛らしい女の子が、男子高校生を汚い言葉で罵り、挙げ句の果てには泣かせて逃げられた、という図である。
僕は周りのお客さんに「騒いですみません」と一礼し、会計を済ませて、走り出した。
…
300mくらい走ったところにある公園
御坂は思ったよりも近くにいた。
「僕の姿で滑り台の下で体育座りするなよ。小学生達が、信じられないくらい可哀想な人を見る目で見ているぞ。」
「奈良っち…」
「さっきはごめんなさい」
「僕が100パーセント悪かったです」
「御坂からしたら、僕の教室での立場を良くしようとしてくれたんだよな。自分も入れ替わって大変だっていうのに、頭ごなしに怒って悪かった。」
「もし明日の朝、まだこのままだったら、学校で御坂が積み上げてきたもの、壊さないように僕もがんばるから。」
本当にごめん。と朝よりも深く頭を下げた。
「あーしも、ごめん。」
泣き腫らした目で、御坂は申し訳なさそうに続けた。
「奈良っちの気持ち考えずに勝手に行動して」
「でも、せっかく毎日行く場所だし、楽しく過ごしたほうが絶対に心に残るし、後悔しないから。だって今だけだから。」
「お節介がすぎたわ、明日は控えめに行くね。」
「いや、いいんだそのままで。むしろそうしてください。」
御坂はキョトンとした顔でこちらを見上げる。
「僕もクラスの皆と、今さらだけど仲良くなりたいんだ。だから、いつもの御坂でいいよ。」
ただしギャル語は禁止な、と僕は笑った。
「…ギャル語じゃないいつものあーしって、地味に難しい注文っしょ!」
やっと御坂らしくニヒヒっと笑顔が戻って、僕は安心した。
「こんなとこで、二人で、何してるん?」
閲覧ありがとうございます。
次回もよろしくお願い致します。
黒川渚