女の子って大変なんだな
僕だ。
いや、正真正銘どっからどう見ても僕なんだけど、僕本人が言うんだから間違いないんだけど、それはいつもの僕とはあまりに違いすぎて。
指摘しようとしたら、向こうが先に沈黙を破った。
「ねえ、あんた誰?」
初対面(目の前にいるのは僕だが)でいきなりあんた呼ばわりかい。
「…奈良橋裕貴。」
僕は僕に僕の名前を言った。
「…やっぱり!あーしは、御坂めぐみ。あんたが今入ってる身体の持ち主!」
うん…。おそらくそうだろうとは思ってた。
しかし、あっけらかんとした女子だな。
「ねぇ、君、どうしてこうなったか心当たりとかない?」
「ていうかこれからどうしよう。」
「僕の家族には言った?僕は言いそびれちゃったんだけど、やっぱり家族には言った方がいいよね?」
「元に戻る方法とか分かる!?」
僕は心に抱えきれないほどの不安と焦りを、水一杯のバケツをひっくり返したかのように、質問してしまった。
「あーしも、分からない。っていうかこっちがききたいよ。」
「なにその顔と髪型ー!ありえないっしょー!」
そっちーーー!!!!
「君、今の状況分かってる?僕たち入れ替わっちゃったんだよ!?」
「うん。にしてもその格好はないわ、やり直し!さ、部屋に戻って、あーしがやってあげる。」
そういって僕の背中を押して再び家の中に入ろうとする。
この子バカなの!?
なんでもっとシリアスになれないんだよ。
よく考えなくてもやばい状況だろ、これ。
「ていうか、言わせてもらえるのならば僕だっていろいろあるぞ!なんだよ、その髪型と制服の着崩しは!僕普段、そんなキャラじゃないから…。あと僕の身体で『あーし』とか言わないでくれ。」気持ちが悪い。
「ん、あぁこれ?なんかテキトーに洗面台にあったワックスでちょちょっとやってみた。なかなか良くない?でももうちょっと髪の毛すいた方がいいよ。」
余計なお世話だ。
僕は普段整髪料は使わないし、そもそも持っていないので、おそらくそれは兄のやつだ。
「それはそうと、今から直す時間なんてないだろ。」
先程彼女の母親に起こされたときのことを思い出す。
「まだ7時半前じゃん。余裕だよ。学校には8時半までに登校すれば間に合うんだから。家から10分。」
「え?じゃあなんで…さっきお前の母親が凄い剣幕で起こしにきたぞ。」
「多分だけど、あーし寝起き悪いし、化粧とか髪のセットとかに時間かかっていつもギリギリだから、早く起こしてくれたんでしょ。」
あぁ、そういう事。
優しい親御さんだな…。
「とにかく早く。時間勿体ない。」
僕たちは再び彼女の部屋に戻った。
…
僕は彼女に化粧をしてもらいながら、二人でこれからのことをいろいろ話した。
変わってしまったものはしょうがないので、戻るまでの間のお互いの自分の在り方など。
家族のことや、…交友関係のことまで。
入れ替わったことは誰にも言わずに、お互いに身体の持ち主を演じることになった。
つまり僕は御坂めぐみになり、彼女が奈良橋裕貴になる…演じる事で話はついた。
正直、心配しかないのだけど、そうするしかない。
「はーい、できたよん。」
あーし完成ー!と言ってニコニコする御坂。
うん…なんていうか、分かりやすいギャル系メイク。
せっかく美味しくできた料理に過剰なトッピングを施してしまったような感じ。そのままでよかったのに。
髪の毛は時間がないからと言ってポニーテールにしてくれた。
これ、化粧しない方が可愛くないか?
好みは人それぞれだが、大抵の男子はもっとナチュラルな感じが好きだと思うけど。
「何、文句あるなら言って。」
いつもよりチャラい風な僕の顔が鋭い目線を向けてくる。自分の顔だから全然怖くないけど。
「いや、化粧しない方が僕はいいかなと思って。」
「はぁー?すっぴんで出歩くなら死んだほうがマシ!」
「その台詞、他の女子の前では言わない方がいいぞ。」
おそらく、大半の女子が敵に回ることになるだろう。
その顔で何言ってんのよー!的な。
「…はっはーん、あーしを口説こうとしてるな、さては?無駄だよーん。あーし彼氏いるから。」
「あ、そう」
心底どうでもよかった。
…いや待てよ、
つまり僕は戻るまでの間御坂の彼氏と会うことになったら、僕が御坂の彼氏とあんなことやこんなことをするってことだよなあ!
無理、無理、それだけは絶対無理!
ちょっと待ってね。と言い携帯をスクロールし、画像を見せてくれた。
そこに映った顔に僕は息を飲んだ。
「さっき話に出てきたから、説明省けてラッキー!」
よく撮れてるっしょー。と彼女は笑う。
橘 丈翔
紛れもなく、僕の親友の丈君だった。
閲覧ありがとうございます。
次回もよろしくお願い致します。
黒川渚