言いたい
帰り道
三人は別れた後、丈くんから連絡があり、僕たちは二人で待ち合わせた。
「奈良橋、今、好きな人おるん?」
丈くんは真剣な目を向けて僕に尋ねた。
いる…けど、この場合隠したほうがいいよな。
誰ってなった時、面倒くさい。
「いや…いないよ。」
「まずはそこからやな。早う見つけてアプローチして取り戻そうや。な!」
ニッと笑って丈君は言うけど、無理だろうな。
だって僕が好きなのは…
「丈くんはどうなの?御坂のこと、本気じゃないんでしょ?…別れる、とかはないの?」
「…せやな、ごめん。奈良橋のこと偉そうに言う前に自分のことちゃんとせなあかんかったな。」
「そういう意味じゃなくて…いや、うん、今後のためにその方がいいかもね。丈くんキツいじゃん。…本当に好きな人できた時に動けないのは、さ。」
僕はどっちにしろ動けないけど
「優しいんやな。あーあ、奈良橋みたいな女の子現れへんかなー…ってうわ!おった!」
丈くんは僕を指差して、ふざけて驚いたような顔で見る。
僕を元気付けようとしてくれているのだろうけど、今はその優しさが辛い。
「丈くんなら、いつでも彼女できるよ。」
「なんやそれ、テキトーやろ。」
「…僕が女子だったら丈くんみたいな人がいいもん。」
「それほんまに言うてる?」
「ほんまほんま!」
現に女子じゃなくても好きだし。
「じゃあ、付き合う?」
「…」
…はい?
「ええやん!そうしようや!」
待って。wait、wait。
頭がついていかないよ。
「…それはどういう?」
「そのまんまやねん!
今の俺らなら、全然違和感あらへんやろ。むしろその方が自然や!それに…何かと一緒に行動しやすくなるやろ。」
あぁ、そういうこと。
そりゃそうだ。
また出たよ。根拠も実力も無いのに、自惚れだけは一人前な、僕の悪い癖が。
丈くんはいつだって僕の為に動いてくれる人
なんていい友人を持ったんだろう
僕には勿体無いよ。
「よっしゃ決ま…「ちょっと待ってよ。」
「何や、反対なん?」
いい案やと思うんやけど、と丈くんは首を傾げた
「反対…でしょ。」
「丈くんさ、もっと自分大切にしてよ。」
丈くんが僕の為に身を粉にしてくれるのは、いつものこと。
僕はそれに、何一つ返せてあげられてない。
それが今なんだと思う。
「今まで付き合った人、全員本気で好きな人じゃないって悲しいじゃん。絶対後悔する。」
「仮に、僕と付き合ったとして、丈くんの中ではノーカンだとしても、周りの人にはその事実は残る。…御坂と付き合ったという事実は消せない。」
「そんなん、今に始まったことやないやん。気にせえへんよ。」
「僕が…気にする。僕が、ノーカンにできない。」
「…あー、せなや。悪い悪い!奈良橋気持ち考えてあげられへんかった。よくよく考えたら、気っ色悪い提案やんなぁ。見た目はそないでも、男やねんから。」
ごめんな。と丈くんは申し訳なさそうに笑った
違うよ
違うんだよ、丈くん。
だって丈くんは僕のことを考えて、その提案をしてくれたんでしょ?嬉しくないわけがないじゃないか。
でも、これを言ったらダメだ。
僕は丈くんの為なら嘘も吐けるようになった。
「そうだよ、冷静になって。丈くんらしくないよ。」
「割と奈良橋の前では、俺らしいつもりやったんやけどな…まぁええわ。んじゃこれからも変わらずで。…といきたい所やねんけど、俺ら…俺とメグは前提として付き合ったままやから、元に戻るまではその設定通したいんやけど。やっぱりその方が話の通りも早いし…それも嫌?」
「…丈くんが、それでいいなら」
だってそれは、丈くんと御坂の問題だもん。
僕がこれ以上口出しするのは、筋違いだ。
「うん。やから、怪しまれない程度に人前ではそういう雰囲気出すけど、許してな。気持ち悪いかもしれへんけど、我慢してな。」
何故、そんな悲しそうな顔してまで。
僕の為にそこまでしてくれるのに、こっちが申し訳ないし、我慢させてしまってるし、許してほしいよ。
好きでもない人と付き合うなんて、僕には理解できないし、絶対無理。
でも
付き合ってる振りでも、本人じゃなくても、今のこの状態を…幸せに思ってしまうなんて。
僕は、必ず天罰を受けることになるだろう。
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黒川渚




