僕が僕じゃなくなった朝
翌朝いつも通り起床し、準備を始めようとする。
が、僕にはそれができなかった。
「どこだよ…」
まず、部屋の天井からしていつも通りではなかったのである。
部屋のさまざまなところに散りばめられた、ピンクとゼブラ模様。
起きてすぐ目に入る右側にある窓と水色のカーテン…ではなく、またもや一面ピンクのゼブラ模様の壁になっており、海外の女性のポスターやら、おそらくこの部屋の持ち主とその友人だと思われる写真などが飾られていた。
とにかく起きなければ。
嫌な予感は的中した。
鏡の前には、とても可愛らしい…正直とてもこの部屋に住んでいるとは思えない清楚な、僕と同じくらいの年頃の女の子が立っていたのだった。
「なんだこれ」
「ていうか誰だよ」
僕は必死になって思い出してみるが目の前の女子に見覚えは、ない。
「…携帯!」
何か手がかりがあるかも。
そう思い、枕元のそれを手に取るが
「パスワード分かんねー…。」
一瞬で微かな希望が打ち砕かれた。
知らない女子の持ち物を勝手に漁るのはかなり気後れするが、この場合は仕方ないだろ。
「すみません…失礼します。」
ゴテゴテにデコレーションされた通学用のカバンを開ける。
「あった」
学生証。学生なら誰しもが持っている自らを証明する代物である。
分かった情報といえば。
◯◯高校、調理科、三年一組
そして、御坂めぐみ
と言う名前だけだ。
御坂さんというのかこの子は。
「ちょっとめぐみー!いつまで寝てるの!」
「うわっぁ!」
変な声が出てしまった。
「ち・こ・く!するわよ、もー、何してるの!」
突然部屋に入ってきたのは、40代くらいの女性。
朝っぱらから元気な人だ。
「えっと、お母さんですか?」
「何バカなこと言ってるの?」
「寝ぼけてないでさっさと顔洗ってきなさい!」
バカな事が起こっているのは、あなたの娘さんの体のほうですよ。
言うべきか言わぬべきか。
いや、言ったところで感あるよな。
また「バカなこと言って!」とか言われるのが関の山だろう。
考えてるうちに「早く準備しなさい。」と部屋を出て行ってしまった。
どうしよう。
学校休みたいけど、親御さん厳しそうだしな。
病気じゃなければなにがなんでも行かされそう。
とにかく訳もわからず、全く着慣れないセーラー服に腕を通して、生まれて初めてのスカートを履き、歯磨きと顔だけ洗ってすぐに家を出た。
玄関を開けると17年間嫌でも毎日見続けた顔。
つまり、僕が立っていた。
閲覧ありがとうございました。
次回もよろしくお願い致します。
黒川渚