どうでもええわ
橘丈翔
一月十一日生まれ。B型。
特技は人付き合い。
趣味は人間観察とお笑い。
俺は、人に嫌われる事を、異常に恐れていた。
十七年間歩んできた人生は、人に好かれる為だけの人生やった。
別に、学校でいじめにあったり、無視されたりとかは全然なかった。俺の人格を形成したのは、間違いなく家庭環境やと思う。
両親は健在やけど、二人とも、恐らく普通やない。
個人としては普通かも知れへんけど、親としては《狂っている》としか言いようのない両親やった。
俺は物心ついたときから、自分の事は自分でやっている。やるしかなかった。
炊事洗濯掃除、親に書いてもらう資料なんかも全て自分でやった。
両親は自分たちの事意外は一切手出ししてこない、親子の会話もない。
俺は酷いネグレクトを受けていた。
小学校低学年までは父方の祖父母が健在やったから、唯一その二人には可愛がってもらえたし、祖父母のまえでは両親も露骨に俺を邪魔者扱いしなかったので、俺は祖父母が大好きやった。
しかし、祖母は病気で亡くなり、祖父は認知症になって病院が隣接する施設に。今現在も入院中で、たまにお見舞いに行く。
絶対に、高校に入ったら、こんな家、絶対出てやる。
その一心で、俺は小中と勉強を必死でやって、首席で高校入学。入学金免除の学費八割負担制度を勝ち取った。
俺が家を出て行くときも、両親は特に何も言わんかった。
ただ、「周りの目もあんねん、親不孝者が。二度と顔見せへんでええからな。」
その一言を最後に、俺は両親と会ってない。
関東まで出てきたのもあるし、俺も二度と家には戻らへんと決めた。
…
遡って入学式
体育館に並んだパイプイスに出席番号順に座らされる
俺はまだ、誰とも会話していない
…俺は慣れない土地に半端やなく緊張していた。
大丈夫、今まで通り、行けばええんや。
《誰にでも優しく、平等に接する。しかし真面目過ぎず、おちゃらけてみんなを笑わせる》
これが俺が今まで学校でやってきたキャラ。
自分で言うのも何やけど、俺はそこそこ人気者やったと思う。
誰とでも仲良くなれるし、苦手なタイプもない。
そう聞くと、いい奴みたいに聞こえるが、俺はいい奴なんかやない。
他人に興味がないんや。自分以外はみんな一緒
興味があるフリは十八番やけど。
そのくせ、孤立する事は何よりも恐れている
本当しょーもない奴や。
クラスごとに一人ずつ名前が呼ばれて行く中、俺は同じクラスの人の名前を、一人一人暗記する。
人に名前覚えてもらうんは、案外嬉しいもんやからな。
それもこれも人間関係を円滑にするため。自分のため。
やがて自分の番がきてそつなく返事をし、タ行俺だけなんや、とか考えてたら
「ジョーカーって…カタカナでジョーカー?」
「」
そんな訳あらへんやん
それを言うならジョーカーやなくてジョウカやし。
初対面で何やコイツしばいたろか。
何て言うはずもなく
「丈夫の丈に翔…って言うても分からへんよな、ほら、卒アルの表紙とかによく書いてあるアレや!むずいねん俺の名前説明すんの。あと「か」の後伸ばさへんから!トランプか俺は。」
「あ、そうだよね…ごめん、か、かっこいいね。」
後半はよく聞こえへんかったけど、俺は模範解答をした。
「変わっとるやろ?せやねん、俺も気に入っとんねん。」
俺の名前にはそれはそれは悲劇的な由来があるんやけど、それは絶対に、今言うことではない。
「あ、はは」
何やその渇いた笑い。会話終わってしもたやろがい。
自己紹介くらいせえ、奈良橋裕貴。
俺はちょっと仕返しをしてやりたくなり、話を続けた
「下の名前、裕貴って女の子みたいやなぁ」
ムッとした顔で奈良橋は僕を睨む。
ああ、やっぱり気にしてんねや、分かりやす!
「冗談や、ごめんごめん、…さっきの仕返ししたくなっただけやねん。許してな。」
別にそんな気にしてへんけど。
「一年間よろしくな、奈良橋。」
ムッとした顔が、少し申し訳ない顔に偏った。
ほんまに分かりやすい子やな。
そして、多分やけど、いいや絶対こいつ孤立する。
人との関わりサボってきた奴や。
しかし今の俺にぴったりの駒やった。
こういう大人しめな子と基本一緒におって、たまに騒ぐタイプの子らとも仲良くする。
そうすることによって、いじめのないクラスが完成する。そうしてきた。
ただでさえ、自分の事で大変やのに、面倒ごとはごめんやねん。
「家、近いん?」
「…◯◯のほう。」
「ホンマに?俺もそっちの方やねん!電車にバスに大変やんか。一緒に帰ろや。」
「えっと…か、考えとく」
何っでやねん!考えとくって…根に持つタイプか?
それ、絶対返事せえへんで帰るやつやろ。
作戦2や。
「俺、大阪から来て、こっちに友達0人やねん…さっきので嫌になってしもた?」
「こんなやけど…ホンマは人見知りやねん。人との距離感よく間違えてまうんよ、ごめんな。」
自分も同じやで作戦
人見知りはホンマやけど?
「僕もごめん、…友達、僕もあんまりいないからなんて返せばいいか分かんなくて、つい…。一緒に」
帰ってください。僕なんかでよければ…
恥ずかしそうに、そして嬉しさを隠せてない表情で奈良橋は心を開いた。
ちょ、ちょろい…
何や可愛い奴やな。んで意外と謙虚なんや…いや、卑屈?
ガード高いわりにその壁はふにゃふにゃだった。
それから、俺たちは一緒に居ることが多くなった。
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