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ドア越しの体温




あ、やべ。男子トイレ入っちゃった

久々の母校に、もとの感覚に戻ってしまっていた。


…誰か来る


僕が急いで個室に入ったのと同時に、扉が開く音が聞こえた。


ふぅ、危機一髪。









「せやねん、ホンマにアホやろ?」


「ありえないでしょ!」




その聞き慣れた声に、僕は反応してしまいそうになる


丈君と御坂だ。





「で、埒あかんから、戻って来たんやけど」


「絶対気引こうとしてるよ、嘘に決まってる。」


「せやけど、あまりにも必死やったから、なんかあったんちゃうかと思って。奈良橋、最近は会ってないん?」


「うん、僕、その話聞いてから生理的に無理になったんだよね。御坂めぐみ。もう一生関わらないよ。」


「そこまでか。ちょっと嫌いすぎちゃう?」



僕は個室の中で、叫び出したかった。

全部違う。全部嘘。


なあ、御坂。

お前にとって…御坂めぐみの思い出ってそんなもんなのか?

全てを捨てて…本当にそれでいいのかよ?

ミポリンはお前のこと、すごく心配してくれているぞ。例え態度が変わってもいつもニコニコ話しかけてくれて。

母ちゃんも。毎日お前の好物作って、何も言わないけど何かは思っていると思う。




「僕、入学して初めて丈君に話しかけてもらった時から、ずっと大切に思ってるから。」


「え?」


「何?忘れちゃった?」

酷いよー。と御坂が笑う


「いや、忘れるわけないやん。奈良橋から話しかけてきたやろ。」


そう、ジョウカって名前が珍しくて、意外なことに、僕からだった。


「!そーだ、そうだった!いやぁ勘違いしてた。完全に思い出した。」


「しっかりしてやー。何て言うたか覚えとる?」


「…よろしくー、みたいな感じ?」


ジョウカって、カタカナでジョウカ?だったな確か。失礼な事言ったと思って、すげー反省したな。


「ちゃうよ、覚えてへんやんか、全然。」


「三年も前だしね、あはは」


「…じゃあ、初めて遊びに行った所は?」


僕の家だった。母さん、張り切ってお茶菓子出してたな。懐かしい。


「……ゲーセン?」


「二人でゲーセンなんか行った事ないやろ。記憶が捏造されとるやんか。」

「じゃあ、出店のたこ焼きの前にほぼ決まってた案は何?」


おばけ屋敷。丈君、ホラー系本っ当ダメだからなぁ。おばけ屋敷で腰抜かしたときは流石に笑ったわ。



「…メイド…喫茶。」


「…」

「…それなら、却下せえへんやろ。」


「…俺の家の鍵の隠し場所は?」


「………」


傘立ての下。一人暮らしで不用心だから変えろって言ったのに、とうとう二年と3カ月変えなかったよね。

先に入っててと、僕だけに教えてくれたんだっけ。


僕は、また涙が溢れ出してきた。


「…メグだよな?」



扉の大きな音がトイレに鳴り響いた。


おそらく、御坂が飛び出して言ったんだろう。



すぐに、こんこんと個室の扉をノックされた。


「奈良橋…?」


僕は、その優しい呼びかけに、返事をした。



「信じて、くれるの?」


「ちょっと出てきてくれへんか?」



僕が鍵を開けて出ると、











丈君は僕を強く抱きしめた。



「ごめん。さっきは信じてあげられへんかって。ホンマに悪かった。」


「丈君…」

僕は涙で、嗚咽混じりで言った。

「あり、がとう…信じてくれて。」


「今まで一人で抱え込んで…しんどかったやろ。安心せえ、これからは俺がついとるから。」

心配すんな。と力強く言ってくれた。






丈君は泣いている僕の背中を、ずっと、ポンポンと優しくあやすようにしてくれて、たまに確かめるように、グッと力を入れて抱きしめた。





閲覧ありがとうございます


次回もよろしくお願いします。


奈良橋くん、良かったね。


黒川渚

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