溢れ出した想い
「お、気づいたか?」
僕が目を開けて一番に見えたのは、見覚えのあるような天井
「保健室。お前、倒れたんやで。」
そして、何度も夢に出てきた愛おしい声
「…あぁ」
「大丈夫か?目合った瞬間倒れたもんやから、何事かと思ったで。貧血やってさ。」
「…」
僕は久しぶりに見た丈君の顔を、ボーっと眺めてしまった。
嬉しさ、切なさ、安心、いろんな思いが胸に押し寄せる。
「…まだしんどそうやな。」
先生呼んでくるわ。と席を立とうとする丈君を慌てて引き止める
「待って!…もう、平気だから。」
「ホンマに?無理したらアカンで。」
「うん、大丈夫。」
「ならええけど。」
「あのさ」
「なぁ」
互いの声が被ってしまった。
「…先、いいよ」
「いや、ええよ何?」
「忘れた。思い出したら言うから、先言って。」
「なんやねん、まぁ…いいや。」
「めぐ、他に好きな人できたんやってな?」
「は?」
「奈良橋から聞いたで。…あいつは俺らの事情知らへんから、お前の事えらい怒っとったけど」
「良かったなぁ、誰なんかは聞いてへんけど、俺とおるよりは幸せになれることは確実や。」
「正直安心しかあらへんわ。おめでとう。」
丈君は
まるで、鳥籠から解放された鳥のように、清々しく、晴れやかな顔で笑った。
「違う」
「いや、ホンマに怒るとかないし、なんなら嬉しいくらいやねん。」
「違う」
「やから…」
「違うんだよ丈君!」
「あーもう、分かったから静かにしとき…って何泣いとるんや」
「助けて…」
「え?」
「助けて…丈君。僕だよ、奈良橋だよ!」
僕は涙ながらに訴えた。
「僕、一か月前に御坂と体が入れ替わっちゃって、そのまま元に戻れないんだよ!御坂は連絡取れなくなっちゃうし、僕、もう…どうすればいいか全然分かんなくて…」
限界だ。もう無理。
僕ひとりではもう抱えきれない
「何言うてん。」
「そこまでして俺の気、引きたいんか?」
「本当なんだって!僕だって信じられないけど、本当に入れ替わってるんだよ!お願い、信じてくれ…!」
「演技、上手いなぁ。…演劇部はいったらえんちゃう?」
「お願い、丈く」
「もう、ええ。」
「埒あかんわ、俺戻るわ。抜けてきて、迷惑かけとるし。」
「待ってよ…!」
「体調。悪いんやったら、帰れ。」
じゃあな。と丈君は振り返る事なく行ってしまった。
そうだよな。
信じないよ、普通
こんな馬鹿な話。
しょうがない。誰だってこうなる。
僕はどうにか自分を納得させる為の言葉を、頭の中に言い聞かせるが、それでも、涙が止まることは無かった。
…
「メグメグ!大丈夫!?」
丈君が出て行ってから、五分くらいしてミポリンが入ってきた。
「泣くほど辛いん?ごめん、もう帰ろ?」
「…丈君に会った?」
「え?…うん。メグメグ倒れて、私も付き添おうとしたんだけど、丈君の友達らしき人に引き止められて、何故かたこ焼き焼いてたよ。頼まれて。」
「こんなだったら、無理にでも抜け出してくれば来れば良かったなぁ…と思ったら丈翔君戻ってきて。」
「そっか…」
「ずっとついててくれたんだってね。優しいなぁ。」
「ごめん。」
「なんで謝るん?いいよ!今度丈翔君たちとグループで遊ぶ約束してきたから。大収穫!」
多分それに僕は参加できないだろう。
「ミポリン、その友達どうだった?」
「めっちゃ楽しい子だった!ノリがメグメグにそっくりなの…早く元気になって一緒に遊ぼ!」
「…ミポリンさ、その友達の人と仲良くなったなら、もうちょっとここにいれば?多分一緒に回ってくれるよ、…丈君も。」
「えぇ!?流石に体調悪いメグメグ一人にはできないよ。」
「ぼ…あーしはもう、大丈夫!でもちょっと一人で考え事したいから、先に帰るよ。ミポリンさえ良かったら…」
「そう…?実は、さっき誘われたんだよね…」
「行ってきな!」
「分かった!あ、でもなんかあったら連絡ね。また具合わるくなっちゃったりとか。」
僕が頷くと、ミポリンは少し名残惜しそうに、じゃあまたメールする。と保健室から出て行った。
とりあえず、起きよ。
僕はベッドから降りて、先にトイレに寄ってから帰ることにした。
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黒川渚