僕は君と居ることで存在価値が生まれる
「ねー、丈君ってば。」
「何やねん、俺今忙しいんや。」
後にしてくれへん。
君は最近そんな風に僕をあしらう。
その左手に持つ端末の液晶を見れば、それは嘘だと簡単に分かるというのに。
残念ながら、その今流行りのアプリでやり取りしている相手すら、僕には分かってしまう。
「…あー、奈良橋。」
やっとその画面から目を離したと思ったら、目を合わせる事無く体だけ僕の方に向けて、気まずそうに君は言う。
「今日一緒に帰られへんわ。」
「◯◯高のメグちゃん」
僕は思わず声に出してしまった。
「え?」
「そやけど、俺言ったっけ。」
不思議そうな顔で目を合わせてくる君はの顔は、無関心のようで何だか動揺しているようにも見えた。
「…◯◯高の友達が言ってたんだよ。」
「お前、俺以外に友達おったんやな。」
感心、感心。と君は目を閉じて頷く。
「酷すぎない。」
聞いた、もとい聞こえたのは本当だけど、友達というのは嘘だ。
僕は丈君以外に友人と呼べる者はおそらくいない。
しかし、その言われようには流石の僕でも傷つく。
「冗談や。」
「普段一緒に帰って遊ぶん俺ばっかやから、少し心配やっただけや。」
堪忍してや。と君は顔の前に左手を縦に構えて申し訳なさそうに笑う。
丈君は、友達が多い。
なんせこんな僕と仲良くしてくれるぐらいだ、性格は、かなりいい。
クラスで起こった問題は、自らから率先して解決しようとする、はぐれものを放って置けないタイプ。
本来僕は、そういう人間が嫌いだった。
一緒にいると、余計、自分が惨めな気持ちにさせられるから。
でも丈君は違った。
入学式から、そして最高学年になった今でも変わらず一緒に居る。居てくれる。
実際、他のクラスメイトとの交流の場を丈君が作ってくれたこともあったけど、他の奴からしたら「なんであんな奴が丈と」と思うのが普通の流れであって、実際そういう目で見られていた。
しかしそこは丈君の人柄か、僕をいじめるものは誰一人としていなかった。
今こうして丈君としか関わりを持たないのは、僕の意思なのである。
「まぁ、せやけん悪いけど今日は…」
「分かった。」
僕は丈君の次の言葉を待たずに席に戻った。
あっという間に放課後になり、僕は一人で下校した。
…
僕は、◯◯高の女子に嫉妬しているのだろうか。
馬鹿馬鹿しいにも、程がある。
丈くんがモテるのは今に始まった事ではない。
甘いルックスに、人懐っこい笑顔。
男も女も関係なく、誰にでも分け隔てなく接する精神。
体育の授業などで丈君がシュートを決めれば、ちらほらと黄色い悲鳴が聞こえるくらい。
本人は自覚しているのか分からないが、俺には関係無いとばかりに、日々笑いを追求し回りを楽しませている。
そこまで含めて完璧。
モテない筈がない。
僕は多分、初めて心を許せる友人を大切に想うあまり、拗らせてしまっているのだ。
そうに違いない。
そうだと思いたい。
そうでなければ、いけない。
きっとこんな僕に対する神様のお告げだ。
もっと友達を作れ、というお告げ。
僕は、そんないるのかいないのか分からない神様へ思いを馳せて、都合よくお願いをしてみる。
「僕の心の中の醜い細胞と君の愛する彼女の細胞が入れ替わればいいのに」
僕は劣等感に支配されて、子供のように無い物ねだりしか出来ない自分が心底情けなくて、笑うことしかできなかった。
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黒川渚