一通目 アルストロメリア
実際に心を埋めるってどうやればいいの?
『人それぞれの悩みを解決するのじゃ。特に妖は悩みの多いお主のような10代の心に入りこむことが多い。取り憑かれたものは、何かしらの影響を受けてしまうからの…』
え、それはかなりまずいのでは?
『そうじゃの、出来るだけ早く追い出さなければいけんのじゃ。早速一人目の所に行ってみるかの』
まず初めに向かった先は自宅から徒歩5分でついた。そこは小学生の時に仲が良かった子がいる家だった。名前は確かアルストロメリア君だったか。僕はアルス君と呼んでいた。アルス君は人懐っこくて僕にいつもついていたな。
『ここに未来を蝕む妖がいるの』
妖にも種類があるの?
『うむ、妖にも特徴があっての…妖が生きていたときに同じような悩みに苦しみ死んだものたちの怨念じゃ。早速じゃが、会ってみるかの』
いや、ちょっと待って、心の準備ができてないよ。5年ぶりぐらいだからどうして会いに来たかを考えよう。よし、また明日にしよう!
そういうと、猫神様はニコリと笑って言った。
『ほう、まだそんなことを言うのか?お主のパソコンの「立ち上がれ者ども」というファイルを、間違えて家族に公表してしまうかもの』
その愛らしい笑顔の奥にはドス黒いものが渦巻いているように見えた。
『お前さんがまさか同性に興味があったとは…』
いや、嘘をつくなよ!本当にそういう嘘はやめて!
『ほらさっさと行くぞ』ピーンポーン
ちょっと何も考えてないよ!
ハーイ、イマイキマース。ガチャ
中からは以前あったときよりもずっと低い声のアルス君がいた。アルス君は昔の面影を残していた。なぜかアルス君はうっすらと黒い霧に覆われている。妖にとりつかれているのだろう。
「もしかして、トピー君?」
「うん、久しぶりアルス君。今日はずっと昔借りてた125円を借りてたのを返しに来たよ」
めっちゃ早口で言った。
「えっ、そんなことのために来たの?お金なんて借りてたっけ?…でも、久しぶりに会えて嬉しいよ。せっかくだから、上がっていく?」
うん、よろしく。ちなみにお金は借りてない、125円損したな。
「久しぶりだね、アルス君大きくなったね。学校はうまく言ってる?病気とかなってない?家族とはうまくやってる?誰かにいじめられてない?」
とりあえず、思いつく限りの質問をする。どんな悩みかをまずは知らないと何もできないからね。
「ちょ、ちょっと一気に質問しすぎだよ。僕は元気だよ、特に何もないから心配しないで」
アルス君は困った顔をして答えた。アルス君を困らせてしまったな。僕は悩みをどうやって聞こうか、と考えているとアルス君が続けた。
「トピー君は将来の夢って何かある?」
将来の夢?僕はあまり考えたことないな。どうして?
「先生がね、夢は持つべきだ。そのために日々の努力がするんだ、っていつも言ってるの。でも僕は特になくて、何となく良い高校、大学にいって良い職業に就きたいしか、考えられないんだ」
アルス君の纏う黒い霧が一層濃くなっている気がする。
「でもさ、例えば良い高校に入れるのは一握りで、大学はさらに少なく、その上の良い職業につけなかったらって思うと少し不安になるんだ。僕は自分が特別優秀だとは思えないし、いつか振り落とされるのではないか?ってね」
僕はアルス君が凄いと思った。ここまで、真剣に将来について考えて悩んでいることに。僕は将来について考えないようにしていた。
やっぱり将来は不安しかないから。自分が幸せに生きているという保証がなく真っ暗だからだ。特に僕は高校という最初の関門で振るい落ちてしまったから。
僕には何も答えられない。適当なことを言っても、アルス君の心には届かないだろう。
僕たちはお互いに何も話さず重苦しい空気が流れる。ニャー。お互いに下を向いてしまっている。ニャー!ニャニャー!!
窓の外から猫の鳴き声が聞こえてくる。そちらのほうを見てみると、一通の手紙が置いてあった。
話は聞かせてもらったのじゃ。
将来について、色々と不安な気持ちがあるのじゃな。
特にお主はどんな高校に行くかによって、この先大きな影響を受けると分かっている。
いっぱい悩むのはそれだけ真剣に考えているからなのじゃ。
その上で、儂がお主に知ってほしいことは、「どんな職業につくかではなく、どんな人間になるか」じゃ。
良い職業につけば、幸せで成功した人生を約束されると思うじゃろうか?
そうではない、何故かというと幸せは職業ではなくいつもその人についてくるからじゃ。
お主がどうなりたいか、どうなりたくないかを考えつづけるのじゃ。
そう考えることができれば、未来は不安ではなく希望・憧れにかわるのじゃ。
お主はどんな人間になりたいのじゃ?