プロローグ
短いですが、プロローグを。
『……クリス、リリィよ……』
山脈に沈む夕陽に照らされ、偉大なる父は愛しい子どもらの名を呼んだ。
「……はっ、はい……っ」
誇り高く大切な父の呼びかけに、気を失った幼き少女を抱え、少年は精一杯の声で応える。
けれどもその声は、我慢できない嗚咽で湿っていた。
『ふっ……何を泣いておるか、男であろう? それではリリィを守ることなど、夢のまた夢であるぞ……?』
「でも……でもっ!?」
父の苦微笑に、しかしクリスと呼ばれた少年は悲痛な声を上げる。
少年にはわかっいたのだ。これが偉大なる父との別れになると。
別れの涙を流す少年に偉大なる父は微笑み、ついで少年の腕で眠る幼い少女に視線をおくる。
疲れているためか、まるで死んだように眠る少女はしかし、確かに生命の息吹を感じることが出来た。
(……まさか、人の子を護るがため、己が命を燃やし尽くすとは思わなんだ……)
彼にとってこの幼き二人は、いやこの種族はちっぽけな存在であった。それどころか、傲慢にも彼の力を欲して命を奪いにくるような存在。
けれど、二人は違った。違ったのだ。
(そう……魂の奥底から二人は違った……だからこそ我は見たかった。この子らの未来を……)
しかし、その願いは叶わない。だがそれでもよかった。二人の未来を奪われるよりは。
だからせめて、最後に彼は願った。
『我が子らに祝福を……。龍神の祝福があらんことを……』