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ドラグーン戦記〜世界最強の姫と辺境貴族の物語〜  作者: 国伊都
第0章 『それぞれの日常』
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第八話『スルト自警団』

PVが累計1000を超えました!

読んでくださった皆さん、ありがとうございます!

またブックマークしていただいた皆さん、ありがとうございます!


そして、読者のみなさんの目に触れる機会をくださった、タンバさん。本当にありがとうございます。

短いですが、最新話を投稿させていただきます。



 キールとの商談が終わると、クリスはセレーナを補佐につけ、各種書類の整理をしていく。

 トールとシルヴィアは、製作する武具の詳細を詰めるため、キールを伴って工房へと向っていった。


「……あの娘、大丈夫かしら?」


 セレーナはふとペンを置き、ポツリと呟く。


「シルヴィアですか?」

「ええ……。あ、シルヴィアの腕を信用してないってわけじゃないわよ。ただ、あの娘は背負えるのかしら。他人の命を」


 シルヴィアの腕前はセレーナもよく知っている。彼女の鍛冶師としての腕は本物だ。

 武具の製作は初めてながら、シルヴィアは今まで多くの包丁や鍋といった調理器具を製作し、その出来は領内の主婦達に高評価を受けている。

 いわく『新品がまるで長年使い慣れたもののように錯覚するほどに手に馴染む』そうだ。まさしく、主婦達にとって『名工イーヴァルディ』とはシルヴィアのことに他ならないといったところである。

 またシルヴィアはトールの弟子として、ゼファー家に仕える武官の武具の整備を担当しており、その中には魔術兵団を率いるセレーナも含まれている。

 シルヴィアの調整・整備のおかげで、セレーナは何の障害もなく任務を遂行することができているし、その武具に命を何度も救われている。

 だがそれはすべて『名工トール・イーヴァルディ』の作品あってこそである。其処に宿る『責任

』は製作者であるトールが担うものである。


 そう、何かを造りだすというのには『責任』がともなうのだ。

 武具とは、その名の通り戦うための道具である。

 武器は持ち主の敵を殺し、鎧は持ち主の命を護る。

 武具の能力が充分に発揮されようがされまいが、使用されるその瞬間に命の炎が消え去る。そんな場所にシルヴィアの武具さくひんが存在することになるのだ。


 その責任をシルヴィアは背負うことができるのか?


 セレーナはそんな覚悟を、妹分シルヴィアが持てるのか? とつい考えてしまい心配していた。


「大丈夫ですよ。彼女なら」


 セレーナの疑問に、クリスは心配することはないと応える。


「彼女は正真正銘の『イーヴァルディの後継者』です。覚悟がなければ、その入り口にも立てなかったはず。それに彼女の『夢』を考えれば、今回の依頼は受けるべきものです」


 ――いつか私が造った鎧で、お二人をお守りしますっ! ――


 あの時、シルヴィアはそう宣言した。

 まだ幼く、親元から祖父であるトールに弟子入りしたばかりのシルヴィアは、クリスと『彼女』にそう宣言したのだ。それが家族を、友達を、一族を助けてくれた二人への恩返しになると信じて。


 二人に誓ったシルヴィアが、約束を違えるとはクリスは微塵も考えていなかった。

 それになにより、今回の依頼はその『彼女』の下に仕えようとしている少女のために武具を造るというもの。

 シルヴィアの夢への第一歩と考えれば、多少の不安はあれど、必ずや依頼を達成することだろう。


「そうね。私の考えすぎね。……よし、こっちは終りよ。クリスの方は?」


 優しさからの心配が不信へとすり替わっていたと、クリスの言葉に気付き反省するセレーナ。気を取り直してセレーナは最後の書類にサインをいれる。


「こちらも、これで終わりです」


 セレーナの問いに、クリスも目の前に残っていた書類にサインを入れながらそう応える。

 これにて、今日中に処理しなければいけない書類手続きはすべて完了。もちろんその中には、先ほどまで行っていた商談も含まれており、キールとの取引を記した書類が最後であった。


「うーん……それじゃ、いきましょうか」

「ええ、そうですね」


 二人はおのおの身体をほぐすと、執務室を後にする。




※※※




 執務室を出た二人は屋敷の中庭に向う。

 本邸の中庭は木材資源の管理・警備の関係上、森と繋がっており、警備を担当するゼファー男爵家私兵団――スルト自警団の拠点となっていた。

 町の急成長以前から土地だけはあったため、中庭といっても充分な広さを持った其処では、自警団に所属する者たちが鍛錬に汗を流していた。


 基礎体力をつけるための走りこみに、丸太を相手に見立てての打ち込み練習。一定距離からの弓矢の射的練習などなど……。

 その中でもこの日大勢の者が参加していたのが、殺傷能力を抑えられた武器を持っての仕合であった。仕合想定は、双方馬を降りての接近戦といったところだ。


 自警団に所属する兵士だけでなく、休憩時間なのか、屋敷に勤める奉公人たちまでもが加わって中庭の真ん中で輪を作っていた。


「んんっ? あれは……」

「どうやら、二人がやるみたいだね」


 輪の隙間から見える中心には、二人の人物がそれぞれの武器を構え対峙していた。


 一人は壮年の男性。

 小型の盾と融合した手甲を両腕に装備し、脚には分厚い皮製の脚絆ゲートルを装備。鍛え抜かれた身体はまさしく鋼のようであり、発達した胸筋と魔鉄製の胸当てはどんな刃物であれ、心臓へ達することはないだろうと思われる。

 肘を軽く曲げ両拳を相手に向けるその構えからも判るように、彼は拳闘士インファイター

 短く刈り上げた灰色の髪を後ろに流し、ニヤリと笑った口からは発達した犬歯を覗かせ、まるで獲物を狙う狼のごとき風貌の男は、しかし一切の油断なく鋭い眼光で相手を見つめている。


 そんな歴戦のつわものに注意深く観察されているのは、一人の女性。

 その女性は対峙する男とは真逆の、小柄で華奢な体つきであった。ともすれば幼く感じるも、女性らしい魅力的なふくらみを持った身体を、踊り子のような扇情的な服装で惜しげもなく晒す彼女。

 しかし、その両の手に握られるは二振りの短剣。攻防一対を考えてなのか、アンクル・ガードを供えた片刃の刀身は肉厚で、見る者に恐怖を抱かせるには充分ななりをしていた。

 あまりにもアンバランスな格好をした彼女は、地に伏せるような低い姿勢で構えをとっており、その姿は、射られる直前の矢のようであった。

 栗色のボブカットとプリッとした艶のある唇がつくる笑みが、なんとも抗いがたい色気を漂わせるも、大きな瞳は油断なく男を見据えていた。


 二人が醸し出す尋常ではない気配に、観客達は固唾を呑んで見守る。

 と、その時――。


 ぴーっ! ぴろろろ……!


 中庭の上空を旋回していたトンビが鳴いた。

 その瞬間――!!


「ふんっ!」

「はっ!」


 対峙していた二人が、中心にて激突する。

 男は大地を踏む砕かんばかりの爆発力を持ったダッシュで。

 女は空気を切り裂かんばかりの鋭い跳躍で。


 飛び掛り、男の額を両断せんと短剣を振るう女。その一撃を短剣ごと腕を折らんとばかりにアッパーを振るい男は迎撃する。


 ドンッ……!!


 金属同士がぶつかったとは思えない激しい音が、輪の中心で響いた。

 第一撃を防いだ男は、足場のない女を吹き飛ばさんとブローを叩き込もうとする。それを女は短剣に叩きつけられた一撃の衝撃を利用、更なる跳躍をもって回避。

 重心をタイミングよく取り、空中で回転しながら危なげなく着地すると、その衝撃を上手く利用して男の背中に迫った。

 攻撃を空振りした男は、拳の行き先を下方に修正。その方向に上半身の軸を移動。同時に大地を蹴って、横方向に宙返り。女の全体重を使った突きを見事回避するのであった。


「ふーっ。あぶね、あぶね。本気で突き刺しにきやがったな、ミア?」

「そっちこそ。危うく腕が根元から吹き飛ぶところだったよ? ヴォルフ」


 短いながらに濃密な戦闘を繰り広げた二人は、それを感じさせない軽口を交わし、構えをとって向き合う。

 と、そこで二人に輪の外から声がかかる。


「はいはい、そこまでそこまで」

「ん?」

「あっ」


 声がしたほうに二人が顔を向けると、人山を掻き分けてエルフが近づいてくるところであった。


「セレーナ、おはよう! どしたの?」


 近づいてきたエルフ――セレーナにあいさつする女――ミア。それに軽く嘆息してセレーナは応える。


「どしたの? じゃないわよ、ミア。迎えに来たのよ。今日は定例会議の日でしょ」

「あれ、そうだったっけ? ヴォルフ?」


 セレーナの言葉に首をかしげるミアは、仕合相手の男――ヴォルフに話をふる。


「たしか……んな事いってた、かな?」

「かな? じゃないわよ、昨日言ったじゃない。まったくこの脳筋コンビは勝負事になると、すぐ頭の中がそれ一色になるんだから」


 同僚であるミアとヴォルフの反応に頭を抱えるセレーナ。周りの観客達はそんな彼女に同情の視線を送るのであった。


「まあまあ、セレーナ。気にしなくてもいいから。二人の忘れっぽさはいつもの事だし」


 と、そこでクリスがフォローに入る。と、それがいけなかった。


「クリス? 雇い主のあなたがそんなんだから、二人がいつまで経っても阿呆のままなの! 少しは叱るって事を覚えなさい!」


 やぶ蛇であった。

 家臣であるセレーナに叱られるという、なんともな事態に陥るクリス。まわりもエルフ娘の逆鱗に触れるのを恐れてか、苦笑いを浮かべるにとどめるのであった。

 そんな中、元凶の二人はというと、


「俺たち、さらりと二人に馬鹿にされてないか?」

「でも……事実だけに言い返せない」

「うっ……それは確かに」


 クリスとセレーナの指摘に項垂れるのであった。

 と、その時。


 ピーーッ!!


 人の心に緊張を強いる、甲高い笛の音が辺りに鳴り響く。

 その不安な音色は、平和な町スルトに危機が迫っているという知らせであった。

感想頂けましたら、幸いです。

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