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ドラグーン戦記〜世界最強の姫と辺境貴族の物語〜  作者: 国伊都
第0章 『それぞれの日常』
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第七話『亜人種』

勢いで書いてしまった感が多大にある話ですが……楽しんでいただけたら幸いです>_<





 名工・イーヴァルディ……。


 自らそう名乗ったのは、白く立派な口髭を蓄えた筋骨隆々な筋肉だるまといった老人。

 その姿はまさしく、多くの人間種が思い描く『ドワーフ族』の典型的な体形なりであった。


 ただ彼の場合、その鍛え抜かれた肉体のせいで、どちらかというと戦士といった雰囲気を漂わせているため、正直キールは有り体にいってビビッていた。


 それに気付いているのかいないのか、自称イーヴァルディは、まるで獲物を追いかける大鬼オーガのような笑みでキールに狙いをさだめ近づいてくる。そして彼の向い側――クリスの横にドンと腰を下すと、ずいっとテーブル越しに詰め寄った。

 その余りの威圧感に、キールは思わず尻餅をついてしまう。


「ヒィ……!?」

「何を娘っこのような悲鳴を上げとる? オレの作品が欲しくてここに来たのだろう? だったら早く話を進めねえと、時間が無くなっちまうぞ」


 砂時計の砂はもう上に三分の一も残っていなかった。このままでは、セレーナにひっくり返されてしまう。このままこのドワーフにビビッていては、目的を果たせなくなってしまう。


 砂時計に視線を奪われたキール。その姿を肴にトールは美味そうに茶をすする――クリスのを。


「あーーっ!? お祖父ちゃん!! 何勝手にお茶飲んでるのよっ!? それはクリス様に淹れたお茶なのよっ!!」

「いやー、手元にあったからつい、なぁ。まー別にいいじゃねえか」

「まったく良くないッ!! 申し訳ありません、クリス様! ほら、お祖父ちゃんも謝ってよ!」

「なんで……ただ茶を飲んだだけだろ?」


 全く悪びれる様子も無く再び茶をすするトール。その瞬間……。


 ……ブチッ……!


 キールは聞こえるはずの無い音を聞いた気がした。

 すなわち、シルヴィアの堪忍袋の尾が切れる音を。


「……お祖父ちゃん。私は謝ってって言ってるんだけど……?」

「すみませんでした」


 まさしく目が『笑っていない』笑顔で促されるとトールも逆らえないのか、すぐさまクリスに頭を下げるのであった。その姿に先ほどまで気圧されていたキールは思わず、


「ブッ……アハハハッ!!」


 噴き出してしまう。クリスはクリスで


「ハハハ……。気にしてはいませんが、素直に謝罪を受け取りましょう」


 慣れているのか、軽く微笑んでトールの謝罪を受け入れる。


「ありがとうございます、クリス様。キール様も大事な商談を邪魔してしまい、申し訳ありません! あ、お茶淹れなおしてきますね!」

「うん、よろしく。それといくつか茶菓子を。……長い商談になりそうだからね」

「はい、かしこまりました」


 シルヴィアはクリスの言葉に頷くと、お茶を用意するため部屋を出て行く。

 と、そこでついに――。


「――あっ……」


 砂時計上部に残った最後の砂粒が落ちた。

 つまり商談の前半戦が今終了したのだ。

 名工イーヴァルディとの対面は果たした。すなわち目的を達成するための第一関門をキールは突破したことになる。

 だが、それだけだ。

 目的の商品――イーヴァルディ謹製の武具を手に入れるための商談を、残り半分の時間で行わなければならない。


 ――私にそんなことが可能であろうか――。


 キールの脳裏に再び不安がよぎる。

 そして、そんな彼の不安などお構いなしに、側に控えていたセレーナが眼前の砂時計をひっくり返すため手を伸ばした。


 だが、その時――。


 トールの太く頑強な手が砂時計をつかんだ。まるでひっくり返させるまいという様に。


「……トール殿?」

「セレーナのねえちゃん、ちょいと待ってもらっていいか? このあんちゃんと腰を据えて話をしてえんだ」

「こちらからルールを破るようなことはするべきではないと思うよ、トール殿? 男爵家の名誉に傷がつく」

「それはそうだが……。客に関係の無い話をして、時間を食っちまったのはこっちだ。それを無視してルールを押し付けるのは、男爵家の看板に泥を塗ることになるんじゃねえか?」


 セレーナの問いに、トールはそう言葉を返す。

 いわゆる、あー言えばこー言う、である。


 二人はしばし視線を交わし、無言のバトルを繰り広げる。そしてその視線は最終決定権を持つ主――つまりはクリスに行き着いた。


 二対の視線に加え、この口論の主役であるキールのすがるような目線を受け、クリスは苦笑する。


「セレーナさん、今回の商談はイーヴァルディが主役です。トールさんの好きなようにさせてください。事実キールさんにもご迷惑をかけていますし」

「……かしこまりました。クリス、あなたの言葉通りに。……あとで覚えてろよ、ジジイ」


 クリスの指示に頷くと、セレーナはトールに一睨みいれて脇へと下がる。そのエルフ娘の睨みに対象のドワーフは、


「おお、怖い怖い」


 まったく怖がることなく、肩をすくめるに留めるのであった。


「トールさん、あまり他人で遊ばないでください。キールさん、大変申し訳ありません。商談を長引かせてしまい。

 当家の筆頭鍛冶師は、どうにも年下で遊ぶのが好きなようで……」

「あ、いえっ。お構いなく……? まあ、こちらも商談時間を延ばしていただいておりますし」

「――と言うか、それを目的に先ほどの茶番を引き起こしたわけですよ。なあ、ジジイ?」


 脇に控えるセレーナが、ぼそりと毒を吐く。だが、トールは何のことでしょうか? とでも言うように残った茶をすするのであった。


「あー、茶が美味い。さすがオレの孫。祖母さんが淹れた茶に匹敵するぜ、まったく。なあ、にいちゃん」

「あっ……は、はい」


 トールの振りに、キールは慌てて茶を口に運んだ。

 白々しいほどの話題そらしに、だが圧倒的不利のキールは付き合うしかない。


 名工の機嫌を損ねれば、目的の品を手に入れることなど不可能なのだ。どういう理由かわからないが、こちらを気にかけてくれている以上、その流れを崩すわけにはいかない。


「では、商談の続きを。トールさん、キールさんに聞きたいことがあったのでしょう?」


 誰かが進行しないと、なかなか先に進めないと判断したクリスがトールに話を振る。


「あ、ああ、そうだ。にいちゃんの話は隣の部屋で聞かせてもらった」


 トールもこれ以上は拙いと気がついたのか、カップを置き話の口火を切るのであった。


「で、だ。にいちゃんは言ったよな、『彼女を護りたい』と。オレの武具を渡そうとしてるのは、あんたのコレかい?」


 トールはニヤリと笑って、キールの眼前に小指をたてる。


「えっ、あ、いや、そっ、それは――ッ!?」


 ドワーフのその仕草にキールは慌てふためく。

 小指をたてるとはすなわち――お前の『女』か、と問うていることだからだ。


「なんだ、違うのか? ――そーか、片思いか。それはそれは……」


 キールの慌てふためく姿に、トールは察したのか意地の悪い笑みを深め、なぜか隣のクリスに目線を送る。

 その視線を受け、しかしクリスは肩をすくめるだけだった。


「わ、私はエルルーン様とはそういった仲ではなく……」

「なんだ、違うのか? じゃあ、なんでお前はここに来たんだ? なぜオレの造った武具を求める?」

「えっ、それ、は――」

「オレはにいちゃん、あんたの本心を知りたいんだ。――建前なんか、聞いちゃいない。それとも、さっきの言葉は嘘なのかい?」

「――違います! あれは嘘じゃない!!」


 トールの侮蔑の含んだ物言いに、思わずキールは声を荒げる。


「私は、エルルーン様を護りたい! あの人を護りたいんだ!!」

「だったら、最初から言いやがれ、坊主!」

「ッ!?」

「……なんで人間種ってのは立場ってのを気にしすぎるのか。まあ、オレの尋ね方も意地が悪いとは思ったがな。

 いいか、にいちゃん。正直言ってオレは人間種が好きじゃねえ」

「え……?」


 その瞬間、部屋を漂う『空気』が変わった。


「っ!?」


 首下を締め付けられるような、なんとも表現しがたいものが部屋を空気を支配した気がした。

 キールは知りもしなかったが、いわゆる『殺気』というものである。


 ただ、その濃度はただの『鍛冶師』が出せるものではなかった。まさしく『戦士』が『敵』に向けるものである。


「人間種ってのは傲慢だ。度し難いほどに傲慢だ。まるで自分達が神にでも選ばれたかのように振舞い、我欲を貪る。自分達の欲を実現させるためなら、他の種族なんて――いや、自分と敵対する奴ならどうなってもいいとばかりに血を欲する。……帝国がいい例だ」

「そ、それは……」


 そこでキールは思い出す。

 自分達、人間種とトールやシルヴィア、セレーナといった亜人種との血塗られた歴史を。


 かつて人間種はこの世界、アルティナにおいては最弱の種族であった。

 だが、魔術技術の飛躍的な発展に伴い、人間種はこの世界アルティナ最強の種族へと躍り出、世界最大の文明を築くに至った。そして文明の発展と共に、一つの考えが人間種の間に広がる。


 それこそが、『人間種至上主義』である。


 この考えは、人間種の中で当時最大の勢力を誇った皇国、『アトランティア皇国』で宗教として昇華する。

 この宗教は、唯一神の啓示を受けたという皇王にして法皇『アルファ・アトランティア』の名を冠し、『アルファ教』と呼ばれ、今現在も人間種の半分以上がこの宗教を信仰している。


 そしてアルファ教において、彼ら亜人種は『穢れた種族』として、当時猛威を振るっていた魔王『オメガ・ライド』の尖兵であると言われ無き烙印を押され、モンスターと一緒くたにされてしまい、弾圧の対象とされた。


 結果的に魔王は、亜人種とともに立ち上った、人間種の青年『勇者シグマ』とその仲間達によって倒され、亜人種たちの汚名を雪ぐことに成功する。

 これによって『アルファ教』の影響力は弱まり、亜人種への弾圧も和らいだものの、一度根付いた亜人種への差別意識を取り除くことは困難であった。


 もとより人間種の亜人種への差別意識は、種族的コンプレックスに起因しており、人間種以上の才覚をもった亜人種を認めることなど、敗北以外の何ものでもなかった。

 だから人間種は、弾圧という手段を『隷属』へと変化させていった。


 ――穢れた種族である亜人種の邪悪なる技術を、世界のために役立てることこそ、我ら人類種が神に与えられた役割である――


 アルファ教はそうのたまうことで、自分達の教義が正しいといい、亜人種の奴隷化を推奨するという暴挙に出るのであった。

 こうして、弾圧から隷属の対象に代わった亜人種は、各地で捕らえられ奴隷として人間種に苦しめられた。


「人間種はあの手この手で、オレたちを隷属させようとした。人質に拷問、陵辱……言うことを聞かなければ、虐殺だ。どちらが穢れた種族かわかったもんじゃねえ」

「で、ですが、リディベル王国は違います! 我が王国の国教は『アルファ・シグマ教』! 亜人種への差別などっ――!?」


 そう、この暴挙に立ち向かう人間種も存在した。


 それこそがアルファ教の穏健派、『アルファ・シグマ教団』である。

 勇者シグマと共に戦ったアルファ教の信者達が立ち上げたこの教団と、亜人種たちが信仰する大地母神『アトライヤ』を主神とした多神教『アース教』に入信した人間種によって、この暴挙はなんとか静まることとなる。


 現在、理由無き亜人種への奴隷化は禁止され、亜人種たちは平和で自由な生活ができるようになった。


「ああ、そうだろう……。この国はオレたち亜人種にとって住みやすい国だ。だが、それは他の人間種の国に比べたらってだけだ。

 にいちゃん、この国に亜人種の貴族がいるかい?」

「あっ!? ――そ、それは……」


 それは、残酷な問いであった。

 答えを言うのは簡単だった。しかし、その答えこそが残酷であった。

 答えが――いなであるからだ。


「…………」

「別に貴族の地位が欲しいわけじゃね。クリスやクリスの親父さんの仕事をみてたら、とてもなりたいとは思わないね。オレは面倒ごとが嫌いでね」

「よく言う。その面倒ごとにはあなたのことも含まれてるでしょ?」

「……そりゃ、セレーナのねえちゃんも一緒じゃねえか」


 セレーナの横槍に、トールも負けじと返す。そのやり取りに、クリスは涼しい顔で肩をすくめる。


「……では、どうしてその人間種の方々に作品を売るのですか?」

「そりゃ、食っていくために決まってんだろ」

「えっ……」


 意地悪と思いつつ、やり返そうと問いを投げかけるキールに、トールはいとも容易く答えを返す。そのみもふたも無い答えに、キールは絶句する。


「オレたちだって、食っていくために必要なことはする。貨幣制度ってのは便利だな。好きなことでも金になるんだったら飯を食っていける。わざわざ食物を育てなくても、金を払えば食い物が手に入る。……そう、金を払えば、なんだって手に入る。必要の無いものでもな。戦場に出ない貴族どもに必要か、オレが作り出した鎧が、剣が」


 そう話すトールは最後の一言に、侮蔑の毒を塗りたくり、キールに放つ。


「にいちゃんは駆け出しみたいだが、商人には違いない。だったらわかるだろ? オレが言ってることが間違ってるかどうか……」

「それは……間違っては……いません。ですが、それがいったい何の関係が? 食べていくためなら、そんなことは関係ないのでは?」

「ああ、確かにそうだ。稼ぐだけだったら、気にする必要はねえ。だけどな、オレの名声はオレ一人のものじゃない。なぜ、こんな偏屈ドワーフの武具を貴族が求める? なぜ、あんたはここに来た?」

「それは……リリア様が……」


 ――英雄、リリア・リディベルが戦場で纏いし鎧、そして剣を目の前のドワーフが作り出したから――


「そう、リリィのお姫様がオレの造った鎧を纏い、オレが叩いた剣を振るっている。ドワーフであるオレを信じて、オレの生み出した武具を信じて、な。

 あのがオレをここまで引き上げてくれた。あの娘が戦場で命を張ってくれなきゃ、《名工・イーヴァルディ》なんか生まれなかったんだよ!

 だからオレは、あのお姫様の名を汚すような仕事は出来ねえんだ。

 あの姫騎士は、国を、民を守りたいっていう、純粋な本心で戦場に立っている。

 ……もう一度、問おう。あんたの本心はなんだ? あんたは何のためにオレに会いに来た?」


 そう問いを投げかけるドワーフの瞳には、様々な感情が荒れ狂う炎のように渦巻いているようであった。


「私は……私は、あの方を……エルルーン様をお慕い――いや、好きなのです。共に居れるのであれば、死ぬまでご一緒したい!!」


 それは、魂からの叫びだった。

 キールは戦士ではない。商人だ。戦場においては無力な存在でしかない。

 また男としても、共にいられる身分にいない。

 だが、それでも愛する彼女の力になりたかった。だから、ここにいるのだ。


「彼女はいずれリリア王女殿下の側下になられる。そうである以上、もっとも危険な戦場へ赴かれる。そうなったとしても、彼女の力を十全に出せる武具があれば、彼女は自らの力で殿下と共にどんな戦場でも帰還されるであろう!!

 その時は《名工・イーヴァルディ》の名声が今以上に高まることでしょう。それでは不服ですか?」

「ほう、ずいぶんとまあ、でかく出たものだな。あんたが惚れた女はそれほどか?」

「ええ、そうです!」


 キールはそう言い切った。彼はそれほどまでにエルルーンを信じていた。


「……ガハハハハッ!! いいだろう、にいちゃん。あんたの言葉を信じよう。造ってやるよ、その女騎士のための最高の武具を」


 真っ直ぐな若者の言葉に、トールは一頻り笑うと、そう宣言するのであった。


「あ、ありがとうございます!」


 トールの確約を取り付けたことに安堵しながら、キールは頭を下げる。

 その二人の姿をセレーナはため息を一つつくのであった。


「まったく、訳わかんないわ。人間嫌いなのか、人間好きなのか」

「――今は人間を信じてみたいそうですよ。クリス様に出会ってから、そう考えるようになったって、お祖父ちゃん言ってました」


 いつの間にか戻ってきていたシルヴィアが、セレーナのぼやきに応える。


「セレーナさんは、どうなんですか?」

「私? そーね。クリスなら、ベッドの中でも安心するかな?」

「えっ!? そ、それはダメです!!」

「……ナニガダメナノカナー、シルヴィアサン?」

「そ、それは……ふ、不潔です!!」

「フフフッ! 冗談よ」


 と、こちらはこちらで仲良くじゃれあっていると、クリスが手をあげた。


「そろそろ、金額の話をしたいのですが……」

「「「「あっ……」」」」




※※※




 その後、クリスとキールの二人で金額の話をおこなったのだが。

 キール、というかソルトレイク男爵側の予算見積もりが甘いことが発覚。

 そのため、トール本人が作成するわけにもいかず、


「オレが監修するから、シルヴィア、お前が造れ」

「ええーーッ!?」


 シルヴィア・《イーヴァルディ》の武具を取引することになるのであった。



とっちらかった感じがありますので、後々修正していきたいと思いますm(__)m

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