唯一の〇〇チートは聖女がお嫌い
思い付きで書いたものです。いろいろツッコミどころあるかもですがよろしくお願いします。
「ごめんなさいっ、本当にごめんなさい...」
黒目黒髪で薔薇色の頬をした可憐な少女が小鳥のような可愛らしい声で何度も謝罪する。それを見て彼女付きのメイドである私は本日15回目となる溜め息をはいた。
私はセノア。今は彼女付きとなっているがそれは一時的なものでいつもは尊敬する主様のもとに仕えるメイドだ。一時的でも主様のもとを離れるなどごめんだったが、その主様に頼まれたのだから断れるはずもなかった。
先ほどからわざとらしく泣く彼女は白いワンピースと額の真ん中に青い宝石がくるようになっているアラビアのお姫様がするようなヘアバンドをしており、彼女の珍しい黒色と相まって神秘的な雰囲気を作り上げている。
彼女は謝りながらも、周りを男達に囲まれどこか嬉しそうな様子を隠せていないが、彼女「アイラ」に夢中な彼らは全く気づかない。...恋は盲目というやつだろうか。
アイラは一ヶ月前に異世界から召喚された聖女だ。数百年に1度大きな干ばつが襲うこの国では異世界から聖女を呼び、その祈りにより雨を降らしてきたという。
しかしアイラは干ばつの話を聞いておおいに同情してみせたわりには、自分に惚れ込んだイケメンたちと楽しく毎日を過ごすばかりで全く祈りを捧げようとはしなかった。そんな祈る兆しのない聖女に焦った重鎮たちに促され、今回やっと村を回り始めたという訳だ。
「いいんだアイラ。気にする必要はない。」
おい。第二王子ともあろうお方が聖女が役目を果たさないのを気にしないでいいと言ったら終わりでしょう。
「アイラさんは一生懸命にやってるじゃないですか!」
こらてめぇ。大司教のくせして自分の祈りじゃ手に負えないつって早々に諦めたくせに何を言ってるんだ。一生懸命祈るだけでいいならお前でも事足りるわ。
「村人たちもアイラが祈ってくれただけで救われたというものだろう。」
ふざけんな。いつもは結果が全てですとか言って恐れられてる鬼畜宰相はお前だと周りの兵士たちが目で訴えているのが見えないのか。
「ううん。雨を降らすこともできない私が悪いのっ!」
再び泣きだした聖女にまた男たちが周りを取り囲む。
はぁ..。なんだこの茶番は。
「...それで、もう祈るのはお辞めになるので?」
ふと、そこだけの世界を作り上げていた彼らの元に1人の男が近づいた。短く切りそろえられた銀髪に透き通った揃いの銀の瞳。男らしく精悍な顔つきで、鍛えられた体は鎧に包まれている。ああ..。今日もなんて素敵なのだろう。
この国の騎士団長グラン=シーヴァル。私のただ唯一の主様だ。
「いいえっ!私が祈ることが力になるなら私は祈り続けます・・・。」
「そうですか。」
うっとりと胸の前で指を組んで見せた聖女はそっけない主様に不満げだが、私からしたらざまあみろの一言に尽きる。ふん!主様を誘惑しようとしたって無駄!ほかのポンコツどもとは違うんですからね!
それに聖女がいくら祈ったところで雨なんて降るわけない。だって・・
「セノア、ちょっといいか。」
「はい!もちろんです主様!」
「・・今は聖女に仕えているのだから主様ではなくグランと呼べ。」
「そんな恐れ多いです主様。」
「はぁ・・、セノア命令だ。」
「かしこまりました。グラン様!はぁ、ため息をついてもある、いえグラン様は素敵です!」
あきれたようにこちらをみるグラン様もまたお美しい。・・聖女がこちらをものすごい形相で睨みつけているが全く気にならない。むしろざまあみろだ。
「セノアその緩んだ顔をどうにかしろ。」
「はっ!申し訳ございません。」
「・・ちょっとこっちにこい。」
そう言うとグラン様はどんどん進んでいく。ま、待って!コンパスが違うんです!もう少しゆっくりでお願いします!
みんなから少し離れた人気のないところでグラン様は立ち止まると真剣な様子でこちらを向いた。ごくり。何かやってしまっただろうか。
「グラン様。わたくし何かしてしまったでしょうか・・?」
「何もしないから問題なんだ。」
「どういう・・」
何もしないことが問題?意味が分からない。
「・・セノア。」
「はいグラン様。」
「お前、なぜ雨を降らせない?」
「へ?」
そんなグラン様が知ってるはず、だって誰にも言ったことないのに、私が・・
「お前は天候を好きなように変えられるだろう。俺が知っていないとでも思ったか?何年俺に仕えていると思っている。」
「8年です・・。っじゃなくて!グラン様ご存じだったのですか・・。」
そう。何を隠そう私は自分の望むように天候を変えることができる。晴れにすることも雪にすることも、もちろん、雨にすることも。
「逆になぜばれていないと思っていたのかが不思議だ。
いつも俺が遠征に行くときは『必ず晴れにしますから!』今年は雪が見てみたいものだと言ったら『大丈夫です!主様がそういうのでしたら明日は雪にします!』と言っていただろう。はじめは何か危ないまじないでもするのかと思っていたが、それにしてもおかしいからな。すぐにわかった。」
「そんなにわかりやすいこと言ってましたか私・・」
馬鹿か。馬鹿なのか。主様の望むようにしようとばかり思っていたから全く気が付かなかった。
ポカーンと間抜けな顔をしている私にグラン様は大きくため息をはいてみせる。
「それで、もう一度聞くがなぜ雨を降らせないんだ。聖女が嫌いか?」
「もちろん嫌いですとも!!
・・でもそれだけではありません。もうすぐ降らせるつもりでした。」
私の力は自分の好きなように天候を操るものというわけではない。いや確かに私が望むのだが、それは誰かのために望む必要がある。いつも私は主様のためにと思って天候を操ってきた。だから今回は聖女の巡礼についていくことで、雨を望む人たちを実際に見る必要があった。
そしてその人たちのために雨を降らせようと思うことで初めて、雨を降らせることができるのだ。
「本当です、主様。私みんなが困っているのに私情だけでそんなことしません・・。」
「大丈夫だ。分かっている。俺の聞き方が悪かった。俺はセノアがそんなことをするやつだなんて思っていない。」
「主様・・。」
ぐす、主様の言葉が嬉しくて涙がでてきた。そんな情けない私に主様は優しく涙をぬぐって頬を撫でてくれる。うう、素敵すぎます。
「でもそこまではっきりと聖女を嫌いというのはまずいからな。」
「分かっています。いくら主様にべたべたして腹が立っても、主様付きのメイドとして行動に移したりなんかしません。」
「・・ちょっと待て。お前が聖女を嫌ってたのは俺が原因だっかのか?」
「もちろんです。」
ボソ・・嫉妬か。かわいいな。
「主様?」
「いや、なんでもない。・・いい子だから雨を降らせてくれ。そして早く俺のそばに戻ってこい。」
ちゅ。主様が優しく目じりに口づけをくれる。主様もこんなに私を望んでくださるなんて・・!
「分かりました!主様!早くおそばに帰れるよう頑張ります!」
「ああ。」
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「あれでまだ恋人同士じゃないのよ?信じられる?あの子と一緒に仕え始めてから見てるけど、あの二人屋敷でもあんな感じなんだから。」
「・・それはご愁傷様だな。俺には恋人同士がいちゃついているようにしか見えん。」
「まったく・・。」
わたくしセノアは世界で一番主様が大好きな唯一の天候チートです!
(終)
一応これで終わりです笑
続きかくかも・・?