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竜とお姫様  作者: 大玉 由美
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フィナーレ

波留国特殊部隊の対人部隊解散。

アリスとシズの旅立った日、その大ニュースは瞬く間に国中を駆けめぐった。

国を守る伝統ある特殊部隊の解散に国中が驚き、不安に駆られた。

国内の治安が悪化して行く中、シズからの電話を受け、緊急会議が開かれる事となった。

「対人部隊解散について那柘国からの謝罪と部隊解散撤回の案が出た。暁国と芙由国からも解散撤回を求める書状が鳥人による速達で先程届いた所だ」

王の言葉に貴族達は顔を見合わせた。

「まだ解散して10日程。国の治安は水面下に悪化しています」

レイは疲れた顔で述べる。

「窃盗、略奪…まだ小さなものばかりですがかつて対人部隊が対応していた犯罪が日増しに増えています。我が兵士達は統率された軍隊ですが個々の能力は万端ではなく、その捕獲に多々苦労をしております」

貴族達は頷く。兵士にそこまでは求められない。

貴族の最年少、ウィルが挙手する。

「私は対人部隊解散撤回に賛成です。ただし対人部隊も対モンスター部隊同様に公的な部隊として皆の前に姿を見せて頂きたい。それならここに居る皆が納得するでしょう」

王は眉を寄せる。

「顔が知られないように今まで暗躍していた者達が顔を見せたら平時でも命を狙われる事にならないだろうか…」

レイも考え込む。

「私は彼らを知っている者だが、確かに彼らは強い。彼等が公に顔を出せば不遜の輩への圧力も期待出来るかも…」

「昔は対人部隊も堂々と顔を見せていた。そして英雄と呼ばれるまでになっていた。活躍が認められないのは仕事をする彼等にとってもやりがいが無いかもしれませんしね」

ウィルはそう言って座る。貴族達も顔を見合わせ頷く。

彼等は正体不明の驚異に怯えていたのだ。

「…どうする?此処にはクラッドもメグも同席していない。一度彼等から意見を聞いた上で承認した方が…」

王がレイに耳打ちする。レイは頷く。

「分かった。対人部隊解散撤回は彼等が公に姿を見せる事を条件とする。彼等の意見を聞いた上で承諾が降り次第告知するようにしてよいか?」

貴族達は頷いた。






「……メグさんゴメン…」

柔らかな光に目を細め、セイは息を吐く様なか細い声でメグに声を掛ける。

セイが傭兵相手に深手を負って運ばれたのは昨日の事。腹部を深く切られて大量出血で意識を失ったセイが目を覚ましたのは今朝になってからだった。

心配そうに見守っていたクラッドやハナもつい先程帰り、今部屋の中は治癒の魔法を続けているメグとセイの2人。

ここはこの間訪問したばかりのメグの部屋。

「俺、つい油断して……」

メグは微笑む。

「気にされる事はありませんよ、セイ殿…」

セイの顔色は悪い。時々苦痛に顔を歪めている。

「…貴方もしばらく休養を取った方が良いのかもしれませんね…。最近休み無しで働いていたのでしょう?」

「だって……俺が出なきゃ誰も居ないんだ…」

シズの居ない今、セイは今まで対人部隊が取り持っていた仕事を1人でこなしていたのだ。

疲労が溜まるのも無理はない。

「せめて対人部隊解散の公な発表が無ければこんなに激務になることも無かったのでしょうが…」

「……」

セイは目を閉じる。規則的な寝息にメグは小さく微笑んだ。

セイの傷は数日したら完全に塞がるだろう。しかし疲労が溜まっている。まだ前線に復帰するのには時間が掛かりそうだった。

扉を叩くノックの音にメグは返事をした。

「忙しい所済まないな、メグ殿」

レイ兵士長とクラッドが入ってくる。メグはセイの傷の治癒の手を休める事無く頷いた。

レイは先程の会議で決定した事を手短に2人に伝えた。

「対人部隊が公に姿を見せる事はやっぱセイとシズの意見を聞かねえと何とも言えねえな」

クラッドは腕を組んで答える。メグも頷く。

「そうだろうな。じゃあ2人に承認を取ろう。一刻も早く対人解散撤回を提示しないと犯罪は増えるばかりだからな」

「しかし…まだシズも戻らないしセイも重傷だ。部隊の中身は空っぽじゃねえか」

眠っているセイを見遣りクラッドは呟く。

「取りあえずはシズが戻ってくるから彼が戻り次第セイ殿も顔見せだけは可能だろう。まずは承認を取ろう」

レイの言葉にクラッドとメグは顔を見合わせた。

「シズ殿は国に戻られるのですか?」

初耳の情報にメグは驚きの声を上げる。レイは頷く。

「ああ。昨日那柘国に居るシズから連絡があってな。セイ殿がこの状態だし彼も渋々帰る気になったようだ」

「マジかよ!それを早く言えよ兵士長!シズが居りゃ敵無しだ」

「アリスは…大丈夫でしょうか……」

安堵するクラッドと対照的に心配そうなメグにレイは微笑む。

「メグ殿が気に止む事はありませんよ。妹の強さは私が良く知っています」

「精神的な問題ですよ兵士長殿。遠き地で女1人がどれほど心細いか……」

唇を噛むメグにレイは閉口する。アリスはしっかりしているから心配無いとは思うが確かに不安は大きいだろう。

「……そうですね。メグ殿の言う通りです」

レイはうなだれる。メグは首を横に振る。

「いえ、今の我が国にシズ殿が必要なのも確かな事実。セイ殿が回復されるまではシズ殿の助力は不可欠でしょう」

レイは頷く。

「シズにはセイ殿が回復されるまでの滞在をお願いしようと思います」

レイは深々とメグに頭を下げる。

「ん~…ま、取りあえずシズにさっきの件聞いてみらあ」

ちょっと重い空気にクラッドが朗らかな声を張り上げてシズの携帯に電話した。

「ん?現在電波の届かない場所に……。あいつ一体どこいるんだ?」

レイとメグは顔を見合わせる。

「そういや……忘れていたがシズは極端な方向音痴……」

3人は真っ青になって言葉を無くした。






「……ただいま」

奇跡が起こった。

シズが迷わず国に帰って来たのだ。クラッドは驚いてシズに駆け寄る。

シズは変わらない静かな表情でクラッドに向かい合った。

「携帯繋がらねーからどこ彷徨ってるのかと思ってた!!良く帰ってきたなシズ!」

肩をバンバン叩くクラッドに眉根を寄せながらシズは無言で自分の携帯を差し出す。

「電話の後落として壊した。修理頼む」

「あー…何だ。携帯壊れてただけか」

クラッドは頭を掻きながら携帯を修理に持って行った。

「シズ。待ちわびたぞ!」

シズが顔を上げるとレイが微笑みながら階段を下りてくる所だった。

「ご無沙汰しています。ただ今到着致しました」

「迷わなかったんだな」

「波留国まで那柘国の兵士が道案内をしてくれましたから」

「普通自分の母国に帰るのに道案内なんかいらないぞシズー?まあいい。取りあえず王の元へ…」

シズはレイの後ろに付いてから王の待つ謁見の間に入って行った。






「おい聞いたか?特殊部隊が国民の前に顔出すんだってさ!」

「そりゃあ大ニュースだ!!」

1ヶ月後、国の定例の式典には国内外から大勢の人が集まった。彼等の目的は今まで神秘のヴェールに包まれていた特殊部隊の対人部隊の素顔を見る事だ。国民に姿を見せる事で対人部隊は正式に国の特殊部隊として復活する

事になる。今後は余程の事が無い限り殺しの仕事は無くなるとの事だ。

「対人部隊が解散と聞いて一時荒れてたけど影で動いてくれてたらしいぞ。何でも男2人組だとか…」

「ああ。俺も影だけ見た。恐ろしく息が合って腕の立つ2人だったぜ」

人々が噂する。

「……男2人組って…シズさんと兵士長だよな…?」

セイの問いにクラッドは頷く。セイが動けない間レイがシズと共に暗躍したらしい。

「…ちぇ、俺要らねーじゃん」

鼻を鳴らすセイにクラッドは笑う。

「嬢ちゃんから聞いた話だと兵士長はただ居るだけで実際はシズ任せだったらしいぜ?」

「へーえ。やっぱ30過ぎると…」

「何か言ったかい?ピチピチ10代のセイ殿?」

背後からレイの声が飛ぶ。セイは慌てて自分の席に深く座り直す。傷は1ヶ月の間に完治した。初めの数日メグの治癒の魔法を受けていたのが良かったらしい。殆ど跡も残らず後遺症も無く動ける様になった。

「それにしても……こんな制服あるなんて初耳だったな」

慣れない大振りの椅子に腰掛け、軍服では無いがそれに似た特殊部隊の制服を眺めセイは呟く。黒の上質な布地に金糸が縫い込んであるスマートなデザインでセイは対人部隊になって初めてこの服に袖を通した。

「普段の任務も式典の時もいつも私服だったのにな。そういやハナ達は式典の時こんな制服着てたっけ…」

いつも式典は警護の為式自体は良く見ていなかったが対モンスター部隊の3人は今のセイの服に似た様な黒い制服に身を包んでいた気がする。

「キョロキョロすんな、セイ」

右隣のクラッドは既に襟を大きく開け、袖を巻くって動き易そうに着崩している。左のシズはあつらえた様に漆黒の制服が良く似合っている。クラッドの話から推測すると多大な仕事量のはずなのに疲れは微塵も感じさせない。

シズはこの式典の後、すぐに旅立つ事になっている。

芙由国入りしたアリスと合流するらしい。

アリスはハナやシズとメールを交わしているがどんな内容なのか良く分からない。しかしシズは暇になるとぼんやりと北を眺めて佇む姿が良く見られた。きっと、アリスの事を考えているのだろう。

シズが旅立つ。すなわちセイが対人部隊に正式に復活する事を意味する。

この1ヶ月の間、セイはクラッドとの連携プレーの鍛練に励み何とか形になった。

対人部隊復活が公になれば犯罪の数も減るに違いない。

セイは自分に合うサイズが無くて少々ぶかぶかな制服を見ながら思った。

この制服が自分にぴったり合うようになるまでにはシズとまた一緒に組んで仕事が出来れば良いな、と。






式典も大詰めとなった。メグの祈りが終わり後は王の言葉を残すのみとなった。

「皆が本日ここに集まった大きな理由の一つは分かっておる。特殊部隊の対人部隊の件だろう。今まで姿を現さなかったのは彼等が危険な任務に当たっており命の危険に晒される恐れがあったからだ。しかし姿を見せない事が皆の不信感に繋がるのも事実。本日万を期して彼等を私から紹介する」

王の言葉に国民の間から歓声が沸き起こる。歓声の大きさに会場が震えるようだった。

「だ、大丈夫なの!?こんな大人数の中で顔出して狙撃でもされたらヤバイって!!」

歓声に負けないように大声でハナがメグに叫ぶ。メグは頷く。

「大丈夫です」

メグは穏やかに微笑んだ。

「では国を影ながら支える特殊部隊の中の3人の対人部隊を紹介する」

王の言葉に会場は水を打ったようにしんと静まった。

「クラッド=ハーレイ」

王の隣に出てきたクラッドが深々と頭を下げる。

「クラッドが対人部隊って話は本当だったのか?ホラ吹きだとばかり思ってたが…」

酒場の顔馴染み達が顔を見合わせる。唯一顔の割れている対人部隊だが普段の適当ぶりにホラ話だとまともに受け止めていなかったも者達も多く、驚きの表情でクラッドを見つめていた。

「クラッドは対人部隊歴3年。彼を知っている者は多いと思う。気の良い男だ」

クラッドは顔を上げ、国民を見回した後、もう一度頭を下げて引っ込む。

「次に……セイ=スタイレット」

「うわ、来た…」

セイは肩を縮める。

「おら、しゃんとしろ!若者!」

クラッドがバシッとセイを突き飛ばす、ムッとしてセイが振り返るとクラッドと一緒にシズも微笑んでいた。

「…ウス。行ってきます」

セイは制服の上衣を締め直して立ち上がった。

「……子供!?」

「子供じゃないか…」

王の隣に立ったセイに会場内はどよめきが起こった。

「静粛に。セイは15歳だがその類い希なる腕を買われて1年前に対人部隊入りした正式な隊員である」

セイは国民の驚きと羨望の眼差しを一身に受けた後、一礼して引っ込んだ。

「う、わー!めちゃめちゃ気分良かった!もうサイコー!!」

顔を紅潮させてはしゃぐセイにクラッドは苦笑する。

「ガキ…」

「何とでも言え!」

シズはチラリと隣に控えるレイに目を向ける。レイは頷く。

国民が静まるのを待って王は言葉を続ける。

「対人部隊リーダー、シズ=ミル」

王の隣にシズが立って頭を下げる。顔を上げたシズに会場内が一瞬静まった後、どよめきと黄色い声が上がった。

「ちょっと!かなりいけてるってあの人!!」

「こりゃまたえらい男前が出てきたな…役者じゃねえだろうなあ…」

驚く程整った顔の造りのシズに皆はあっけに取られて食い入る様に見つめている。

「シズは対人部隊歴5年。兵士長とも懇意の仲で頼りになる人物だ」

シズは呆けた国民を見回す。その中にキラリと光るモノを見付ける。

「ボウガンだ!」

シズの声と同時にボウガンの矢がシズ目掛けて」発射された。シズは避けない。

彼の前に厚い鉄壁が立ちはだかったからだ。

矢は盾に弾かれ落ちていった。

「対人部隊への嫌がらせや恨みによる闇討ちは一切禁止だ!彼等の身辺の警護はしばらく我ら兵士が執り行う。今後この様な自体が起こった場合は厳重に処罰する!!」

兵士達の掲げた盾を取り除き、シズの隣にレイが立って叫ぶ。絵になる2人に人々は溜息をついた。

その後シズは早々に引っ込んだ。

「シズ、怪我は?」

クラッドの問いにシズは首を横に振る。

「狙撃されるって分かってたんですか?」

呆れた様なセイにシズは頷く。

「…まあ、多分来るかなーとは思ってたな」

余裕綽々のシズのセイは身震いする。

「これからは俺が狙われるのかなあ……」

「大丈夫。今後は昼夜風呂の中トイレの中布団の中まで兵士さんと一緒だそうだ。安心しろ」

「やですよそんなん!!」

にこやかなシズにセイは青ざめて叫んだ。






式典の翌日、シズは予定通り旅立つ事になった。

特殊部隊が見送る中、シズは済まなそうに微笑む。

「ご迷惑をお掛けします」

「アリスの事を守って下さい。貴方になら任せられる…」

メグは首を横に振って答える。クラッドも頷く。

「セイ、ごめんな…」

「またシズさんと組める日が来るのを待ってる」

微笑んで答えるセイにシズは頷く。

「シズ様…アリスからのメールは私には元気にしているように見えるんだけどそれって本当?…」

心配そうなハナにシズは穏やかに頷く。

「アリスは元気だよ。ハナは何も心配しないで良い」

旅立って行ったシズを見送りハナは俯く。

「元気なら……そんなに慌てて出て行かないよシズ様…」

きっとアリスは不安で一杯で、きっとシズにだけは本音を打ち明けてるんだろう。

ハナには心配掛けない様に元気な振りして。

アリスが旅立ってから約2ヶ月。そのうち1人だった時間は約1ヶ月半。

長い時間だ。

芙由国ででアリスは今何を考えているんだろう。

毎日携帯を眺めて不安そうに眉根を寄せて居たシズ。

2人の間にハナが割り込む隙は無い。ハナは此処で2人の帰りを待つしか出来ない。

だから2人の不在時は仕事をしっかりこなし、帰ってきたら精一杯の笑顔で迎えてあげる。

それが今のハナに出来る唯一の仕事だ。

「私頑張るから…」

ハナは胸を張って空を仰いだ。







それから2年の月日が流れた。

「お勤めご苦労様です、スタイレット殿!」

「セイで良いって…。じゃあ始める」

兵士の訓練所で剣の指南を務めるのは今年17になった若き対人部隊隊員、セイ。

クラッドとセイは任務の傍ら兵士の鍛練にも積極的に取り組んでいた。

自己流のクラッドの剣技に対してシズからみっちり基礎を叩き込まれているセイの剣は兵士の間にも評判が高く、最近は遠く那柘国からもセイの剣を習いに研修生が通う程である。訓練場はいつも大入り満員。

兵士の腕も格段に上がり、対人部隊の任務に協力を仰ぐ事もしばしばだった。

鍛えれば頭角を現す若い人材にセイは日々驚かされていた。

「セイの師匠の対人部隊のシズさんはまだ戻らねーの?」

気の合う若い兵士達と今日も食事を取っていたセイは頷く。

「俺は式典で初めて見たけど…マジ美形だったよなあ」

その時発足されたシズのファンクラブは今でも健在らしい。セイは苦笑する。

「うん。俺も初めて見た時ビックリした。あー…また一緒に組める日が待ち遠しいぜ」

今では城の中での着用を義務付けられている黒衣の制服は今やセイの体にピッタリと収まっていた。

「いつも思うけどセイの制服良いよな。対モンスター部隊とお揃だし…なあ、マルモのハナ今度紹介しろよ」

「やだよ」

ハナは最近はアイドル生活にも終止符を打って任務に専念している。アリスが居らずメグの出られない状態で彼女の力は波留国にとって無くてはならない貴重な魔法の戦力だった。今や大勢の兵士に守られた敷居高い存在になっているハナには最近セイも会う機会が無い。

以前の様な合同任務が懐かしい。あんまり参加していなかったが、もっと和気藹々としていた様な気がする。

「昔はハナもシズさんもオヤジもアリスも居て…皆で深琴姫を連れ戻すなんてふざけた任務に真剣に取くんで…」

セイがしみじみと語る。

「そういや深琴姫は家出したまま未だ国に戻って来ないな」

深琴姫が幼馴染みの少年を捜して国を出て早数ヶ月。王も深琴姫の好きにさせている。

噂では親子の縁も切っているとかいないとか。

「王が深琴姫を捜さないのはやっぱメグさんと関係があるのかな」

王の愛した精霊とメグの母である精霊が実は同じ精霊だった事が最近判明したのだ。

深琴姫とメグは異父姉妹。王はメグを養子に迎えたいと思っているらしい。

「メグさんが将来女王になるのは賛成だな。今でも国一番の人気者だしなー」

兵士は欠伸をしながら呟いた。






「セイ」

呼ばれて振り返るとハナが手を振って駆けてきた。セイの前まで来たハナは後ずさってセイを見上げる。

「げ!あんたまた背伸びたんじゃない?」

「成長期なもんで」

「はー…背なんかね、伸びりゃ良いってもんじゃないのよ?肝心なのは中身よ中身!」

変わらない気さくなハナにセイは笑う。

ハナはむっとする。

「何ー?何か私変な事言った?」

「や、全っ然変わらないなーとか思って」

「はあ?何言ってんの。馬鹿じゃない?」

20歳になったハナは長くなったフワフワの明るいオレンジの髪をなびかせ首を傾げる。2年前はセイと同じくらいだった身長も今やセイがゆうに追い越してしまった。対モンスター部隊の黒の制服に映える白い肌、大きな瞳。ハナはこの2年で綺麗になっていた。

「最近お前敷居高かったからさ。お高く止まってるんじゃねーかと心配してたんだ」

ハナは腕を組んで溜息をつく。

「勝手に兵士長が兵士をどっさり同行させるのよね~。あの心配性ぶりにはうんざりだ」

「言えてる」

クスクス笑うセイにハナは踊り場の手すりにもたれ掛かる。

「最近どうなの。刺客に狙われる事ある?」

「いや、全然」

いたって平和な毎日だ。

「ふーん。じゃあ2年前の決断はやっぱり良かったんだね。対人部隊が顔を見せるって事」

「そうだな。そのおかげでこうして兵士の友達も出来たし堂々と国を歩ける」

ハナは頷く。

「うんうん。セイもいい男に育ったしね。彼女とか出来た?」

「……聞くかな。そーゆー事」

「んー?興味あるし?」

「へえー…」

セイはハナの腕を取って抱き締める。

「未だに返事くれないくせに」

ハナはセイの腕の中で笑う。

「考え中なんだってば」

「ちぇー…」

セイは抱擁を解く。

「早く帰って来ねえかなシズさん…」

未だに初恋が忘れられないハナにセイは肩を竦めた。






「帰ってきた……!」

目深に被ったフードを上げ、見上げるとザラサラと零れ落ちてくる砂。

目の前には夢にまで見た波留国の城壁。

足取りが途端に早くなる。

「帰って来ましたよシズさーん!!」

振り返って後ろを歩いていたシズに突進し、抱きつく。

「アリス!重!!」

「2人分ですからね~v」

何とかアリスを抱き止めたシズはそのままそっと地面に降ろす。

「大事な体なんだから…もっと気を配らないと」

アリスは微笑んで頷いた。






「王!特殊部隊のアリス様とシズ様が戻られました!!」

謁見の間に転がり込む様に駆けつけた門番に王は椅子から立ち上がった。

「何と!すぐに此処に!特殊部隊にも連絡をせい!」

レイは深々と頭を下げて退室した。入れ替わる様にアリスとシズが入って来る。王は頷く。

「よくぞ戻った!堅苦しい挨拶は抜きだ。皆が揃い次第簡単に挨拶をするが良い。今夜は疲れとるだろうし詳しい話はまた明日にでも構わんぞ」

「ありがとうございます王。そうして頂けると助かります」

2人は畏まる。

扉の外からざわめきが聞こえてきた。

「アリス……本当にアリスなの…?」

扉を開けて顔を出したハナは一度瞬きをして問う。アリスが頷くとハナは走ってアリスに抱きついた。

「うっわ!シズさん超久しぶりー!つーか変わってねえー!」

「相変わらず細っこいなあオイ!?」

セイとクラッドがシズに抱きつく。シズは嫌そうに払いのけている。

扉の傍に立っていたメグは隣に居たレイと顔を見合わせて微笑んだ。






翌日、たっぷりの睡眠で旅の疲れを癒したアリスは黒の特殊部隊の制服に身を包んで皆の前に姿を現した。

「ねえアリス。集まるのはここじゃなくてメグの部屋が良かったんじゃない?」

戸惑うハナにアリスは微笑む。

「ううん。ここで良い。浄化の魔法は広い場所じゃないと出来ないから」

アリスは透明で自ら光を放つ不思議な素材の造形美しい杖を取り出し空中に印を結んだ。そして目を閉じて呪文の詠唱に入る。

そこに、同じく黒の制服を見に着けたシズに連れられてメグが現れる。ハナ、セイ、クラッド、レイ、王の見守る中、メグは空中に描かれた印の中心部に歩む。メグが光に包まれる。

『……捻れた精霊の力よ…正しい道に戻りてその存在を現せ…』

唱うようなアリスの声に乗ってメグの体から立ち上る幾多もの光の筋。アリスは頷く。

『彼女に害成すモノは散れ。共に進むモノは正しき道に戻れ…』

光が無散する。景色がホワイトアウトした。

「……」

少しづつ光が弱まって皆目を開けた。アリスの杖が薄く光を放っている。

「メグ、調子はどう?」

アリスの声に目を開けたメグは大きく深呼吸をし、周囲を見渡した。

「……大丈夫。全然辛くない」

「…浄化の魔法なんて初めて見た…。もしかしてメグの体質が治ったの!?」

アリスは頷く。ハナは目を見開く。

「ただ、今まで体に収容出来ない程の精霊の力を持っていたメグの魔法の力は浄化によりハナ程の力に半減すると思われます。しかし今後は普通に生活出来るはずです」

メグは頷く。

「ありがとう…アリス…本当にありがとう!!」

メグはアリスに抱きつき肩を震わせる。長き間の自然の軟禁状態がやっと解放された瞬間だった。

「すっげー……マジでアリスパワーアップしてんじゃん…?」

「セイはいっつもアリスを小馬鹿にしてたからなあ?」

「いやもうアリス様様だね。マジすげえよ…」

瞬きもせず見守っていたセイが感嘆の声を上げる。クラッドは調子の良いセイを小突く。

「精霊の血には本当に恐れ入る。人知を超えて偉大だ」

レイと王も頷いた。






アリスとシズの特殊部隊復帰、そしてメグの体質改善には国民が湧いた。

国が活気づき、治安も安定してきた。

空いた時間を利用しての兵士達の実技訓練はシズが加わる事でますますレベルが上がっていった。

「シズさん、久々に手合わせしません?」

そんな中、セイがシズの声を掛けてきた。シズは頷く。それは対人部隊同士の手合いに国中の手漉きの兵士達が集まって見物に来る騒ぎとなった。

「…何か大事になっちまったな…」

剣状の棒を構えてセイは舌打ちする。シズは相変わらず棒を弄んでいる。

「良いっスか?」

シズが頷くとセイは棒を低く構えて足を蹴った。

2人の姿が消える。

「……ど、どこだ?」

姿が見えないくらい早いとは言うけど、本当に目で追えないくらい2人の攻防は凄まじい。一瞬現れては消え、また足音だけ残して消える。

「これが対人部隊の力……」

兵士が唾をゴクリと飲み込む。到底適う相手じゃない。

時に棒のぶつかる軽い音と地面を蹴る音だけが聞こえる。兵士達は無言でその様を見つめていた。

空気が止まった。

セイは自分の喉元に突き出された棒を見、動きを止める。

額に汗しているセイに対し、シズは変わらず涼しい顔で佇んでいた。

「……やっぱりまだまだですね…参りました」

小さく息を吐いてセイは降参する。

「この2年、兵士長とかに鍛えてもらったけどシズさんまた腕上げてるしなあ…ちぇー」

ぼやくセイにシズは微笑む。

「僕もまだまだ鍛練が必要だよ」

「「「や!お二方共充分強いですって!!」」」

兵士達はブンブン顔を横に振って一斉に否定した。

「シズ様ーvセイー!見てたよ!凄かったねー!」

上から声が聞こえてきた。顔を上げると訓練場の2階の窓から対モンスター部隊の3人が手を振っていた。

「あ!ハナちゃんvv」

「メグさんとアリスさんまで!!うわ、マジ可愛い!!」

兵士達はわっと歓声を上げてセイとシズを押しのけて窓に駆け寄る。

「メグさーん!今度一緒の任務入ってるみたいです。あ、俺2番部隊の者なんスけどっ…」

「ハナちゃん!もうアイドルに戻ってくれないの?俺すっげーファンだったんだよー?」

「アリスさーん!いつも訓練所で頑張ってる姿に俺、心惹かれました!是非真剣にお付き合いをっ…!!」

怒濤の様に押し寄せてきた兵士達に3人は驚く。

「ま、またね~…」

そそくさと退散していくハナ達に兵士達はガックリと落胆する。

「同じ任務でも無い限り高嶺の花だもんな~…」

「良いなあ…対人部隊…」

一斉に溜息をつく兵士達にシズとセイは目を丸くする。

「…対モンスター部隊ってもしやすごい人気…?」

「みたいっスね…」






「メグ、普通に生活してみてどう?」

ハナに話しかけられメグは頬を紅潮させる。

「感激。世界が変わった気がします」

「アリスは久々の波留国はどう?」

アリスは大きく頷く。

「対人部隊と兵士達の関係も上手く行っている様で安心した。治安も良くなってるみたいだし、良い方向に向かってるみたいね」

ピピピ…。

メグの真新しい携帯が鳴る。今まで携帯を持つ必要の無かったメグも普通に任務を行うに際し、暁国から最新機種の携帯を取り寄せていた。ハナが羨ましそうに見遣る。

「まだ使い方に慣れなくて……あ、任務だ」

なんとかメールを見たメグは携帯を仕舞う。

「じゃあ2人とも、またね」

颯爽と歩いていくメグを見送りハナとアリスは城内にある休憩所に立ち寄った。

「…やっぱシズ様格好良かったなあ…v」

椅子に座ったハナは先程のシズとセイの対決を思い出す。初恋はなかなか忘れられないものだ。

「シズさんは元々芙由国の特殊部隊に居たんだって。向こうに知り合いが沢山居たの」

「へ、芙由の人だったの?そりゃセイも勝てない訳だ…」

ハナはふとアリスの言葉に引っかかりを感じる。

「あれ、アリスはいつからシズ様をさん付けで呼ぶ様になったの?」

「え?あ…いつからだろう」

首を傾げるアリスはふと、動きを止める。

「…?どうしたの?」

口元を押さえて真っ青になったアリスはそのまま休憩所を飛び出した。

「アリス!」

ちょうど休憩所に立ちよろうとしていたシズとセイがハナの声を聞きつける。

「どうした?ハナ」

声を掛けたシズにハナは外を指差す。

「アリスが急に気分悪そうに出ていって…」

シズは頷き、アリスを追って走って行った。ハナとセイも後に続いた。






「あー、苦しかった……」

シズに付き添われながら顔色の悪いアリスが洗面所から出て来た。

「アリス…大丈夫?」

心配そうに声を掛けるハナにアリスは頷く。

「安定期でもたまに辛くて…」

見慣れぬ言葉にハナとセイが顔を見合わせる。

「安定期って……まさか…」

アリスは頷く。

「あれ、言ってなかったかな。妊娠中だって」

「はあ!?聞いてないよ!!一体誰の子!?」

ハナが仰天する。セイも凍りつく。

「へ?誰の子って…」

「アリス、部屋に行こう」

シズが慣れた仕草でアリスを抱き抱える。

「え、え、ちょ…え?アリス…」

「まさか相手は…」

混乱するハナとセイにアリスは微笑んで頷く。

「うん。この人が旦那さん」

「………!!!」

言葉も無くあんぐり口を開けるハナとセイに手を振りながらアリスはシズに抱えられて自室に戻った。



「君はいつも無茶ばかりする」

アリスをベッドに寝かせてシズは小さく息を吐く。

「別に横にならなくても…」

「今日は寝てて」

アリスは観念して横になって布団を顔まで上げる。

「シズさんは過保護過ぎですよー?」

「そうかなあ…」

シズは立ち上がって水差しの水をコップに注ぐ。

「何か最近のシズさんは兄に似てきましたね」

「……まあ、元々気分は兄の様なものだったけど…」

コップを受け取り、アリスは口を付ける。

「…でも、大事に想われる事はすごく嬉しいです」

アリスは幸せそうに微笑む。

「今後は私がシズさんをサポートしていきますから」

シズは微笑む。

「…期待しとく。その前にまず君は産休申請をしてくれ」

「えー?まだまだ大丈夫ですって。お腹も目立たないし…」

シズは首を横に振る。

「君はそれでなくても精霊の件や芙由から波留までの長旅で体に負担を掛けてるんだ。母も君がもう少し芙由国に留まるのを望んでいたし…」

アリスの脳裏に芙由国で会ったシズの実の両親が思い出される。自分の両親と懇意であった2人はアリスを歓迎した。シズは捨てられたのではなくテイラー家に養子代わりに引き取られていたのである。

「芙由国に居たら、すっかり甘えて波留国に帰りたくなくなりそうな気がしたんです」

アリスは静かに呟く。

「何も出来ない役立たずな私なりに一生懸命努力をしてきた波留国での22年間が否定された気がして。昔の自分を認めてくれるのは自分だけだから…昔の自分があってこその今の自分だと思っていますから」

アリスは息をはく。

「私の居場所は此処なんです。此処に居る事なんです」

シズは頷く。

「うん。でも僕は君も子供も心配だからやっぱり休んでほしい」

アリスは頭を抱える。

「…シズさん人の話聞いてませんね?」







1年の月日が流れた。

「アリス=テイラー、今日から対モンスター部隊復帰致します!」

高々と宣言したアリスに王は頷く。

「ではアリス…復帰早々申し訳ないが早速任務を与える」

「はい」

髪に白い物の混じり始めた王が大きく溜息を吐く。

「うちの馬鹿娘がまた育児ノイローゼで城を飛び出したんだ…連れ戻してほしい…」

「……」

アリスも溜息を吐いた。



「何で今になってまーた深琴姫捜索な訳?」

ハナが憤慨する。

「数年ぶりに帰ってきたと思ったら既に子持ちで、子育てはしないわヒスるわで五月蠅いったらありゃしない!アリスのとこの祈ちゃんはすっごく聞き分けが良いのにあの親にしてあの子有りって感じで子供も五月蠅いよね!」

既に王と縁を切られた深琴だったが、やっと見付けた幼なじみと結婚した後に性格の不一致や何やらで早々に離婚してしまった。取りあえず子供を伴って城に帰ったは良いが、子育ては放棄していた。

アリスの子供の祈と同い年との事で、子育て放棄の深琴に代わって今までアリスが面倒を見ていたのである。

「…そういえば最近深琴姫がシズさんに妙にアプローチしてるんだけど…」

仕事の合間に2人の子供の面倒を見てくれるシズに頬を染めながら近づく深琴を思い出しアリスは溜息をつく。

穏やかに子供達を慈しむシズに深琴もすっかり夢中らしい。

「……馬鹿過ぎる…」

ハナはウンザリした顔で呟いた。



「…深琴姫発見」

城下町の片隅に隠れていた所をシズが発見して皆に通達する。

「深琴姫、お子さんがお待ちですよ」

深琴はシズに駆け寄ってその手をむんずと掴む。

「ええ…私、貴方と一緒なら…」

「みーこーとーひーめー?」

底冷えする声に深琴がさっと振り返る。ハナの仁王立ちに深琴は青ざめる。

「こ、怖い…助けて…シズ様っ…!」

シズは深琴を無視してアリスに駆け寄る。

「仕事に復帰したの?」

アリスはこっくり頷く。

「シズさんの所為で1年もお休み取らされましたからねー。退屈でしたよ」

シズはアリスをギュッと抱き締める。

「やっぱり君と一緒に仕事が出来るのは嬉しい……愛してる、アリス」

「はいはい」

言われ慣れてるのかアリスは冷静だ。ハナはいちゃつく2人を放って放心している深琴に微笑む。

「姫?いい加減旦那とヨリ戻せば?連日城に通って来ているらしいじゃない?」

深琴は膨れる。

「だって…結婚した途端太りだして今じゃただのオヤジなんだもん!あんなのもー嫌!」

「だからって人の旦那にちょっかい出すのは止めなさい!」

ハナに引きずられて深琴はジタバタしながら城に連れ戻された。






「この子が生まれたら祈ちゃんとは従兄弟になるわね」

メグは大きなお腹をさすりながら呟く。

「今日兄は仕事ですか?」

アリスにメグは頷く。

「ええ、でもいつもは片時も離れず私じゃなくって子供に話し掛けてるのよ…失礼しちゃう…」

アリスの兄、レイとメグは以前から付き合っていたが晴れてこの度結婚する事になった。

「シズ殿は優しくして下さる?」

アリスは頷く。

「はい。そりゃもううんざりするくらい…」

「フフ…ハナが言ってた。『いっつも新婚の様にアツくて嫌になる』って。今アリスは幸せ?」

「……はい」

力強く頷いたアリスにメグは大きく頷く。

「……良かった」

噛み締めるように呟かれたその言葉にメグの様々な想いが詰まっているようだった。

「本当に、良かった」

唱うように、紡がれた言葉にアリスはもう一度大きく頷いた。






終わり

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