翌日
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翌日。台風も通り過ぎ、昨日とはうって変わっての好天の朝。小陽は現在の自分の部屋を出る。
すると、昨日あったバリケードがそこにはない。
この世界では超自然的な何かの働きで消滅したという事は、彼女にとって極めて些末な事だった。今ここにバリケードが存在しないという事こそが小陽の心を駆り立てる。
勢い良くアルヴァの――かつては小陽の――部屋のドアを開け放った。
「おはよイタッ」
バリケードを張る前。色々と危険な物を投げつけられた事を完全に忘れている。案の定飛翔物が迫り、小陽の頭に直撃した。
小陽の頭にぶつかった瞬間。それは〝ボフ〟という間の抜けた音を放つと音もなく床に落下する。
丸々とデフォルメが施されたニワトリのぬいぐるみが、明後日の方向に微笑みかけている。
「部屋を使わせてもらっておいて何だが、プライベートも尊重してもらえねえかな」
部屋の真ん中辺りに立つアルヴァが、困ったような呆れたような笑顔で言う。
「ごめんなさい」
「あ、いや入る前にノックして俺の返事を待ってもらえればそれでいいあとバリケードはもう撤去したから」
そんな意図はなかったのに小陽が申し訳なさそうにするのに焦り、別段言う必要も無かったであろう事を口にした。
「うん、わかった」
申し訳なさの中にもバリケードがなくなった事への嬉しさのようなものが覗えたような気がした。あえて言葉にするのも決して悪い事ではない場合があるようだ。アルヴァは思った。
後は二、三言簡単なやりとりをし、小陽の嬉しそうな声を最後に会話を終えた。
尚、挨拶にかぶせるように飛翔物がヒットするというのは、小陽がこうして挨拶に来るのをぬいぐるみ片手に今か今かと待ち構えていたという事である。
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この上なく快活な足音がフェードアウトしてしばらく経って、アルヴァは丸々とふくよかなニワトリのぬいぐるみを回収すると、勉強机の上に置いてある便箋を手に取った。
小陽が書いた手紙。今一度読み返す。
〝P.S. アルバさん と お話がしたい かな です。〟
そこでアルヴァの目が止まる。かつては見過ごした彼女の願い。
――一体誰をさんづけで呼んでんだよ。
呆れたように一人苦笑する。
今なら続きが書ける。書くまでもない。
ただ、面と向かって話をするとなれば、正直言って一体何を喋れば良いのかまだよくわからない。
それはともかく、自分と話をするのを望んでいる召喚者が居る。ならば、それに可能な限り応えるのが被召喚者の元々の勤めではなかっただろうか。
彼女にしてしまった事の後ろめたさはある。ならばこそ、それを挽回して余りある幸せを受け取ってもらえるよう努めたい。
時間には限りが有るだろう。決して悠長にはしていられない。
そんな限られた時間の中で。一度忘れてしまった自分達は、これからそれを思い出していくのだろう。
お互いがそうありたいと願い続けられれば、きっと叶うはずだ。
便箋をそっと机の上に置いて部屋を出た。
家族で朝食を食べるために。
<了>
長い間お付き合い頂きまして、誠にありがとうございましたm(__)m




