童謡転生
尻尾がヒトーツ
足フータツ
目ん玉ミーツ
指ヨッツー
腕がイツツーで
角ムッツー
あっという間にー
現れるー
怖い化け物ー
攫われるー
日本の、とある寂れた村で伝わる童謡が子供達によって歌われている。
子供達といっても、もう2人しか残っていない。
少子高齢化の影響や、若者が村から出ていったからではない。
この村の掟はとても厳しく、村から外へ出て行く事は一切許されていなく、村人同士の結婚や子供の出産は他の村より寧ろ多かった。
そのせいで周辺の村から羨ましがられるぐらいに若者が多く残っていた時期があり、周囲の村との合併話が頻繁にあったくらいだ。
当時の村長はその都度首を縦には振らなかったが。
それどころか、周囲の村と隔絶するかのように、交流が段々と減ってきていた。
それから十数年が経ち、他の村がニッチもサッチもいかない状態や消滅していく中、この村の人口も極端に減ってきていた。特に子供〜青年の数が変に減ってきていた。
周囲はその事に疑問を抱いていた。若者は外へ出て行かないのに、何で若者の数が徐々に減ってきているんだと。
何か怪しげなカルト宗教を信仰しているんじゃないかとか犯罪者が村を支配していて少しずつ子供達を殺しているんじゃないかとか村人が子供達を食っているんじゃないかとか神隠しにあっているんじゃないかとか
それにはマスコミも興味を持ち、大都市から取材が頻繁にやってくるようになっていた。
村長が常にマスコミに対応しているのだが、いつも決まった回答しかなく、うちの村には何もないの一遍ばりだった。
積極的なレポーターの男は各村人にインタビューを勝手に仕掛けるも、皆つまらなそうに村長と同じ事しか言わなかった。
テレビでは、当初この村が陰謀論だの何だのに関わっているかもしれないと囃し立てて騒いでいたのだが、最近ではネタが尽きたのか話題が振られなくなっていた。
だがある過激なレポーターはこの村の身辺を独自に探っていた。こんな面白いネタはないと。何かデッカい秘密が隠されているんじゃないかと、執念を燃やしていた。
そして、男は見つけてしまう。
村の公民館の中にある地下秘密階段を。
そして、逸る気持ちを抑えながら音を立てないようにゆっくり階段を降りていく。
すると大きな空洞のある、辺り一面が土で出来た広場が見えてきた。
そこでは2人の子供達が手を繋ぎながら、童謡を歌いながら楽しいそうに舞い踊っていた。
そしてその周りにはこの村の大人達。
全員集まって何する気だ?
足を引きずりながら線を描いていく。
足で円?みたいなものを描いている?
だんだんと出来上がる円を見ているうちに、徐々に円が光り出してきた。
なんなんだこれは???
村長が円を書き終えた途端、光りが洞窟全体にパァと輝いて何も見えなくなった。
くそ、何も見えねぇ。
一瞬で輝きは収まったが、目がまだシパシパする。
で、なんだあれは??????
突然、黒いデッカイ塊が目の前の視界に入っていた。
遠目でもおおよそ10メートルの高さはあるぞ。
目が慣れてきた男は絶句した。洞窟の暗がりで見づらいはずなのにわずかに輝いているせいで全貌が段々と分かっていく。
恐竜の様な大きな尻尾があり、2足で仁王立ちして直立し、3つ目の顔が子供の舞いに集中し、5本の腕が色々なポーズを取っている。そして、2本の角が横から、残り四本が頭上に生えていた。
一体、なんなんだ、なんだんだ、なんだこのイカレタバケモノはよおおお!!!
もはや、パニック寸前の男だったが、そんなものはどうでもいいかのように怪物が口を開いた。
「今年で最後か長老よ」
そして長老は
「長きに渡り、我等一族に御慈悲を頂きありがとうございます。」
「そんな事は我の暇つぶしから始まった事だ、お前が気にすることではない。」
「剣と魔法の異世界への転生は我らが一族の夢でございます。この瞬間が来るというのは我らが一族の夢でございます。この感謝の思いは言葉で尽くせぬ程でございます。」
「まあ、感謝の念はもらっておく。早速始めようではないか。毎回言う事だが、年が15を過ぎるとチートスキルは手に入らないからな。若ければ若い程レアなスキルが手に入るが出産後の子にしか手に入らない。それでも良いのだな?まあ種族は自分で選べて20歳の若さから始められるから2度目の人生を楽しむがよい。成りたい種族名は声には出すなよ。心の中で強く願え。そうすれば、成りたい種族になれる。すまんが記憶は持っていけんぞ。」
「もちろんで御座います。実は皆で次世に成りたい種族を事前に決めているのでございます。皆でまた村を起こそうと考えているのでございます。転生した年齢が違ってくるので、あまり年齢の関係の無い種族をと思っております。」
「そうか、なら始めるぞ!」
5本の腕を村人達の方角に向けると、怪物は何やら謎の言葉を唱えた。すると村人達の次元がグルグルと渦巻いていく。自分の体が捻れてきても、村人達は気にも留めず、寧ろ興奮して、ウオー!と叫んでいる者達すらいる。徐々に渦巻きが加速し、村人のいた場の景色が全て渦巻き切った後、景色が正常に戻った。
そこには何も無くなり、怪物だけが仁王立ちで残っていただけだった。
男の体はブルブルと震え出し、大量の汗を滝のように出しながら、恐怖に怯えていた。
遠目から見たら、怪物と村人達が何やら会話をしていて、怪物が手をかざした場所の次元が歪んで、その場に残ったものは何も無かったからである。
男は、逃げるチャンスがもしかしたらあったのかもしれないが、もうそれは見過ごしている。怪物の三つ目が今此方を睨んでいるのだから。
「見たか?いや、こんな事を聞くのは野暮か。まあいい。お前はこの事を記事にする為にそこで盗み見ていたのだろう。それは止めてくれると助かるんだがな。」
男は勝ち目が無いとみるや、というか怪物の容姿が怖すぎて、顔をブンブンと大きく縦に振る。
「そうか、そうか。まあもし反対していても無理矢理に秘密をバラす事が出来ないようにしていたがな。・・・ほうほう、お前には娘と息子がいるのだな。いやお前の頭を覗いたのだ。これは都合がいい。お前を次の暇つぶしにするのだ。どうだ。面白そうだろう。お前は大冒険をしたくないか?英雄にしてやるぞ。チートスキル付きで。その為には仲間が必要だ。お前にはずっと縁の切れそうにない親友はいるか?」
「え?冒険?英雄?え?腐れ縁のヤツらならいますけど・・・」
「じゃあ決まりだな。そいつら共々、親子共々連れてってやる。なに心配するな。お前達は最初からなかった存在にするから大丈夫だ。それ!」
「ええええええええええええええええ?!」
怪物が5本の腕を男の方にかざすとさっきの渦巻き状態が起こり、どっかから合流したのか、1人の大人の女性、2人の子供、そして大人の男性2人が渦に巻き込まれていた。
そして、最後には怪物だけが残っていた。
「GPを結構男達に使ってしまったな。まあいい、あとは魔王か悪の親玉がいるんだよな。どうやって見つけるかな。」
クックックと笑っていた。