6 雨の気配
翌日、最後の仕入れを終えて宿に戻ってくる頃には、空に雲が多くなっていた。
明日は1日散策を楽しもうと思ってたのに、雨が降りそう。
部屋に戻って荷物の整理をしながらアルフレッドの店で見せてもらった品を思い出す。
飾られた品はどれも大振りで豪華だった。
アルフレッドの作り出す繊細なアクセサリーとは全く違う作り。
はっきり言って時代遅れのデザインのそれらはアルフレッドの父親と弟の手による物。
今は大きな宝石を見せびらかすようなアクセサリーは主流ではないし、それを抜いても古臭いデザインだ。
売れない物ばかり作っていながらアルフレッドの作るアクセサリーを安物と蔑む。
お店が続けられているのもアルフレッドが自分で作ったアクセサリーを売って稼いでいるからだ。
いくら高い石を使っても売れなければ意味がない。
父親のデザインが古いのはある程度は仕方ない。自分が一番職人として輝いていた時代のことが忘れられないのだろう。そういう職人はままいる。
弟の方は父親のデザインを踏襲するだけで自分の色を乗せたデザインを作らない。
そんなところも父親からしたら後継者としてふさわしいと思わせるみたいだった。
後継ぎもなにも、アルフレッドがいなくなれば店は立ち行かなくなる。
今自分達が素材としている石だってアルフレッドが稼いで買った物なんだから。
アルフレッドの周りを取り巻く環境に憤りを感じてもソフィアにはどうにもできない。
どこの工房でもよくある話。
ありふれた話だった。
ソフィアも普段は一々気にかけたりしない。
それでもこうして憤りを感じるのはアルフレッドを好ましく思っているからだと思う。
頑張り屋で、優しくて、強い。
邪険にされながらも家族のために工夫して店を立て直している。
家族の問題は難しい、他人が立ち入るのは問題を拗れさせるだけだった。
この街にいるのも後数日だけ。
次の街で会う人を頭に思い浮かべながら眠りについた。
未明、雨が激しく降り出す。
雨音のせいでソフィアはすぐには気づかなかった。
侵入者が立てる物音に。