26 盗品の証明
「なんで無いのかってウチの商会が買ったからだよ」
後ろから聞こえた声に全員が弾かれたように振り向く。
にやにやと笑みに顔を崩したオリヴァーがそこにいた。
「オリヴァー! どういうことよ!?」
シンシアの声を無視してオリヴァーがアルフレッドに目を向ける。
「なんだやっぱり関係者だったのか」
アルフレッドと弟さんを交互に見て笑みを深める。
どうしてこの状況で笑っていられるのか、ソフィアには理解できない。
「買った? 彼から」
「そう、青光石は今はウチの商会の物ってわけ。
ついでにそっちの奴はウチの見習いってところか。 まだ腕も見てないしな」
ソフィアの耳が青光石の名に反応する。
品物がなんだったかなんて一言も口にしてないのに知っているということは、オリヴァーが青光石を買ったのは間違いないんだろうけれど、よりによって……。
「それは盗まれた物だ!」
アルフレッドが声を上げるけれど、オリヴァーにはそれくらいでは響かない。
「だから? 証拠なんてないだろ」
「流通を証明することはできるわよ」
ソフィアにはどこから買ったか説明できる。
「どうだか。 証言してくれる奴なんているのか?」
「オリヴァー! 貴方!」
シンシアがオリヴァーに詰め寄ろうと足を踏み出す。
肩を押さえてシンシアを止め、ソフィアはオリヴァーに対峙する。
「私に証明できないと思っているの?」
「長引く裁判に出たい奴はいないだろうし、今後取引する相手が減るとわかって裁判に参加する奴は多くないんじゃないか?」
オリヴァーの言い様にソフィアの目が鋭くなっていく。
商会の後ろ盾を使い証言者を脅すと言われては黙ってられない。
「そんなことをしてただで済むと思っているの?
信用を失ってまで青光石一つに拘るなんてどうかしてるわ」
いくら価値があろうと品物一つに信用を賭けるなんて、普通の商人はそんな判断はしない。
「信用なんて勝てば得られるものだろ。 試してみるか? 俺とお前の信用はどちらが高いか」
挑発的な言葉でソフィアを煽ってくるが、そんな挑発に乗るほどソフィアも子供ではなかった。
「オリヴァー。 それをして損を受けるのは貴方もだわ」
裁判沙汰になったなんてけちが付いたものを貴族が欲しがるとは思わない。
青光石は貴重な物だけど他に代えられない物ではない。
いわくつきの品よりは出所のはっきりした物を選ぶのが貴族としては当然の行動だった。
ソフィアの指摘にオリヴァーが顔を歪める。
「盗品を売りつけようとしているなんて噂が経てば貴方もただでは済まない」
そんな噂が立つだけで信頼を失う。リスクを考えたら手を引くべきだ。
なのにオリヴァーはさらに言い募る。どうしてそこまでこだわるのか。
「出所が怪しい物でも需要はあるんだよ。 たとえば懐の寂しい貴族なんかにな」
「あなたねぇ……!」
とうとう耐え切れなくなったシンシアが手を振り払ってオリヴァーの前に立つ。
「商人の風上にも置けないわ! 貴方のしようとしていることは……!」
「はいはい、言うことだけは立派だな」
手を上げてオリヴァーがシンシアの言葉を遮る。
眉を吊り上げたシンシアがオリヴァーに掴みかかりそうになるのをアルフレッドが止めた。
(ありがとう、アルフレッド)
アルフレッドに心の中で感謝を送る。
(どうしたらいいの……?)
このまま帰ったら最悪の予想に向かってしまう。
どうしたら状況が変えられるか。
短い時間でソフィアが考えたのは商人としてはあまりに愚かなこと。
その選択しか浮かばない自分に情けなさを覚える。
けれど自身の葛藤を抑えてオリヴァーを見つめ返す。
「オリヴァー、青光石を見せてくれる?」
「は、何、お前が買うの?」
「さあ? でも商人が品物を見せてくれという言葉を断るわけないわよね」
「あいにくとこれはウチで加工して販売すると決めてるんだ。
石をお前に売るより加工して貴族に買ってもらった方がいいからな」
オリヴァーの返事に歯噛みする。このままでは弟さんを助けられない……。
「あら、貴族がいいのなら私も商談に参加していいのかしら?」
焦りながら交渉を続ける糸口を探すソフィアたちの間に聞きなれない女性の声が割って入る。
オリヴァーのさらに後ろに従者を連れた女性が立っていた。




