25 一足遅く
昨日も来た場所でソフィアたちは足を止めた。
「ここで弟さんを見たの?」
シンシアの問いにアルフレッドが頷く。
走って行った方向も説明する。
アルフレッドが弟さんの姿がないかきょろきょろしているのを見て、シンシアがソフィアの耳元で囁く。
「お姉様、弟さんもしかしてオリヴァーのいる商会に行ったのかも」
「やっぱりそう思う?」
この辺りで一番大きな商会はオリヴァーが雇われている商会だ。
青光石を事前相談なしに買い取れるのはそこしかない。この地区では。
あまり良くない噂も聞くので可能性は低い方だと思っていたが、弟さんは商会の評判なんて知らないかもしれない。
家からあまり出ず、接客などはほとんどすべてアルフレッドが行っていた。
納品の業者とすら交渉したことがないのなら……。
評判を聞くことができなくて、悪い噂のある商会だと知らずに取引を行ってしまうことは有り得る。
慎重な商会なら突然持ち込まれた青光石なんて出所を確かめないと怖くて買い取れない。
商人が相手でないなら尚更に。
「ねえ、お姉様……。 もしかしてあの人がそう?」
考え込みかけたソフィアの耳にシンシアの声が入ってきた。
「え?」
顔を上げると確かにアルフレッドの弟さんがいた。思わず口を押さえる。
今日は逃げられないようにしないと。
そして今日もここで姿を見るということはやっぱり弟さんはオリヴァーのいる商会で取引をしているのかもしれない。
そっとアルフレッドの肩を叩き、弟さんがいることを教える。
走り出そうとしたアルフレッドの手を掴み、首を振った。
「どこに行くのか確かめましょう」
もし宿へ戻るところなら、そこで捕まえて話をすればいい。
頷き返すアルフレッドを先頭に、ソフィアたちは弟さんの後をついて行った。
弟さんが一軒の宿に入っていく。
アルフレッドと目を見合わせてソフィアたちも後を追う。
「デリク!」
アルフレッドが弟さんを呼び止める。
弾かれたように振り返る顔はアルフレッドにはそれほど似ていない。
けれど髪と目の色が二人が血縁だと強く伝えている。
「……?! 何でここに……!?」
「お前を止めに来たに決まってるだろ!」
弟さんの視線がソフィアに向き、驚愕と恐怖に染まる。
逃げようと身体を動かす前にアルフレッドが腕を掴んだ。
「デリク、ソフィアに返す物があるだろう。
今なら間に合う! 返してくれ!」
「どうして兄さんがそんなことを言うんだ。 俺の邪魔をしないでくれ!!」
弟さんは声を荒げてアルフレッドの腕を払おうとするが、アルフレッドは腕を離さない。
「お前は自分のしたことがわかってないのか!!」
「アルフレッドさん落ち着いて」
厳しい叱責にシンシアがアルフレッドを止める。
「ここじゃなくて部屋に行きましょう? 騒ぎになる前に」
ソフィアが最後にひそっと付け足した言葉にアルフレッドが我に返った。
受付の人もこちらを見ないようにしてるけれど、多分聞き耳を立てている。
部屋を案内するように促すと弟さんがとんでもないことを言い出した。
「返せも何も、もう無い……」
「は?」
そう呟いたのは誰だったのか……。
呆然とするソフィアの耳に昨日も聞いた、嫌味に歪んだ不快な声が聞こえてきた。




