22 望まぬ遭遇
まだ顔が熱い気がする。
頬に手を当て動揺を紛らわすようにそっと息を吐いた。
アルフレッドが女性に商品をすすめているところは何回も見ていたけど、自分がされてみるとその威力がわかる。
言葉に嘘がないのもすごい。
いつも相手をよく見て一番似合う物を見せていた。
商品を売るための適当な褒め言葉じゃないのがお客さんたちにもわかるから。
アルフレッドの作品を買っていった人は皆うれしそうに包みを抱えていた。
その気持ちがソフィアにもわかる。
小さな頃の些細な悪口なんてもう気にしてなかったけど、アルフレッドの言葉は心を軽くしてくれた。
熱の篭った瞳は真剣に石を見つめていて、浮かんだ笑みは石を加工する工程を思い描いて柔らかかった。
あんな瞳で微笑みかけられたら勘違いしてしまう女性がいそう。
アルフレッドが作品に掛ける情熱を知っているソフィアでさえそうなのだから。
熱の宿った瞳が脳裏に浮かび上がる。
そんな勘違いをしそうになったことは隠さないと。
知った相手だから余計に恥ずかしい。
(こんなときに何考えてるんだか……)
浮かんだ自己嫌悪を誤魔化すように街の案内をしながら宿を当たっていく。
結果からいうと成果は芳しくなかった。
「どこいっちゃったのかしらね」
近くの宿には泊まっていないようだし、姿を見かけた商店もない。
手持ちのお金がそうない以上、行動を始めていておかしくないと思うのだけれど。
もう話がまとまっている、なんてことになっていないかと不安が込み上げる。
この辺で青光石を持ち込むような大きな店は一つ。
ソフィアはそこに近づきたくない。
かといってアルフレッドを一人で行かせることもしたくなかった。
「一度帰りましょうか」
日は赤みを帯びてきている。
家に戻ってお父様たちの成果を聞きたい。
アルフレッドも焦って無闇に歩き回っても仕方ないと思ったのか躊躇いながらも肯く。
立ち去ろうとしたその時、後ろから声が掛けられた。
「帰ってたのか」
聞こえた声に足が止まる。
「しばらくぶりだな。 王都にもあまり帰ってないと聞いたが、地方を回って小金を稼ぐのは大変そうだ。
お前の名を覚えてる人間もだいぶ減ったんじゃないか?
次期商会の顔として名が知られてる妹とは大違いだ」
落ち着いて見えるようゆっくりと振り返る。
腕を組み、こちらを見下ろすような態度をした男が目に入った。
粘つくような嫌味な話し方は相変わらず……、いや、悪化している気がする。
「久しぶりね。 貴方も代わり映えしないようで残念だわ」
倣って嫌味で返す。
黙っていても嫌味が減るわけではないことはよく知っている。
「お前も相変わらず可愛げがないな」
ふん、と鼻を鳴らす男が口の端を釣り上げる。
「唯一の女らしさだった髪まで短くなって、まるで見習いの小僧のようだな」
肩にも着かない髪を見て笑う男に笑みを返す。
「あら、じゃあ見習いの小僧が近寄ってくることもないわね。 清々するわ」
瞳を捉えて笑うと男の顔が笑みから怒りに変わった。
「調子に乗るなよ! いつまでも自分の方が上だと思ってるようだが、昔の俺とは違うんだ!」
気に入らないことがあると声を荒げるのは変わらない。
子供のときからそうだったなとソフィアが苦い記憶を引き出していると男の視線がアルフレッドに向いた。
「誰だそいつ」
「貴方が知る必要のない人です」
アルフレッドをこんな悪意満載の人に関わらせたくたい。
「商品じゃなくて男を仕入れに行ってたのか?
後継ぎを降ろされて自由にやってるみたいだな。 親父さんもさぞ頭を抱えてるだろうよ」
アルフレッドが前に出ようとするのを手で止める。
意味のない悪口に乗る必要はない。
無言を返すソフィアにこれ以上反応を引き出せないと感じたのか悪態を吐いて男は去って行った。
男の姿が見えなくなって、黙っていたアルフレッドが口を開く。
「ソフィア」
あまり聞かないようなアルフレッドの低い声。かなり怒ってるみたい。
「気分の悪い想いをさせちゃってごめんなさい」
聞いていても気分の悪くなるような雑言だよね、と謝ると声がもっと低くなった。
「俺のことは構わないよ。 あれこれ言われてたのはソフィアの方だろ」
「私は大丈夫よ、慣れてるから」
子供の頃からああだから今更何とも思わない。
「慣れてる、……って、あいつとはどういう関係なんだ?」
ソフィアを立てて黙っていてくれたのでアルフレッドには話しておく。
本当は話題にもしたくないんだけど……、仕方ないと諦めた。
「商会の仕事の関係で子供の頃からの知り合いよ」
関係はそれだけだ。
「アレックスみたいな幼馴染みっていうことかな」
「あいつと親しくしていたことは過去を通して一度もないわ」
昔から会うたびに言い合いになるほど気が合わなかった。
年が上がる毎に言葉は鋭くなって……。
決定的に関係が壊れたのはソフィアが行商を始める一年ほど前。
家同士、商会同士を巻き込んで大きく揉めたことが原因だった。




